odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

林光「日本オペラの夢」(岩波新書) 西洋音楽の方法で、いかに日本語を音楽にのせるか。「こんにゃく座」の挑戦と苦闘。

林光の音楽を聴いたことはそれほど多くない。大河ドラマ「国盗り物語」テーマ音楽とか、NHK教育TVで放送された「セロ弾きのゴーシュ」上演番組録画とか、2枚のCD(ソングと交響曲)くらい。 www.youtube.com 1931年生まれは岩城宏之、外山雄三などが同世代。…

諸井誠「音楽の現代史」(岩波新書) 戦間期の西洋音楽はロマン主義を解体していく過程。

「十九世紀末以降,西洋古典音楽は調性の崩壊,民族的素材の見直しなどにより今世紀前半に多彩な発展をとげた.一九一〇年代のバレエ音楽,二〇―三〇年代のオペラ,三〇年代のバイオリン協奏曲など各時期の代表的作品の検討を通して,歴史の激動とともに音楽…

Numberオリンピック特集号の表紙をならべてみる

Numberのオリンピック特集増刊号の表紙を並べてみる。目で見て楽しむページ。ロス・アンジェルス(1984年) ソウル(1988年) バルセロナ(1992年) アトランタ(1996年) シドニー(2000年) アテネ(2004年) ペキン(2008年) さて今年はだれが表紙になる…

諸井誠「名曲の条件」(中公新書) オリジナリティよりも借用・引用・コラージュを楽しもう。選んで聞こうからなんでも聞いてやろうに変わろう。

さまざまな楽曲をみて、「名曲の条件」を探るという試み。もちろん、「条件」は明示できなかったけど、そのかわりに聞き方とか見方とかそういうものが変わった。 ・英雄の条件 ・・・ 英雄の調性は「変ホ長調」。この調性で「英雄」を描く際に、ベートーヴェ…

諸井誠「ロベルトの日曜日」(中公文庫) 「西洋に追いつけ追い越せ」と「日本伝統を見直せ」を同時にやろうとした昭和一桁世代。

およそ25年ぶりの再読。そうかそれほどの時間がたったのか。最初に読んだときは、わくわくしながら読んで、今度は懐かしさを感じながら。個人的な記憶にある懐かしさであるのと同時に、ここに書かれた1960年後半から70年にかけての音楽事情がそろそろ半世紀…

岩城宏之「楽譜の風景」(岩波新書) しゃべりも文章もうまい指揮者の本のなかで最も面白い。

1983年に岩波新書で初出。永遠の未完成 「第9の謎」 ・・・ 前者(シューベルトの交響曲第7番:当時は第8番)第1楽章の最終音、後者(ベートーヴェン交響曲第9番)は第4楽章の最初の歓喜の歌合唱の最後でティンパニだけがデクレッシェンドするのはおかしい。…

岩城宏之「オーケストラの職人たち」(文春文庫) 本書より「フィルハーモニーの風景」(岩波新書)を読んでね。

晩年の指揮者が「週刊金曜日」に連載したエッセイ。音楽活動の裏方にいる人たちの仕事を紹介したもの。たとえば、楽器運搬、ステージマネージャー、調律師、チラシ配布、そういう人たち。同じような内容を「フィルハーモニーの風景」(岩波新書)で書いてい…

岩城宏之「指揮のおけいこ」(文春文庫) 素人がやりたがる指揮マネは指揮者の訓練にはまったく不要で無駄。知識とテクニックと情熱が必要というにべもない答え。

クラシック音楽を聴いているだけの立場からすると、もっとも魅力的に思えるのは100人のオーケストラを前にしてタクトを振る指揮者。ここにはたとえばカラヤンあたりのイメージ戦略に乗せられているところがきっとあるに違いないにしても(またこのような思い…

セバスチャン・ジャブリゾ「シンデレラの罠」(創元推理文庫) 一人が探偵=被害者=犯人=証人の四役をこなすという仕掛け。

病院で目覚めた娘がいる。彼女は全身を(顔ですら)包帯で巻かれた重傷人だった。それは全身に負った火傷のためであり、彼女の外観は皮膚移植などで元の顔を知らない医師たちによって人工的に作られたものであった。しかも彼女は記憶を失っている。医師たちは…

ミシェル・ルブラン「未亡人」(創元推理文庫) 不倫夫婦で起きた事件。夫視点ではよくあるストーリーを女性視点にしたのが1960年ころには目新しい。

自分の持っているのは1981年印刷のもので、カバーにはNHK銀河テレビ小説「鏡の中の女」の原作であるとクレジットされている。主演は多岐川裕美。1981年8月17日から9月1日までの全20回(1回20分)。自分は未見。 未亡人 ・・・ 貿易商ダニエルは事業は成功して…

ミシェル・ルブラン「殺人四重奏」(創元推理文庫) 意地の悪い女優を殺したと4人の関係者が自白する。誰が本当の犯人?

