odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2016-03-01から1ヶ月間の記事一覧

鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-3 中世都市。王権や教権から独立して誕生したので、自治と民主主義で運営されることが多かった。市民は多くの場合、城壁の中に住むものをいう。

2016/03/29 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-1 2016/03/30 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-2 の続き。 中世後期になると、都市ができる。この成立過程も重要。都市もいくつかの類型に分かれる。 その前に商人に…

鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-2 他の文明から遅れること数百年後の9-10世紀に農業革命が起きてから大きな集団を作れるようになる。

2016/03/29 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-1 の続き。 そういう「発展途上国」だったヨーロッパが変わるのは、9-10世紀に農業革命が起きてから。鉄製農具が使われ(中国に2-3000年遅れ、この国とは数百年遅れ)、家畜にひかせて深耕…

鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-1 西ローマ帝国が解体し地中海貿易が止まるとヨーロッパの生産性は低下し、深い森のために人口は増えず移動もできない。

クラシック音楽と科学史の興味からヨーロッパ中世は気になっていた。とはいえ、読書は散発的だったので、しっかりした通史を読むことにする。著者はこの国の1950-60年代の西洋中世史の泰斗。高校の世界史の教師に著者の本を読めといわれたのに、そのときは重…

村田数之亮/衣笠茂「世界の歴史04 ギリシア」(河出文庫) ギリシャは帝国と帝国の<間>を取り持つことによって独立と自治が成立し、都市国家間の牽制と同盟が民主制が維持できた。

ギリシャが世界史に登場するのは、紀元前3000年ころから紀元前200年くらいまで。最初の1000年くらいは記録が少ないので、わからないことだらけ。最盛期は紀元前4-500年ころで、ギリシャ悲劇の黄金時代。ソクラテス、プラトンにアリストテレスの哲学の巨匠は…

岸本通夫/伴康哉/富村伝「世界の歴史02 古代オリエント」(河出文庫) 家族や部族の共同体が順次成長発展したのではなく、国家はいきなり完成形として生まれたらしい。なんという神秘(ミステリー)。

中学や高校の歴史の授業がつまらなかったせいか、古代史には興味を持たなかった。成人後は、せいぜいウィルヘルム・フルトヴェングラーの祖父やアガサ・クリスティの夫が考古学者であるとか、旧約聖書の時代が重なるとかそれくらい。知識として、ナポレオン…

フリードリヒ・エンゲルス「家族・私有財産・国家の起源」(岩波文庫) 男が女を「私的所有」するようになり性の商品化などが起きたという指摘以外は読むところはありません。

19世紀は主に科学の時代であるが、経済学とともに民族学や考古学も研究されるようになる。ギリシャ、ローマ以来のヨーロッパ以外の文化、文明、民族などを「発見」して、より古い、昔の社会や生産のシステムがわかるようになってきた。1884年初版1891年改版…

ジャレド・ダイヤモンド「鉄・病原菌・銃 下」(草思社文庫)-2 第4部は応用編。集団と集団の出会いと変化をさまざまな地域でみる。

2016/03/17 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫) 2016/03/18 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-2 2016/03/21 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-3 2016/03/22 ジャレド・ダイア…

ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 下」(草思社文庫)-1 社会システムや病原菌に対する免疫、技術などの差異がどこから現れたかを検討する。第3部ではヒトの集団に起きたことに関して。

2016/03/17 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫) 2016/03/18 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-2 2016/03/21 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-3 の続き。 第3部ではヒトの集団…

ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-3 社会システムや病原菌に対する免疫、技術などの差異がどこから現れたかを検討する。第2部では、環境と生態に関して。

2016/03/17 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫) 2016/03/18 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-2 の続き。 社会システムや病原菌に対する免疫、技術などの差異がどこから現れたかを検討する。第2部では、…

ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-2 ある集団がほかの地域を圧倒し征服できる要因は「鉄・病原菌・銃」。でもそれだけではない。

