odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2015-01-01から1年間の記事一覧

フレドリック・ブラウン INDEX

2015/11/30 フレドリック・ブラウン「発狂した宇宙」(ハヤカワ文庫) 2015/11/27 フレドリック・ブラウン「宇宙をぼくの手の上に」(創元推理文庫) 2015/11/26 フレドリック・ブラウン「まっ白な嘘」(創元推理文庫) 2015/11/25 フレドリック・ブラウン「…

内田義彦「社会認識の歩み」(岩波新書) 「ソウル」と「ボディ」をとらえる学問的方法。古代ギリシャからマルクスまでの政治学の知識がないとてごわい。

経済学史家でマルクス経済学者の著者が、市民向け講座で1971年に講義したものをまとめたもの。 はじめに―問題と方法 ・・・ 我々が社会を認識するために、過去の社会科学の遺産をどう生かすかを考える。これはいわばいかにうまく本を読むかに通じる。なお、…

久野収/鶴見俊輔/藤田省三「戦後日本の思想」(講談社文庫)-2 「社会科学者」「知識人と大衆」。1957年の日本の思想地図。

2015/12/23 久野収/鶴見俊輔/藤田省三「戦後日本の思想」(講談社文庫)-1 の続き。 社会科学者の思想――大塚久雄・清水幾太郎・丸山真男 ・・・ ほかに名の出るのは、川島武宜、内田義彦、花田清輝、大河内一男、宮城音弥、渡辺慧、都留重人、南博、磯田進、…

久野収/鶴見俊輔/藤田省三「戦後日本の思想」(講談社文庫)-1 「近代文学」「民科」「心」「生活綴り方サークル」

1957年から中央公論に連載された論文。戦後の日本の思想運動から6つのタイプを抽出する。3人で分担して一人がレジュメをつくって発表。そのあと、3人の対談となる。このやり方はたぶんアメリカのゼミなどではあっても、この国のアカデミズムにはなかった(好…

日高六郎「戦後思想を考える」(岩波新書) 否定され廃棄されたはずの戦前の軍国主義が支配階級の一員になっている

日高六郎は1917年生まれ。戦後東大教授。1968年の東大紛争で辞職。リベラルとして社会運動にいろいろ参加。この本は1970年代後半に書かれたさまざまな文章を再編集して、1980年に出版された。個人的な記憶でいうと、この本に収録された元の文章を雑誌(主に朝…

エリヒ・レマルク「西部戦線異状なし」(新潮文庫)エリヒ・レマルク「西部戦線異状なし」(新潮文庫) 死を無価値化・無意味化する政治と戦争の愚かしさと恐怖を、即物的で淡々としたジャーナリスティックな乾いた文章でつづる。

19歳の少年ポウル・ボイメルはのちに第一次世界大戦と名付けられた戦争に動員される。10週間(短い!)の軍事訓練で、西部戦線に派遣され、フランスやベルギー軍と戦うことになった。同じクラスから数十人も招集されていて、すでに数名は戦死している。そこ…

ジョージ・スタイナー「ハイデガー」(岩波現代文庫)-2 ハイデガーは驚くことの大家であるが、彼は自分の立てた問題に答えることには挫折しているという。

2015/12/17 ジョージ・スタイナー「ハイデガー」(岩波現代文庫)-1 の続き 2 存在と時間 ・・・ (承前)。本来的な自己の回復は、「もはやそこにないこと」に直面することで行なわれる。そのような無において自己の全体性と有意味性を把握することが可能に…

ジョージ・スタイナー「ハイデガー」(岩波現代文庫)-1 ハイデガーの思考はドイツ語に深く根ざしていて、さまざまな創造語・カバン語の翻訳には四苦八苦。

現象学とハイデガーの本(おもには解説書)はいろいろ読んできたが、どれを読んでもよくわからない。むしろ若いときより理解や共感が浅くなっているのではないか、若いときの方がより理解・納得していたのではないかと不安になる。彼の言葉が変わるというこ…

アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-3 時代遅れでトンデモのアーリア的物理学は成果を上げないので、産業界が文句をいって解任させた。

2015/12/14 アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-1 2015/12/15 アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-2 の続き 政権や党に迎合したアーリア的物理学の主張はそれぞればらばらでまとまっていない…

アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-2 ユダヤ人研究者が追放されたので、ドイツの物理学のレベルは低下した。

2015/12/14 アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-1 の続き ドイツの物理学者が国家社会主義に対してとった態度には3つのパターンがある。亡命した者、アーリア的物理学の政治運動を行ったもの、国内にとどまって研究活動を継…

アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-1 ナチスはトンデモのアーリア的物理学を科学政策とした。

アメリカの少壮科学史家による戦間期ドイツの物理学者の動向。1977年出版で、当時著者は32歳。 戦間期ドイツの20年間で重要なできごとはナチスの政権掌握。ファシズム政権が科学統制を行うとき、科学者はどのように対応したかという事例をみる。あわせてナ…

ヘルムート・プレスナー「ドイツロマン主義とナチズム」(講談社学術文庫)-2

2015/12/10 ヘルムート・プレスナー「ドイツロマン主義とナチズム」(講談社学術文庫)-1 続けて後半。 7 伝統の欠如と生の歴史的正当化への要求 ・・・ 1871年に成立したドイツ帝国は経済的繁栄を遂げ、アメリカに次ぐ世界第2位の総生産を達成。それによっ…

ヘルムート・プレスナー「ドイツロマン主義とナチズム」(講談社学術文庫)-1

もともとは1935年に「市民時代末期のドイツ精神の運命」というタイトルで出版された。この中身を正確に示しているわけではないタイトルはドイツ哲学の韜晦趣味もあるだろうが、当時の政権に対する配慮もあっただろう。注意深く設定されたタイトルではあるが…

アントニイ・バージェス「1985年」(サンリオSF文庫)-3 本が捨てられ思考しなくなった人々の社会で、知識を求める「たったひとりの反乱」。

2015/12/07 アントニイ・バージェス「1985年」(サンリオSF文庫)-1 2015/12/08 アントニイ・バージェス「1985年」(サンリオSF文庫)-2 かんたんにストーリーをまとめると、歴史教師のベブ・ジョーンズは組合運動史ばかりを教える公教育にすっかり…

アントニイ・バージェス「1985年」(サンリオSF文庫)-2 労働者が国家公務員になる大多数のワーキングクラスが少数の特権階級と異端者(アノマリー)を抑圧するディストピア小説。

2015/12/07 アントニイ・バージェス「1985年」(サンリオSF文庫)-1 では「1985年」の社会をみることにしよう。 オーウェル「1984年」では人口の1.5%の特権階級が「党」を作って、国家を統制する社会になっている。バージェス「1985年」ではそのような特…

アントニイ・バージェス「1985年」(サンリオSF文庫)-1 オーウェル「1984年」は1937~47年までのイギリスとソ連の関係そのもの。

このエントリーを読む前に、オーウェル「1984年」を読むことをお勧めします。このエントリーは、「1984年」の感想とつながっていますので、先に以下のエントリーを読むことを希望します。 2015/12/01 ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-1 2…

ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-4 全体主義運動は、国家の内と外にいる敵に憎悪と敵意をかきたて、貧困における平等と格差を固定する。

2015/12/01 ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-1 2015/12/02 ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-2 2015/12/03 ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-3 オーウェルが「1984年」でみた全体主義社会は次の…

ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-3 異端者スミスは文化・政治・存在革命を経験して真の革命家になる。

2015/12/01 ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-1 2015/12/02 ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-2 さて、物語は39歳のうだつのあがらない(うだつをあげることがこの社会で可能かどうかはおいておくとして)ウィンストン…

ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-2 国家が実施するニュースピークと二重思考政策で今日より明日が貧困であり教育水準が下がっても、国民は満足する。

2015/12/01 ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-1 日常風景で細部が語られる。物資は極端に少なく、かつてあったものは入手できないようになり、教育水準は年々低下する。人々は労働で疲労していて、少ない余暇も党活動やボランティアや集会…

ジョージ・オーウェル「1984年」(ハヤカワ文庫)-1 終わりのない戦争で強大な権力を持った国家が国民の逐一を監視するディストピア小説。

タイトルの1984年が現実の年になった時、書店には翻訳と原書が山積みになり、雑誌で特集が組まれたりした。当時は、なるほどこの小説の内容は圧倒的ではあるが、その社会描写は現在(当時)のリアルには即していない、というような評価だったように思う。実…

フレドリック・ブラウン「発狂した宇宙」(ハヤカワ文庫) スペースオペラの格好をしたスペースオペラ批判。

SF雑誌の編集者キース・ウィストンが次の号のことに思いをはせているとき、第一次月ロケットがすぐ横数ヤードのところに墜落。その衝撃で失神した後、キースはなんとも得体のしれない世界で目覚めた。細部はまったく現在(1949年当時)のアメリカなのに、ド…