「人気絶頂の映画女優シルヴィーが殺された。報せをうけた映画監督、脚本家、俳優たちの表情は硬い。素人から、瞬くうちにスターの階段を駆けあがったシルヴィー。傷つかずにやりすごせた者など、はたしていたのか? かくて、殺したのは自分だと皆が言う、巧…

トマス・ナルスジャック「贋作展覧会」(ハヤカワポケットミステリ) 1945年の退屈な日々に文学部教授が書いた贋作探偵小説。

訳者解説によると、これはトーマス・ナルスジャックの第1作。船乗り一家に生まれたが、8歳で空気銃の暴発で片目を失明。長じては文学部の教授に就任。シムノンを読み漁り、1945年の退屈な日々に贋作を書いた。楽しかったらしく、10編たまっていた。さらに同…

フレッド・カサック「殺人交叉点」(創元推理文庫) マザコンの気のある大学生の死から10年、真相を知るものは犯人と母親をゆする。最後の一ページにあるすばらしいトリック。

マザコンの気のある大学生がいる。あるいは母の干渉が過ぎて、意気阻喪しているのか。息子の取り巻きを集めたサロンに学生の友人が集まるが、母は息子に近寄る女を排除する。息子は数人の女を捨てた後、バカンスの最中に殺されてしまった。状況は一緒に死ん…

S=A.ステーマン「殺人者は21番地に住む」(創元推理文庫) 連続殺人犯〈スミス氏〉が逃げ込んだ下宿の怪しげな面々。だれが殺人犯?

「霧深いロンドンの街を騒がす連続殺人。犯人は不敵にも、現場に〈スミス氏〉という名刺を残していた。手がかりもなく途方に暮れる警察に、犯人の住居を突き止めたという知らせが入る。だがしかし、問題のラッセル広場21番地は下宿屋なのだ。どの下宿人が犯…

S=A.ステーマン「六死人」(創元推理文庫) 6人の限られた人物が連続して殺され、最後に残った一人は犯人ではない。

「「世界はぼくたちのものさ!」大志を抱き、五年後の再会と築いた富の分有を約して、世界に旅立った六人の青年たち。月日は流れ、彼らが再び集う日がやってきた。だが、そのうちの一人が客船から落ちて行方不明になったのを皮切りに、一人、また一人と殺さ…

新岩波講座哲学「経験 言語 認識」(岩波書店)

これも20年近く前に読もうとしたもの。中途まで読んで挫折した論文はすっとばして、次のヴィトゲンシュタインに入ったらすらすらと読めた。 仮に同じテーマで論文集を編もうという企画が10年をさかのぼって1970年代にあったとしたら、経験論と合理論から…

新岩波講座哲学「技術 魔術 科学」(岩波書店)

大学卒業後、どこからの関心か忘れたけれど哲学を知りたくなった。たぶん別冊宝島の哲学特集あたりに端緒があり、それ以前に科学論や科学史を読んでいたからその延長になるのだろう。そういうわけで、当時(1985年からだったかな)刊行を始めた「新岩波講座哲…

加藤周一「羊の歌」(岩波新書)

「羊の歌」というのは、著者の生年である1919年が羊年であるからの意。本文中に羊は出てこない。むしろ著者の姿勢は、群れを作り集団で行動する「白い羊」とは別のあり方を示す。むしろ99匹が家に戻ったにもかかわらず、荒野をさまよう一匹の黒い羊であるよ…

加藤周一「雑種文化」(講談社文庫) 日本文化は諸外国の文化を積極的に受け入れて日本的に変容してきた。オリジナルはないから「雑種」。

1950年代にフルブライト留学生として欧米を訪問した経験を持つ著者が、同時代に書いた批評論文集。戦中は東大医学部生でありつつ、中村真一郎・福永武彦らの仏文学生と文学をたしなみ、堀田善衛・田村隆一などとも親交があった(堀田善衛「若き日の詩人たちの…

