odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2011-04-01から1ヶ月間の記事一覧

カール・ポパー「果てしなき探求 上」(岩波同時代ライブラリー)

かつては、トーマス・クーンの「科学革命の構造」を読んで影響を受けたり、1980年代前半の還元主義批判に惹かれていたりしたので、ポパーの科学論は打倒する対象のように思っていた。最近になってパラダイム論に対する批判が起きてきたこと、ニセ科学批判の…

ヘルマン・ヘッセ「世界文学をどう読むか」(新潮文庫) 19世紀ドイツの教養主義が必読とした世界文学リスト。

古本屋で入手。高校生のときに読んだ。読み始めたばかりの文学世界を一覧できるような本を探していたから。世界文学ではこの本に、モームの「読書案内」(岩波新書)を読んだけど、参考にはならなかったな。上下2冊であるのがあたりまえの大作ばかりで歯が立…

尾崎俊介「紙表紙の誘惑」(研究社) ものとしての書物へのフェティシズムは表紙絵の探索に向い、戦争が読書好きを生んだことを発見する。

本はたしかにそこに書かれている内容にほとんどすべての価値があると考えることもできるだろう。ビジネス書やハウツー本なんかは目的とする情報を入手し、それを活用し、情報が古くなれば、躊躇なく廃棄することができる。そういう実用的な目的のものばかり…

松岡正剛「遊学 II」(中公文庫) 31歳が世界の思想家・文学者・科学者・芸術家・宗教家など、著者の琴線に触れた142人を描写したエッセイ。

世界の思想家・文学者・科学者・芸術家・宗教家など、著者の琴線に触れた142人を描写したエッセイ。2割の人は作品を読んだか見たかしていて、6割は名前を知っているだけで、2割は始めて知った人。自分の興味にフォーカスを当てると、登場する音楽家は、バ…

梅棹忠夫「知的生産の技術」(岩波新書) カード型データベースソフトを利用した本と感想文の管理の仕方。

一気通貫。 文章を書くためには、本田勝一「日本語の作文技術」とロゲルギスト「理科系の作文技術」があればよい。考え方を鍛えるには別冊宝島「知的トレーニングの技術」があればよい。これらのルーツはこの梅棹の本といってよいだろう。 とはいえ、僕はカ…

テオドール・アドルノ「音楽社会学序説」(平凡社ライブラリ) 全体主義と文化産業が主導する音楽の有り方の批判。

最初の論文で聴取者の類型を試みている。エキスパート、良き聴取者、趣味型聴取者、ルサンチマン型聴取者、娯楽型聴取者、無関心など。これらの類型はわかりやすい、我々の現状に一致している、それに該当するようなネットへの書き込みがある、など、俗耳に…

テオドール・アドルノ「不協和音」(平凡社ライブラリ) アドルノの考えるあるべき姿の音楽は否定の向こう側にぼんやりと姿をみせているのだろう。

アドルノは過去に何冊か読んでいる(「啓蒙の弁証法」「アルバン・ベルク」「楽興の時」)のだが、とてつもなく難解だった。ところが、ここに収録されているエッセイは非常にわかりやすい。1 音楽における物神的性格と聴取の退化 ・・・ 現代のことを書いて…

小林秀雄「モオツァルト」(角川文庫) 音楽を聴くより音楽について書いた本を読むほうが理解に至る、という戦前の主張。

自分の若いころには大学入試の論文解読の練習のために小林秀雄の「考えるヒント」を読むべし、といわれていた。一冊だけ目を通したことがあり、何が書いてあるのかわからなかった。で読むのを辞めたわけだが、これだけ例外。「モオツァルト」は、少しクラシ…

中野雄「丸山真男 音楽の対話」(文春新書) ベートーヴェンが最高の音楽家であり、ソナタ形式が最高の音楽とするロマン主義的な旧制高校の音楽観。

中野雄という人は「ウィーン・フィル 音と響の秘密」(文春新書)を前に読んでいて、どこかのクラシックレーベルでプロデューサーの仕事をしていることを知っていた。どこかの音楽大学あたりを経由していたのかと思ったが、東大の丸山真男門下というのは知ら…

中野雄「クラシック名盤この1枚」(知恵の森文庫) 「音楽評論家」の権威が落ちたのでマニアの推薦盤を集めたが、文章それ自体が玉石混交。

クラシック音楽を聴くという趣味に入ると、どうしても自分の聞いた演奏のことを語りたくなるものだ。あるいは、自分の聞いた演奏の評価を他人を比べたくなるものだった。かつては、「音楽評論家」を名乗る人たちの文章を読むしかなかった。レコードやVTRの価…