フレドリック・ブラウン「宇宙をぼくの手の上に」(創元推理文庫) 1940年代のSF短編集。ときどき作家に訪れるスランプすらネタにする作家の貪欲さ。

ブラウンの名前には懐かしさを感じる。大人の小説を読み始めるきっかけのひとつが、中学生時代に図書館で借りた星新一だった。彼のショート・ショートを読みふけるうちに、ブラウンの名前を知り、いくつかの短編小説集を読んた。20代になって、彼への興味は…

フレドリック・ブラウン「まっ白な嘘」(創元推理文庫) ミステリーと犯罪小説を収録。1940年代、戦争とそのあとの好景気の時代に人々は不安を感じている。

1953年の短編集。書かれたのは1940年代。戦争とそのあとの好景気の時代(でもアメリカ人は、敗戦国や被災国の支援のための高い税金に飽きている)。ミステリーと犯罪小説を収録。 笑う肉屋 ・・・ 町で嫌われ者の肉屋がリンチにあったという。それは彼の敵対…

フレドリック・ブラウン「天使と宇宙船」(創元推理文庫) SF作品を収録。「センス・オブ・ワンダー」とはこういうもんだ、と自信たっぷりな作者の笑みが見えてくるよう。

1954年の短編集。SF作品を収録。「センス・オブ・ワンダー」とはこういうもんだ、と自信たっぷりな作者の笑みが見えてくるよう。 悪魔と坊や ・・・ ある奇術師の舞台。奇術の途中に火事が起こる。舞台にいた少年は水鉄砲で火を消したのだが、実はそこでは悪…

フレドリック・ブラウン「火星人、ゴーホーム」(ハヤカワ文庫) 「善意」な火星人はアメリカ国外におけるアメリカ人の振る舞いのカリカチュア。

1964年のある日、ヤツらがやってきた。そいつらは全米を震撼させた。そいつらとは、 「かれらは一人の例外もなく、口が悪く、挑戦的で、こうるさくて、胸糞がわるくなるようで、横暴で、喧嘩好きで、辛辣で、不作法でにくったらしく、礼儀も知らず、呪わしく…

フレドリック・ブラウン「スポンサーから一言」(創元推理文庫) ショートショート集。米ソ冷戦、植民地独立運動などの社会情勢をエンタメに反映している。

初出は1958年。書かれた時代はその少し前。中学生のときの初読では意識しなかったけど、当時の政治状況を反映した作品が多かったのだね。まあ、自分の中学生のときには米ソ対立構造は書かれたときと同じように続いていたので、違和感はなかった。21世紀に読…

フレドリック・ブラウン「3、1、2とノックせよ」(創元推理文庫) アメリカの田舎で起きた連続強姦殺人魔事件。4分の3を過ぎてからは怒涛の展開に目をみはらされる。

その町では「痴漢」とよばれる連続強姦殺人魔が暗躍していた。手口は独居独身女性のアパートに入って(荷物や手紙を届けに来たと告げる)、犯罪を犯すというもの。そのため市民はチェーンキーをつけたり、ドアを開ける前に決めておいたノックの回数で合図す…

フレドリック・ブラウン「復讐の女神」(創元推理文庫) 1950年代のミステリーや犯罪小説のアンソロジー。この時代のアメリカの風俗や生活習慣はサスペンスやノワールものにかっこうの舞台。

1963年の短編集。書かれたのは1950年代。ミステリーや犯罪小説のアンソロジー。 復讐の女神 (Nothing Sinister) ・・・ 広告代理店の社員カールは、酒飲みで妻に愛想をつけられている不良社員。会社が倒産しそうだというので、金をおろし、農場を買うと独断…

フレドリック・ブラウン「ブラウン傑作集」(サンリオSF文庫) 星新一が翻訳した傑作集。星新一のやわらかく楽天的な文体はブラウンには合わないけど、入門には最適。

フレドリック・ブラウンの没後5周年を記念したのか、アンソロジーが1977年に編まれた(死亡年は1972年)。それがこの傑作集。編集はロバート・ブロック(@サイコ)。ブラウンの仕事は多岐にわたるが、SFとホラー、ショートショートにかぎって収録したという…

ヘンリ・スレッサー「ママにささげる犯罪」(ハヤカワポケットミステリ) お人よしで、間抜けで、オポチュニストで、打算的なキャラの愚行に読者は優越感を持てる。

「うまい犯罪 しゃれた殺人」が好評だったので、ヒッチコックが編んで1962年に出版された。この国では1970年代に文庫になっていた。 前の短編集ではほめまくったけど、こちらでは、苦情も書いておくことにしよう。 ちょっと辛味のきいた物語だけを読み続ける…