odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2015-01-01から1年間の記事一覧

ヘンリ・スレッサー「うまい犯罪 しゃれた殺人」(ハヤカワポケットミステリ) ヒッチコックのTV番組にするにはちょうどぴったりの原作

1960年にヒッチコックが編んだ短編集。 一編あたりのサイズは、原稿用紙に換算して20枚くらいというところ。登場人物はまあ3人。点描的な人物を入れても10人を越えることはない。物語も、せいぜい1時間くらいのできごとで、途中に時間が飛ぶことがあっ…

モーツァルト INDEX

2015/11/12 ロビンズ・ランドン「モーツァルト」(中公新書) 2015/11/06 ヴォルフガング・モーツァルト「モーツァルトの手紙 上」(岩波文庫) 2015/11/09 ヴォルフガング・モーツァルト「モーツァルトの手紙 下」(岩波文庫)2011/04/23 小林秀雄「モオツ…

本多勝一「日本語の作文技術」(朝日新聞社) 文章を書くための基本技術を手に入れるためにうってつけの指南書。

文章を書くための基本技術を手に入れるためにうってつけの指南書。ここでは小説家や詩人のような美文をつくることや法律・契約書のような特殊な文章の書き手になることは目的に入れていない。文章を書くことで収入を得るこれらの職業につくには、本人の特殊…

ロビンズ・ランドン「モーツァルト」(中公新書) 1991年没後200年記念CDセットの解説集。モーツァルトの見方が変わった時期の啓蒙史料。

1991年はモーツァルト没後200周年。さまざまな追悼・記念企画があった。この国で大規模だったのは、トン・コープマンとアムステルダム・バロック・オーケストラによる交響曲全曲演奏会。都合3回来日したのかな。12月5日の命日には全曲がラジオ放送され、40番…

池内紀「モーツァルト考」(講談社学術文庫) 当時たくさんいた「音楽の神童」の中で今に残るのはモーツァルトただひとり。

モーツァルトを語ろうとすると、不思議なことに書かれた文章は重たくなるか、軽薄になるかで、モーツァルトの音楽にジャスト・フィットしたものはめったにお目にかかれない。小林秀雄やカール・バルト(「モーツァルト」新教出版社)のが重くなった典型だろ…

海老沢敏「モーツァルトを聴く」(岩波新書) 有数の研究者の啓蒙書だが、モーツァルトの音楽を聴く方がずっと楽しい。おもしろい。

小林秀雄「モオツァルト」1946.12から40年弱たつと、モーツァルトを語る方法もずいぶんかわるものだ。もはや敗戦直後のような演奏会やレコード、資料の不足などをいいわけに、足りないところを自分の思想で補う仕方では書くことができない。そのうえ、音楽学…

ヴォルフガング・モーツァルト「モーツァルトの手紙 下」(岩波文庫) 大人子供(チャイルデッシュ)の神童モーツァルトも結婚して子供ができれば大人のシリアスな問題に直面する

2015/11/06 ヴォルフガング・モーツァルト「モーツァルトの手紙 上」(岩波文庫)の続き 下巻は1781年、モーツァルト25歳以降の手紙が収録。この年には、両親とは別行動。ザルツブルグ、ウィーン、パリなど自分の居場所を求めて、西洋の都市を移動する。そし…

吉田秀和 INDEX

2015/10/30 吉田秀和「主題と変奏」(中公文庫) 2012/05/30 吉田秀和「音楽紀行」(中公文庫) 2015/10/29 吉田秀和「二十世紀の音楽」(岩波新書) 2015/10/28 吉田秀和「LP300選」(新潮文庫) 2015/10/26 吉田秀和「今日の演奏と演奏家」(音楽之友社…

ヴォルフガング・モーツァルト「モーツァルトの手紙 上」(岩波文庫) 当時の手紙は音読され回し読みされるのが前提。つづりの間違い、当て字、冗談、下ネタは読む人と聞く人へのサービス。

モーツァルトは生涯に500通余の手紙を書き、現存しているのは300通ほど。そのうちの200通強と関係者の手紙(おもに父)を収録して、2巻の本にした。研究者向けの書簡全集は、手紙のやり取りをした家族・知人その他の返信などを網羅して7巻もあるというから読…

河上徹太郎「ドン・ジョバンニ」(講談社学術文庫) オペラを聴くこと自体が大変な1950年。文献を頼りに評論を書く。

文芸評論の仕事の方が有名な著者のモーツァルト論。収録された論文やエッセイは昭和10年から30年にかけて書かれたもの。タイトルの論文は1950年に書かれた。解説にあるように、昭和20年代のモーツァルト論としては、小林秀雄「モオツアルト」1946、吉田秀和…