真下信一「思想の現代的条件」(岩波新書) なぜ1930年代にこの国の哲学徒はファシズムに抵抗できなかったかという反省。

この本の基底にあるのは、1930年代にこの国の哲学徒としてファシズムに対する抵抗(行動でも思想でも)を行うことができなかったこと、「アウシュビッツ」「ヒロシマ」という大規模なジェノサイドが行われたことに対する批判を有効に行えていないこと、これ…

務台理作「現代のヒューマニズム」(岩波新書) ヒューマニズムは社会が複雑化しテクノロジーが発展した現代では変革の力になりえないので、第三の道を探ろう。中途半端な抽象化とロマンティックな理想化のアマリガム。

「ヒューマニズムは,すでに光を失った過去の思想にすぎないのだろうか.破綻したのは個人主義的ヒューマニズムにすぎず,人間疎外が極点に達している現代こそ,人間性回復の転機をふくむものであると著者は主張する.ヒューマニズム思想を歴史的にたどりつ…

渡辺一夫「ヒューマニズム考」(講談社現代新書) フランスのユマニスト文学から「ヒューマニズム(ユマニズム)」を考える。ユマニスムは平凡な人間らしい心構え

サルトルが「実存主義はヒューマニズムである」というと、ハイデガーはそうではないというのであったが(どちらも読んでいない)、ではヒューマニズムは何かというと判然としない。為政者も革命家も自分が「ヒューマニズム」であることは否定しないが、とき…

渡辺一夫「人間模索」(講談社学術文庫) 「人間というものが、狂気にとりつかれやすく、機械化されやすく、不寛容になりやすく、暴力をふるいやすい」という認識が出発点。

「人間というものが、狂気にとりつかれやすく、機械化されやすく、不寛容になりやすく、暴力をふるいやすい」という認識が出発点。言い方を変えると「天使になろうとして豚になりかねない」。なるほど、狂気についてはさまざまイデオロギー(宗教であったり…

渡辺一夫「僕の手帖」(講談社学術文庫) 「寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか」→Yes

著者は東大仏文学部の教授。ラブレー「ガルガンチュワとパンタグリュエル物語」の完訳で有名(全部読んだぜ、すげーだろ、なんも覚えていないけどよー)。あとはこの人の講義を聴くために大江健三郎が四国の山奥から東大仏文科を目指したというのもよく知ら…

鶴見俊輔「戦後日本の大衆文化史」(岩波現代文庫) 1945-1980年の精神史をカナダの大学生に語る。サブカルチャーを題材にして思想史や精神史をかたるという方法の最初(のひとつ)。

「戦時期日本の精神史」につづいて1945-1980年の精神史をカナダの大学生に語る。この時代になると、転向論で分析するのは難しい。代わりに注目するのが大衆文化。マンガに寄席にTV番組に歌謡曲に・・・という具合。だいたい同じ時代に吉本隆明「マス・イメー…

鶴見俊輔「戦時期日本の精神史」(岩波現代文庫) もしもこの国の歴史を全く知らない人に戦時期日本を説明する。カナダの学生向けの講義は21世紀には全日本人向け。

もしもこの国の歴史を全く知らない人に現代史を説明することになったら。その人にはこの国に住む人の常識とされることがまったく伝わらない。「国体」「転向」「226事件」「満州事変」「隣組」「天皇機関説」がそのままでは伝わらない。「ちゃぶ台」「おひつ…

鶴見俊輔「語りつぐ戦後史 III」(思想の科学社) 1967年、リベラル派が戦争体験を語る。第3巻は戦争中に学生かそれより幼少だった人たち。

2012/06/30 鶴見俊輔「語りつぐ戦後史 I」(思想の科学社) 2012/07/02 鶴見俊輔「語りつぐ戦後史 II」(思想の科学社) の続き。 1巻、2巻が戦争中にすでに職業についていた人たち、すなわち自分はいかにあるか(食うか)がはっきりしている人たちだった。3…

鶴見俊輔「語りつぐ戦後史 II」(思想の科学社) 1967年、リベラル派が戦争体験を語る。第2巻も戦前派。60年安保は重大な体験。

2012/06/30 鶴見俊輔「語りつぐ戦後史 I」(思想の科学社) の続き。 都留重人 ・・・ アメリカは戦争の前から日本を対共産主義の橋頭堡とすることを考えていて、占領政策もその方針で行われた。このとき、日本の官僚制度をそのまま利用した。昭和22年ころか…