odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2014-01-01から1年間の記事一覧

マリオ・バルガス=リョサ「都会と犬ども」(新潮社)-2 現在を語る3つの文体と過去を語るナラティブ。文体に仕掛けられたトリックに気づけるか。

マリオ・バルガス=リョサ「都会と犬ども」(新潮社)-1 の続き。 今度は書かれている内容ではなく、書き方について。 ドストエフスキーの小説をポリフォニックというけど、バルガス・リョサの小説もポリフォニック。すなわち、複数の語り手と文体があり、時…

マリオ・バルガス=リョサ「都会と犬ども」(新潮社)-1 1945年。ペルーの士官学校。軍隊生活は少年たちを鬱屈と暴力的なはけ口にむかわせる。

ころは1945年。ペルーの士官学校。どうやら5年制で13歳から18歳前の少年が集まっている。日中は教育と訓練。それ以外の時間も厳しい生活を強いられる。ベッドメイキングに、歩哨に、朝夜の行進に、模擬戦闘に、武器や軍装の手入れに、と息つく暇がない。と…

アレッホ・カルペンティエール「失われた足跡」(集英社文庫)

1953年作。物語の進行は単純なのにとても読みずらかったのは、時間がさまざまに入り乱れているところ。とりあえず、場所を手掛かりにストーリーを見てみよう。情報を詰め込んだ圧縮された文章で書かれていて、読むのに時間がかかった。細部を忘れているので…

アレッホ・カルペンティエール「時とのたたかい」「種への旅」「夜のごとくに」(集英社) 循環する時間、複層する時間、神話と現実のあいまいな境。

このエントリでは短編集「時とのたたかい」について。併録の「失われた足跡」は別エントリーで取り上げる。 聖ヤコブへの道 ・・・ 時は16世紀の宗教戦争時代か。元学生でいまは巡礼のフアンはインディオス帰りの男の話をきき、ペストで死にかけた運命の贖罪…

アレッホ・カルペンティエール「バロック協奏曲」(サンリオSF文庫) メキシコの新大陸の歴史と西洋の歴史が交錯する幻想交響曲でジャムセッション。

18世紀前半と思しきころのメキシコ。巨富を得た鉱山主が、思い立ってマドリッド詣でに出ることになった。先祖をたどればスペインの生まれであろうが、メキシコ生まれメキシコ育ちの鉱山主にとっては故郷に錦を飾るくらいの意であったのだろう。大量の荷物に…

アレッホ・カルペンティエール「この世の王国」(サンリオSF文庫) 史上初の黒人国家「ハイチ共和国」成立までを無学な奴隷視点で描いた。

この世の王国1947 ・・・ 18世紀半ばから19世紀初頭までのハイチの歴史を語る。視点は奴隷ティ・ノエルにある。この志摩は、アフリカ奴隷貿易の中継基地で、フランスの植民地になっていた。ルノルマン・ド・メジーというフランス人の大農園があり、ティ・ノ…

アドルフォ・ビオイ=カサーレス「豚の戦記」(集英社文庫) ブエノスアイレスで突如起きた青年たちが老人を襲い始める「対豚戦争」の顛末。

1960年代末と思しき。ブエノスアイレス、アルゼンチン。この国を簡単に振り返ると、1900年代初頭から移民を受け入れてきた。主に、スペイン、イタリアから。というのも、欧米企業がプランテーション型農園の経営に投資していたから。一時期は好景気。フリッ…

アドルフォ・ビオイ=カサーレス「モレルの発明」(書肆風の薔薇) 「語り手が事実を抜かしたり歪めたりしていろいろな矛盾を犯し、小説の背後に隠された真実は、ごく少数の読者にしか推測することができない」一人称の小説。

ベネゼエラの犯罪者の「私」(終身刑を宣告されている)が怪しげな漁師だったか船員だったかの誘導で、ソロモン諸島にあると思しき無人島に隠れ住む(近くの都市がラバウルだから、この辺なのだろう)。この島は周囲から隔絶していて、船は来ない。人がいない…

マヌエル・プイグ「このページを読む者に永遠の呪いあれ」(現代企画室) モチーフはマチズモの敗北、それによる人生の孤独。映画的な書き方であるが、映画化できない小説だ。

ニューヨークの養護院にいるラミーレスという老人と、彼を介護するアルバイト・ライリーの会話のみで進む小説(最後に数通の手紙が現れる)。ラミーレスはアルゼンチンの労働組合活動家で、投獄・拷問を受け、記憶喪失になり、人権擁護委員会の手によってア…

マヌエル・プイグ「蜘蛛女のキス」(集英社文庫)