吉田秀和「モーツァルト」(講談社学術文庫) モーツァルト紹介の文章としては極めて初期のもの。多面性・多義性を浮かび上がらせるものではないので、好事家向け。

モーツァルト没後200年を控えた1970年にそれまで著者が書いてきたモーツァルト関連の文章をまとめたもの。 2章と3章に集められた文章はほかの本に収録されたことがある。気づいたものは書いておいた。ピアノソナタに関するものは「世界のピアニスト」に入…

奥泉光「シューマンの指」(講談社文庫) シューマンに取り憑かれた人が本体と影、実体とイデアというような二元論の罠にからめとられる。

音楽好きの高校生たちが、シューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」をなぞって同じ名前のグループを結成し、シューマンが作った「新音楽雑誌」と同じタイトルの雑誌を発行しようとする。それくらいにシューマンへの愛情がある連中なのだ。というわけで、この小…

ロベルト・シューマン「音楽と音楽家」(岩波文庫) 19世紀のドイツの音楽趣味に方向付けをした評論集。

ロベルト・シューマンは1810年生まれで、1856年に若くして亡くなった。彼の作品だと、ピアノソロの曲と歌曲が代表になるのかな。「クライスレリアーナ」とか「幻想曲」、「詩人の恋」あたり。人によっては大規模作品の「楽園とペリ」を推すこともある。自分…

吉田秀和「主題と変奏」(中公文庫) 1952年初出の最初の論文集。スタイルを確立していない時期の生硬で観念的な文章。

著者の最初の論文集。1952年に初出。中公文庫に収められたのは1977年。 ロベルト・シューマン 1950・・・ ロベルト・シューマンの特異性について。普通の書き方と異なって、たんに生涯と作品をなぞるのではなく、あわせて、ロマン派音楽についての省察、音楽…

吉田秀和「二十世紀の音楽」(岩波新書) 1957年にみた前衛音楽のレポート。社会学やテクノロジーを音楽評論に入れるようになった。

振り返ると1950年代は古典(クラシック)音楽と現代(コンテンポラリー)音楽の転換点だった。後追いでそれはわかるのであって、その渦中にある者にとっては期待するものであったり、唾棄するものであったり、実験であったり、でたらめであったりしたのだろ…

吉田秀和「LP300選」(新潮文庫) レコードを集めながら西洋音楽史を勉強しよう。

1962年初出。1980年ごろに新潮文庫に収録される際に、付録のレコードガイドを大幅に改訂した。1970年代の趣味(ピリオドアプローチがない、戦前の巨匠が存命など)がとてもよくわかるリストなので、若いクラシックオタクは参考にしてください。 名称の背景に…

吉田秀和「ソロモンの歌」(朝日文庫) 「上手に思い出す」名人が戦前に交友した文学者を回想する。

本人は「上手に思い出すのは難しい」と小林秀雄の言に賛成するのだが、どうして、こうやって作者の書いたものを読むと、「上手に思い出す」名人だなあと思う。彼が思いだすのは、戦前の知り合いとの付き合いだし、過去に聞いた音だし、かつて口ずさんだ詩な…

吉田秀和「今日の演奏と演奏家」(音楽之友社) 1970年のクラシック音楽界概観。著者の文章から観念が消え、比喩で音楽を語るようになった。

1967年から翌年にかけての1年間、著者はベルリンに在住した。この1年間に、ベルリンのコンサートに頻繁にいくわ、演奏家・批評家ほかの音楽関係者と交友するわと大活躍。この期間の経験は忘れがたい印象を残したのか、後年のエッセイでしばしば語られる。 内…

吉田秀和「ヨーロッパの響、ヨーロッパの姿」(中公文庫) 1967-68年にかけてベルリンに滞在していたときの記録。吉田が愛好する芸術を支援する階層がいなくなり、芸術も産業に代わりつつある。

1967-68年にかけてベルリンに滞在していたときの記録。現地に住み、プラハやウィーン、ザルツブルグにもいく。当時のベルリンは壁に囲まれていて、町をでるには飛行機に乗るしかない。その手続きを含めて、50代前半の著者は精力的によくうごく。それにこの時…

吉田秀和「世界の指揮者」(新潮文庫) 20世紀半ばの指揮者を概観。21世紀のおたくはここに載っていない指揮者に興味を持つ。

初出の時から繰り返し読んだので、何回目の再読なのか回数はわからない。クラシック音楽を聴き始めた時に出版されたので、そのあとの音源集めの参考にした。まあ、この本の指揮者のもの、できれば本文で取り上げられたものを購入する、ということをしていた…