中野雄「ウィーン・フィル 音と響の秘密」(文春新書) 雇用の機会均等の原則が機能していない時代を懐かしむインサイダーの自慢本。

著者はどこかのレコードレーベルの録音技術者かプロデューサー。クラシック分野で仕事をしていたので、ウィーン・フィルやそのメンバーと一緒になることが多かった。ウィーンその他のヨーロッパ諸国や来日公演などいろいろな場所で、演奏−録音をともにしてい…

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー「音と言葉」(新潮文庫) 「芸術」こそが世界統一(あるいは民族統一)の中心になる信念は全体主義運動に敗北する。

クラシック音楽を聴き始めたのが1979年5月。何も知らないままに聞き出し、半年後にはフルトヴェングラーの名を知っていた。その演奏を聴く機会はほとんどなかったが。そして突発的にこの文庫が発売された。さっそく読んでみたが、当時の学力では無理だった。…

フリーダ・ナイト「ベートーヴェンと変革の時代」(法政大学出版局) 20世紀半ばの実証主義研究でベートーヴェン像が変わりつつあるときの評伝。

訳者あとがきによると、たとえばロマン・ロランのような過去の一時代にあったベートーヴェンの伝記と比較すると偉大ではない、ということだ。もちろんこれがいいがかりなのは、作者はそのような偉大で巨大な天才の人物像を描こうという気持ちはさらさらないこ…

ロマン・ロラン「ベートーヴェンの生涯」(岩波文庫) 苦悩する天才、苦悩の果てに勝利を見出す人格の完成者、市民社会のモラリスト、普遍原理の探索者としてのベートーヴェン像を作った古典。

1902年に書かれたベートーヴェンの伝記、というかベートーヴェンに関するエッセイ。このとき録音機器は発明されていたものの商業化はまだまだであって、音楽はコンサートホールで聞くか、譜面を読むか、自分で演奏するか、という時代。交響曲第7番を実際の音…

AdobeAcrobatで自炊PDFのファイルサイズを小さくする

AdobeAcrobatでよい機能を見つけたのでメモ。 ScanSnapで読み取りモードをカラーにすると、ファイルサイズが大きくなる。ときには100MBを超えることもある。このサイズを電子書籍リーダーに入れるのは躊躇するなあ、リーダーのページめくりのレスポンスがど…

野呂信次郎「名曲物語」(現代教養文庫) こういう本で基礎的な教養を付けてから、教養主義批判をしましょう。本書自体はもう古い。

この本を購入したのは、高校2年のときか。実家にはクラシック音楽を聴くという作法はないし、友人にそういう趣味を持つものもいなかった。しかもLPレコードはおいそれと帰るものではない。第一、家にはLPプレーヤーがない。安いポータブルプレーヤーがあ…

都築政昭「黒澤明と「七人の侍」」(朝日文庫) 映画製作の裏話。黒澤明を持ち上げすぎると、別の映画を消してしまうのではないかい。

黒澤明の代表作であり、ルーカス、スピルバーグら後世の映画人に多大な影響を与えた「七人の侍」。撮影日数148日、予算の5倍の費用を投じた大作の製作過程には、いかなるドラマがあったのか。豊富な資料をもとに、日本映画界の至宝ともいうべき作品の誕生を…

猪俣勝人「日本映画名作全史 現代編」(現代教養文庫)

作者は1911年生まれで、戦前の日活だったか東映だったかにシナリオライターとして入社。戦前の邦画黄金時代を経験し、戦後はフリーのシナリオライターとして活躍した人。定年直前ころからは日本大学映画学科でシナリオ作法の講義を行っていた。そういう経歴…

山田和夫「戦艦ポチョムキン」(国民文庫) 映画を見るのが困難だった時代の解説書。

著者は1959年の日本上演を実現した有志のひとり。この映画への思い入れが深く、詳しい調査をしている。 著書は3部構成。 1.「戦艦ポチョムキン」への道 ・・・ 1898年生まれのエイゼンシュテインが映画を作製するまでを描写。あげられるのは、父との確執(…

ベラ・バラージュ「視覚的人間」(岩波文庫) 無声映画で顔と表情を至近距離から見ることができて、人間の真実が明らかにされる。

映画ができて20年目あたりの1925年に書かれた映画論。 一九世紀末に発明された映画カメラは瞬く間に無声映画を創り出した.本書はその無声映画が絶頂への登路にさしかかった時に,クローズアップ,モンタージュを中心にして理論的・体系的に整備した古典的名…