2016/03/17 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫) の続き。 著者による歴史の形式化によると、ある集団がほかの地域を圧倒し征服できる要因は「鉄・病原菌・銃」のみにあるのではない。さまざまな要因の因果連鎖で、上巻153ページの図…

ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-1 科学的な知見から西洋由来のシステムや技術や知識はほかの地域にあまねく広まったのだが、なぜ逆ではなかったのかと問う。

科学史を少し読むと、近代の科学技術は西洋でたまたまうまれたものという説明がよく出てくる。14-15世紀の天文学の革命から科学は始まったのだが、革命の前提にはアラビアの知識や道具の伝来などがあり、なるほどあの時期のあの時代に誕生したのは偶然である…

今西錦司「世界の歴史01 人類の誕生」(河出文庫) マルクス主義と今西進化論で書かれた1960年代の人類の誕生物語は古すぎ。

1960年代に出版社は叢書や通史などの巨大な書物をつくることが多かった。その象徴が平凡社の百科事典で、販売の成功(百科事典のセールスマンが団地に営業をかけるというくらい。イギリスの成功例を導入したもの。この国では1980年代頭まであった)にあった…

笠井潔「天啓の器」(双葉社文庫)-2 小説を書くことは日常性に頽落している存在から宇宙的とか超越的とかの存在との交感ないし飛翔を目指す「革命」運動。そうなんすか?

2016/03/14 笠井潔「天啓の器」(双葉社文庫)-1 の続き このような「探偵小説」の謎解きに同時進行するのが、「ザ・ヒヌマ・マーダー」というテキストの話。読者は物理現実にある中井英夫「虚無への供物」を読んでいて、乱歩賞に前半2章で応募され最終審査…

笠井潔「天啓の器」(双葉社文庫)-1 読書前に「ザ・ヒヌマ・マーダー」「尾を食らう蛇(ウロボロス)I」「尾を食らう蛇(ウロボロス)II」に相当する読者の物理現実に存在する本を読んでおけ。

まず諸言で、「ザ・ヒヌマ・マーダー」「尾を食らう蛇(ウロボロス)I」「尾を食らう蛇(ウロボロス)II」に相当する読者の物理現実に存在する本を読んでおくといいとすすめられる。それぞれ、中井英夫「虚無への供物」1964年、竹本健治「ウロボロスの偽書」…

笠井潔「天啓の宴」(双葉文庫)-2 章が変わるごとにどちらがリアルで、どちらが小説なのか、わからないようにしている。地と図、額縁と絵の関係はぐちゃぐちゃになって、決定不能になる。

2016/03/10 笠井潔「天啓の宴」(双葉文庫)-1の続き。 こういう惑わしというのは、作者名のあいまいさにくわえてもうひとつ。とりあえず第2の影山真沙彦版「天啓の宴」は、奇数章と偶数章の語り手がそれぞれ別にいるのだが、それぞれが自分の作品ないし小説…

笠井潔「天啓の宴」(双葉文庫)-1 「天啓の宴」は失われたテキストである「天啓の宴」を探索する物語。

「天啓の宴」は失われたテキストである「天啓の宴」を探索する物語。かつて「作者」を除くと5人しか読まれたことのない「天啓の宴」は、おそるべき影響力を持ち、読者の文学的生命を失わせるにいたった。そして、この因縁深い「天啓の宴」を読みたいと欲望す…

笠井潔「魔」(文春文庫) 私立探偵・飛鳥井の第2短編集。依頼人に介入してセラピーやコーチングを施すセラピストと家政婦は私立探偵に似ている。

私立探偵・飛鳥井の第2短編集。当初の構想では、もうひとつ中編が加わるはずだったが、大きくなりすぎて長編にするつもり。ということだったが、2015年末現在で続編はでていない。 追跡の魔 ・・・ 解説に初出情報がないが、背景にペルー日本公邸占拠事件が…