吉田秀和「世界のピアニスト」(新潮文庫) 20世紀半ばでのピアニストの概観。著者が感じる美点は21世紀には欠点に見えてくる。

初出は1976年で文庫化は1983年。出たと同時に読んでずいぶん感心した。でも、そのころはピアノの音楽が好きではなかったので(わからなかったので)、勉強用にはしなかったと思う。なにしろ、ここに登場する59人のピアニストの多くはすでになくなっていたし…

吉田秀和「私の好きな曲」(新潮文庫) クラシック中級者になるためのケーススタディを集めたファンの必読書。

まず「LP300選(名曲300選)」を参考にクラシック音楽を聞き出した。5年もすると、300タイトルの多くを聴くことができた。いくつかは難攻不落のような難しさ(たとえばワーグナーの楽劇とかバッハの受難曲とか)もあったが、とりあえずクラシックの大海の概要…

吉田秀和「響きと鏡」(中公文庫) 1980年ころ「西洋に追いつき追い越せ」が達成されると、知的エリートは「日本の伝統」を再発見する。

著者の仕事のなかでは、内容の充実していることで傑出している。著者が主に対象にする西洋古典音楽について、自分もそれなりの聴取体験と勉強を重ねてきたので、必ずしも著者の意見に賛同できなくなっているのだが、このエッセイのように音楽の他のことを書…

新潮文庫編集部編「タイム・トラベラー」(新潮文庫) 古典と大家の作品を除外して1980年代に編集した時間SFのアンソロジー。どれも良質な作品ばかり。

20代のなかばのころ、「時間」のことが気になっていくつか本を読んだ。哲学とか宇宙論とか進化論とかその他いろいろ。この本を選んだのは、その興味の一環だったような記憶がある。空間の広がりは、テクノロジーによって圧縮したり拡大したりして、人間が制…

風見潤・安田均編「世界パロディSF傑作選」(講談社文庫) アメリカのSF小説・映画・コミック・TV番組・ファンジンをよく知ってから読みましょう。

1970-80年代の講談社文庫は後発のためか、海外エンタメ部門では既刊の小説を別訳で出していた。差異化を図るためか、いくつものアンソロジーを編んでいた。すでに品切れになって久しいが、ときどき古本屋で見つかる。そうして手に入れた一冊。編者が読みの優…

ロバート・シルヴァーバーグ「確率人間」(サンリオSF文庫) 強固な宿命論を崩せるのは新興宗教だけ? さて、ここから始まると思ったところで、唐突に終了して肩透かし。

存在がシュレーディンガーの猫のように量子的に変動し、現存在の根拠を失った男。なぜおれは、連続的な存在ではないのか、というような不条理SFかとタイトルから考えた。PKDみたいな狂気の世界が開陳されるのではないか、と。 ところが本書の「確率人間」は…

トーマス・M・ディッシュ「キャンプ・コンセントレーション」(サンリオSF文庫)

まずタイトルから。通常は「コンセントレーション・キャンプ」で使われて「収容所」の意味を持つ。ここでは意地悪く、「キャンプ」に低俗なもの・悪趣味なものを楽しむ趣味倒錯の意味をもたせ、「コンセントレーション」に神経衰弱の意味も含ませる。そのう…

サミュエル・R. ディレイニー「ノヴァ」(ハヤカワ文庫) 超新星から希少元素を奪取するスペースオペラと聖杯物語と「小説を作ること」を主題にした物語が同時進行。

西暦3172年。宇宙的な経済圏はプレアデス星系とドレイク星系に二分され、それぞれの大企業が牛耳っている。プレアデス星系の覇者フォン・レイ家とドレイク星系のレッド家は、事業のバッティングがあり、昔からの因縁が続いている。それにけりをつけるために…

サミュエル・R. ディレイニー「アインシュタイン交点」(ハヤカワ文庫) 遠未来の地球で恋人を探す冒険とオルフェオほかの神話と1960年代アメリカのサブカルがアマルガムになった「摩訶不思議な混沌とした闇黒」。

もともとのタイトルはイエーツの詩からとった「摩訶不思議な混沌とした闇黒」らしい。なるほど、このタイトルはこの小説のある面を示しているが、そのままでは理解されがたいし、なにしろ出版したのはペーパーバックの老舗のエースブックスだ(PKDの初期長編…

サミュエル・R. ディレイニー「バベル17」(ハヤカワ文庫) 異星人との星間戦争に巻き込まれた科学者の冒険とオデュッセイアが渾然一体。主語を持たない言語は実在するか?

異星人との星間戦争。インベーダーが同盟軍の破壊活動をするとき、発信源不明の謎の通信が傍受される。それに「バベル-17」と名づけ、解読しようとしたところ軍の研究所はことごとく失敗。そこで、絶世の美女の言語学者で詩人のリドラ・ウォンに調査が要請…