これまでの三作では軍事政権の様子は背景にあったが、ここでは前面に現れている。軍事政権は、反政府運動の指導者であるヴァレンティンを捕らえて、組織の情報を聞き出そうとしたが、彼は拷問に屈しない。そこで、同室人のモリーナ(未成年者の猥褻幇助罪で…

マヌエル・プイグ「ブエノスアイレス事件」(白水社)

1973年の第4作。 タイトルからすると探偵小説みたいで、実際に犯罪小説のプロットを借りてそのとおりに物語が進む。とはいえくせもののプイグのことなので、見かけだけで判断すると足をすくわれかねない。 主要な登場人物は二人。女性グラディスは彫刻家の…

マヌエル・プイグ「赤い唇」(集英社文庫)

1969年出版のプイグ第3作。この国への紹介は1990年とちょっと遅れた。文庫本は1994年。 1947年に伊達男のフアン・カルロス・エッチェパーレの死亡記事が新聞に載ったところから始まる。享年29歳で結核にかかっていた(まだ抗生物質は高値で、庶民には買えな…

ホセ・ドノーソ「三つのブルジョワ物語」(集英社文庫) マドリッドのスノッブで小金持ちたちのなんとも空虚で、保守的で無責任なブルジョアを描く。

ホセ・ドノーソはチリの作家。1925年生まれなので、この短編集を書いた1972年は47歳。著作は若いときからあるが、注目されるようになったのは1960年代ころで遅咲き。その間、西洋、メキシコ、スペインなどの国外生活もしているし、カルロス・フエンテスの家…

フリオ・コルタサル「悪魔の涎・追い求める男」(岩波文庫) 中南米という場所への偏執はないパリ在住アルゼンチン作家による「ふしぎ小説」。

コルタサルは1914年生まれ1984年没。ベルギー生まれで両親の住むブエノスアイレスに戻る。戦後にパリにわたり、生涯をフランスで過ごした。この短編集でしか知らないので、断定するのは危険だけど、ほかの中南米の作家ほどに中南米という場所への偏執はない…

カルロス・フエンテス「アウラ・純な魂」(岩波文庫) 母性の強さ。進む時間、ブロック化された時間の解体。引力を持つのはメキシコという特別な場所。

メキシコの作家カルロス・フエンテスの短編集。例によって初出が書いてないが、たぶん初期の作品ばかり。ネットで発表年を調べた。 チャック・モール 1954 ・・・ タイトルはメキシコの雨の神。この偶像が販売されているらしい。キリスト教に反感をもつ小役…

鼓直編「ラテン・アメリカ怪談集」(河出文庫) 古典的な怪談を怖がらなくなった20世紀の怪談。名の知れた人たちばかりの中南米文学の入門書。

1990年の前後に、この文庫は国別の怪談アンソロジーをいくつも出した。ドイツ、アメリカ、フランス、イギリス、ロシア、東欧、中国、日本。そしてラテン・アメリカ。ラテンアメリカ文学はそれまで単行本で出版されていて。サンリオ文庫がまず文庫にした。こ…

ラテンアメリカ文学アンソロジー「エバは猫の中」(サンリオSF文庫)「美しい水死人」福武文庫 20世紀中南米文学の書き手を網羅した入門書。

初出は1987年。中南米文学の単行本は高くて買えなかったので、それこそサンリオSF文庫にしかなく、重宝した。この本に収録された作家を後で追いかけた記憶がある。いや、そんなことを言うことができなくて、とにかく文庫化された中南米文学は片端から買うし…

柳広司「トーキョー・プリズン」(角川文庫) 占領期日本をみるには被害者/加害者の関係がややこしいインサイダーより、国の歴史に無知なアウトサイダーのほうがよい。

1946年の東京巣鴨。ニュージーランドの私立探偵が大戦中に日本近海で行方不明になった爆撃機乗りの行方を調査したいと収容所にやってきた。所長のアメリカ人大佐は、自由な行き来を承認するかわりに、収監されているBC級戦犯容疑者の記憶を取り戻せと要求す…

東野圭吾「マスカレード・イブ」(集英社文庫) 「マスカレード・ホテル」の前日譚。紋切型と古いジェンダー観。

2014年8月に刊行された。この年の夏には、「マスカレード・ホテル」と本作「マスカレード・イブ」の大々的なキャンペーンがうたれ、どうやら売れているよう。販促や宣伝の事情はよく知らないが、入手したので読んでみた。 「マスカレード・ホテル」の主人公…

石川淳 INDEX

2014/08/26 石川淳「普賢」(集英社文庫) 2014/08/25 石川淳「白描」(集英社文庫) 2014/08/22 石川淳「癇癖談」(ちくま文庫) 2014/08/21 石川淳「焼跡のイエス・処女懐胎」(新潮文庫) 2014/08/19 石川淳「おとしばなし」(集英社文庫) 2014/08/20 石…