笠井潔「道 ジェルソミーナ」(集英社文庫) 私立探偵・飛鳥井の第1短編集。ハードボイルド探偵は日本の問題を皮相的にしか捉えられない。

私立探偵・飛鳥井の第1短編集。出版は長編「三匹の猿」がはやいが、短編のいくつかは先にでていて、「硝子の指輪」では飛鳥井の過去が詳しい。 硝子の指輪 1993.05 ・・・ 飛鳥井の初登場作。アメリカでの結婚生活と破綻が詳しく語られる。私立探偵の不安定…

笠井潔「三匹の猿」(講談社文庫) 私立探偵・飛鳥井シリーズの長編。日本の「父」はあまりに弱弱しく象徴的な父殺しができず、母性の甘ったるさに取り込まれる。

私立探偵・飛鳥井シリーズ。現在(2015年)までの唯一の長編。1995年初出。 飛鳥井は1940年半ばの生まれと想像できて、20歳前後の若いころにアメリカにわたり、私立探偵の仕事をする。現地の女性と結婚したが、折り合いが悪く、エイズで亡くなった後、帰国し…

横溝正史 INDEX

2016/02/24 横溝正史「恐ろしき四月馬鹿」(角川文庫) 2016/02/23 横溝正史「山名耕作の不思議な生活」(角川文庫) 2011/01/18 横溝正史「悪魔の家」(角川文庫) 2016/02/22 横溝正史「翻訳コレクション」(扶桑社文庫)「二輪馬車の秘密」 2016/02/19 横…

J・G・バラード INDEX

2016/02/25 J・G・バラード「時の声」(創元推理文庫) 1962年刊行の作者の第1短編集。異常な事態に遭遇したら間違っているのは世界ではなく〈この私〉と懐疑する人たち。 1962年 2016/02/26 J・G・バラード「時間都市」(創元推理文庫) 1962年刊行の作者…

J・G・バラード「第三次世界大戦秘史」(福武文庫) 1990年初出の短編集(10番目?)。外挿した異常事態がリアルになったバブル時代。

1990年初出のバラードの短編集。10番目になるらしい。 War Fever ウォー・フィーバー (1989) ・・・ ベイルートではずっと戦闘・内乱が続いていた。叔母と姉と暮らすライアンは国連平和維持軍の医師と行動を共にするうちに、みなが国連軍のブルーヘルメット…

J・G・バラード「奇跡の大河」(新潮文庫) アフリカの砂漠に突如沸いた水の源を探る始原への旅。アフリカを困窮させ好き勝手する西洋人の傲岸不遜に鼻白む。

西洋で成功することのなかった医師マロリーは砂漠化の進む中央アフリカに国連の一員として派遣されていた。任務は井戸を掘って周囲を農地化すること。彼の試みを拒否するように、採掘しても水源にぶつかることはない。その土地は、軍事政権の政府軍と独立を…

J・G・バラード「ハイ-ライズ」(ハヤカワ文庫) 40階の高層高級住宅が閉鎖されると、人々から民主主義は消え、暴力と野蛮に逆行する。

1960年代のバラードでは、世界の終末は人やその集団の外からやってくるものだった。その暴力的なふるまい、物理学的ないかんともしがたさを前に、人やその集団は降参して、事態が推移するのを緩慢に、無気力に眺めるものだった。そして世界が熱的死で凍りつ…

J・G・バラード「溺れた巨人」(創元推理文庫) 1966年の第5短編集。バラードが好きな場所は「浜辺、海、砂漠、熱帯の密林、眩い庭園、廃墟、ハイウェイー、純白の研究所や病院」

1966年の第5短編集。第4短編集の「時間の墓標」は未読。 The Drowned Giant 溺れた巨人 (1965) ・・・ ギリシャ風の風貌を持った巨人が砂浜に打ち上げられた。撤去されないまま次第に朽ちて、破壊され、持ち去られる。これがSFだとホーガン「星を継ぐもの…