廣澤栄「日本映画の時代」(岩波現代文庫) 1950-70年代の日本映画黄金時代は高度経済成長の大量生産体制と低賃金の過重労働の成果。

1980年を過ぎてから日本映画はダメになったといわれ続けてきたが、どうもそうではなくなってきたらしい。相変わらず文芸ものといわれる分野に見るものはなくても、もっとマイナーな分野ではずいぶん面白く、かつ海外の興行収入のあがるものが出てきた。その…

山崎浩太郎「クライバーが讃え、ショルティが恐れた男 指揮者グッドオールの生涯」(洋泉社) 定年退職間近になってからようやく大衆的な人気がでるようになった不遇で幸運な大器晩成の指揮者。

クラシックの世界にもヒエラルキーがある。大きな歌劇場やオーケストラの責任ある地位についていたり、メジャーレーベルのレコード会社から定期的にCDや映像を販売できるような人たちがヒエラルキーの最上位にいることになる。これらの人はメディアでよく…

イタロ・カルヴィーノ「マルコ・ポーロの見えない都市」(河出書房新社) 過去物語られた書物の中の架空都市を思い出しながら読む架空の都市の物語。

昔書いた文章を発掘したので収録。2001年5月にどこかのサイトにアップしたもの。会員承認制だったと思う。検索しても見当たらないので再録します。 久しぶりのイタロ・カルヴィーノ。マルコ・ポーロがフビライ汗に過去訪問した都市の話をするというもの。物語…

小沼純一「武満徹 その音楽地図」(PHP新書) 没後10年目に書かれた入門ガイド。尖った前衛も慈しむ古典になった。

以下は2005/03/21に書いたもの。 花粉症のもっとも症状の重い数日間になり(毎年3/4に最初の症状が出て、春分の日にピークになる。4/4には症状がなくなる)、鼻炎薬を服薬しているので頭がぼうっとしていて(鼻炎薬は血管収縮作用をもたらす成分を含んでいる…

ドナルド・ミッチェル「マーラー 角笛交響曲の時代」(音楽之友社) 研究者による作曲家30代の作品分析。マニア向け。

1980年代後半に、マーラーの作品が「ブーム」と呼ばれる現象になった。CM(ウィスキー)の音楽に使われ、ある年の同じ月に3つの外国オーケストラが交響曲第5番を東京で演奏し、TVで特集番組が持たれた。その頂点が、シノーポリとフィルハーモニア管によ…

石原俊「いい音が聴きたい」(岩波アクティブ文庫) いい音で聴きたい欲望は他人にしゃべりまくりたい欲望の裏返し

万人に認められる欲望もある境を越えるようになるとそれは狂気に変わる。周囲は不可解に思うが、当人だけは正常と思っているので、説得もできずにあきれるしかない。不思議なことにそういう人生を棒に振りかねないほどの欲望を持つのは、男の方が多い。 ここ…

諏訪内晶子「ヴァイオリンと翔る」(NHKライブラリ) 演奏家になるためのレールはほとんどしかれている時代のサクセスストーリー

世界をステージに駈ける諏訪内晶子は3歳からヴァイオリンを始めた。18歳のとき、最年少でチャイコフスキー国際コンクールで優勝、さらなるヴァイオリンの音を求めて、ニューヨークへ留学。ジュリアード音楽院本科・修士課程卒業、コロンビア大学、国立ベ…

石井宏「帝王から音楽マフィアまで」(学研M文庫) 1990年バブル時代のクラシック音楽業界の裏話。21世紀に業界のビジネスは縮小したが、本書の批判は有効であるか。

著者は音楽学者ということだが、ここでは1990年バブル時代のクラシック音楽業界の裏話を語っている。槍玉にあがっているのは、カラヤンとホロヴィッツ。演奏の内容に関する批判は少なくて(でも下記の非難のあとに返す刀でぶった切っている)、むしろマネジ…

柴谷篤弘「構造主義生物学」(東京大学出版会) 要素還元主義ではない次世代生物学研究のパラダイムを提案。成果が出ていないので盛り上がらない。

2011年3月25日に柴谷篤弘死去(享年90歳)、2011年3月31日にいいだもも死去(享年85歳)。学生のときに二人の講演を企画したことがあり、中華料理屋の打ち上げで話を聞いたことがある。今日は予定を変更して追悼企画。 生物学を勉強するつもりで大学にはいっ…

朝比奈隆「楽は堂に満ちて」(中公文庫) 聖フロリアン教会の唯一無二の出来事の記録。この人は座談がおもしろい。

自分が始めてクラシックを聞き始めたころ(1979年9月)、ブルックナーを特集するFM番組があった。その放送をカセットに録音したものを聴くことによってこの作曲家に愛着を持つようになったのだが、番組のゲストにこの指揮者が呼ばれた。70代はじめの指揮…