蓮實重彦/武満徹「シネマの快楽」(河出文庫) 年間150-300本の映画を見ることを数十年続けた二人の対談。傾聴するばかり。

1980年代(83-86年)に雑誌「海」やシネ・ヴィアンのパンフレットに載せた二人の対談。何しろ年間150-300本の映画を見ることを数十年続けた二人なので、傾聴するばかり。映像と音の誘惑 ・・・ 映画に関係する人が映画をみない、映画人が昔の映画(とその関…

佐藤忠男「ヌーベルバーグ以後」(中公新書) 1960年代の非商業映画と独立映画の動向に注目。本書に載った映画を今見るのは困難。

この本の記載にそって簡単に映画史をおさらいすると、なんといっても映画の「本場」はアメリカ・ハリウッド。ここの全盛期は1930-40年代。で、戦後にその他の国の映画が相互に交換、上映されると、ハリウッドとは違った映画に衝撃を受ける人がでた。1940年代…

山田宏一「美女と犯罪」(ハヤカワ文庫) 映画は女と銃であり、犯罪とラブロマンスであることにこだわったエッセー集

以前ベラ・バラージュを読んだときには、彼が注目したほどクロースアップの重要性を認めなかったけど、アクションでもラブロマンスでもコメディでもサスペンスでも、不意に現れる(しかし制作側には計算づくの)クロースアップに見とれることを思い出した。…

「円谷英二の映像世界」(実業之日本社) ゴジラ研究の基礎となる重要文献だが、もっと詳しい情報がネットで取れる時代では好事家向け。

1983年初版。自分は、テレビ番組のウルトラマンほかのシリーズはリアルタイムでみたのだが、東宝特撮映画は乗り遅れた。なので、ほかのサイトなどを参考にこの時代の背景をまとめてみる。 ゴジラシリーズは1975年の「メカゴジラの逆襲」で制作が中止された。…

吉村公三郎「映像の演出」(岩波新書) 技術の本だが、戦前から敗戦後しばらくまでの、著者の経験した映画製作の裏話のほうがおもしろい。

吉村 公三郎(1911年9月9日 - 2000年11月7日)は昭和の初期に映画畑に入り、島津保次郎の助監督としてキャリアを積んで、23歳で監督デビュー。戦争になると徴兵されて、南方戦線に送られる。幸い、兵士ではなく情報部の後方勤務だった。慰問や映画の仕事を…

依田義賢「溝口健二の人と芸術」(現代教養文庫) 他人を自分のいいなりにさせ自分の失敗や過失を認めない日本型経営システムの暴君ぶりを発揮する親分。

溝口健二を紹介すると、1898年生まれ。1920年(大正9年)に日活向島撮影所に入社。24歳にして映画監督デビュー。当時は無声映画。のちに松竹や大映に移った。死去の直前には大映の取締役に就任。ずっと継続して映画監督を続ける。代表作は「滝の白糸」「浪華…

佐藤忠男「黒澤明の世界」(朝日文庫) 1980年代レンタルビデオの時代に自宅で映画を見るときの参考書。

1969年の初出。そのあとに制作された映画の論評を加えて、1986年に文庫化。黒沢監督はその後も映画の製作をつづけたので、「夢」「八月の狂詩曲」「まあだだよ」には触れていない。1990年以降の製作作品は、「黒澤明作品解題」(岩波現代文庫)で言及してい…

小林信彦「日本の喜劇人」(新潮文庫) 1930-1970年代の日本の喜劇役者を言葉で記録する試み。アメリカの喜劇役者と比較するのでとても辛口。

自分の持っているCDに川上音二郎一座の録音がある。これは、パリに巡業に出た川上一座の演目を高座のあいまをみて収録したもの。録音された年はなんと1900年。なにしろ明治の終わりの日本人が喋り、歌うのが聞けるという点で貴重きわまりない(SPはミント状…

ジョン・ディクスン・カー INDEX

2010/11/27 ジョン・ディクスン・カー「夜歩く」(ハヤカワ文庫) 1930 2010/11/30 ジョン・ディクスン・カー「絞首台の謎」(創元推理文庫) 1931 2010/11/26 ジョン・ディクスン・カー「髑髏城」(創元推理文庫) 1931 2010/11/14 ジョン・ディクスン・カ…

竹中労「鞍馬天狗のおじさんは」(白川書院) 映画評論家の書き物では見えてこない映画の諸事情がばくちとオメコ(ママ)好きの役者から見えてくる。

この本によると、戦前の日活には坂東妻三郎、片岡千恵蔵、月形龍之介、そして嵐寛寿郎の4人がいて、それぞれが主役を張っていた。年に一度くらいは共演作が作られて、それはとても人気があったという。とても遅ればせながら、自分も彼ら主演の映画を見るよう…