odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2017-07-01から1ヶ月間の記事一覧

都筑道夫「スリラー料理」「ダジャレー男爵の悲しみ」(角川文庫)

角川文庫のショートショート集成。1973年に「悪業年鑑 ショートショート集成3」というタイトルで単行本になった。「ダジャレー男爵の悲しみ」「スリラー料理」との分冊になった文庫版の初出は1980年。ほかに「悪夢図鑑」「悪意辞典」というタイトルでショー…

都筑道夫「にぎやかな悪霊たち」(講談社文庫) オカルト評論家出雲耕平に持ち込まれるいろいろな心霊現象の相談をつるかめコンビが右往左往しながら調べる連作。

オカルト評論家出雲耕平に持ち込まれるいろいろな心霊現象の相談をおれ(鶴来六輔)が右往左往しながら調べる連作。相棒のカメラマンは亀田で、ふたりあわせて「つるかめ」コンビと言われている。ビルには喫茶店ブルブルがあり、アルバイトの由香里ともいろ…

都筑道夫「キリオン・スレイの生活と推理」(角川文庫)

ベトナム戦争のあおりで、ヒッピーなどガイコクジンが多数来ていたこの国(当時は固定相場でドル高円安で、特に米人はきやすい)。キリオン・スレイも何となく日本にきて、アメリカで知り合った青山富雄、通称トニイの家に居候を決め込んでいる。このなまけ…

都筑道夫「キリオン・スレイの復活と死」(角川文庫)

1974年のキリオン・スレイ第2作。キリオンの日本滞在も長くなって、だいぶ達者に日本語を操るようになったが、世間話や推理比べになると、とんちんかんな言葉を持ち出してくる。 ロープウェイの霊枢車 ・・・ 女性モデル3人とカメラマン、編集者が富雄とキ…

都筑道夫「キリオン・スレイの再訪と直感」(角川文庫)

1978年のキリオン・スレイ第3作。タイトルを「〜〜が死につながる」と統一するのは、スタイリッシュな作者の趣味の発露だろう。「全戸冷暖房バス死体つき」、「妄想名探偵」、泡姫シルビアシリーズが同じ趣向でタイトルをまとめている。 如雨露と綿菓子が死…

都筑道夫「キリオン・スレイの敗北と逆襲」(角川文庫)

あれ(前作「キリオン・スレイの再訪と直感」1978年)から何年たったのか、キリオン・スレイはアメリカに戻っている(1983年初出)。オキソーローの青山富雄(トニイ)も翻訳家として独り立ち。今日は、ニューヨークツアーのガイドとして観光客5人を連れて…

都筑道夫「神州魔法陣 上巻」(時代小説文庫)-1

腕の良い掘り細工師の巳之吉、正体不明の浪人の内藤端午、未来予知能力のあるお近らが、30年前に死んだ平賀源内の野望を食い止めようとする。死人を操り、付け火に殺人を繰り返す彼らの目的は得体が知れない。それぞれ異能を持つが、強大な敵組織には歯が…

都筑道夫「神州魔法陣 上巻」(時代小説文庫)-2

2017/07/21 都筑道夫「神州魔法陣 上巻」(時代小説文庫)-1 1978年 京が事件の焦点であり、そこにいるはずの若侍と会うことが必須の事項、しかしながら死の可能性も高まっている。事件を知るのは彼らのみとなると、旅に出ざるを得ない。徒歩の旅では道中さ…

都筑道夫「神州魔法陣 下巻」(時代小説文庫)

2017/07/21 都筑道夫「神州魔法陣 上巻」(時代小説文庫)-1 1978年 2017/07/20 都筑道夫「神州魔法陣 上巻」(時代小説文庫)-2 1978年 源内らの妨害はいよいよ激しくなる。端午らは旅程を進みはしても、敵の意図を挫くには後れを取っているのではないかと…

都筑道夫「フォークロスコープ日本」(集英社文庫) 過去現在未来を一覧する日本民話絵図。じっくり一行一行につきあう読書をしましょう。

フォークロスコープは作者の造語で,、フォークロアとスコープをくっつけ、過去現在未来を一覧する日本民話絵図といったつもりだそうな。短編は別々の雑誌に、時期を変えて収録されたが、初出年は作者の記憶で書いた解説に基づくので不正確(昭和37-8年とあっ…

都筑道夫「ミステリイ指南」(講談社文庫)

本多勝一「日本語の作文技術」(朝日新聞社)や木下是雄「理科系の作文技術」(中公新書)で、文章の書き方や論理構成を勉強したとする。そのあと、小説を書きたいと思ったときに、どうやって小説を書くかを知りたいと思う(いきなり始めると、たいてい途中…

中南米文学 INDEX

2014/11/04 アドルフォ・ビオイ=カサーレス「豚の戦記」(集英社文庫) 2014/10/31 アドルフォ・ビオイ=カサーレス「モレルの発明」(書肆風の薔薇) 2014/11/10 アレッホ・カルペンティエール「失われた足跡」(集英社文庫) 2014/11/07 アレッホ・カルペ…

今津晃「世界の歴史17 アメリカ大陸の明暗」(河出文庫) 西欧が植民地経営にこだわったカリブ海周辺と南アメリカは停滞し、手を引いた北アメリカは奴隷制があったために発展した

中南米文学を読んでいながら、ラテンアメリカの歴史を知らないのに気付いて、手軽な通史を読むことにする。 アメリカの歴史は15世紀の西洋による「発見」以降として書かれないのは不幸で、不当なこと。マヤ文明やインカ帝国の長い豊かな歴史があるはずなのに…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「汚辱の世界史」(岩波文庫) 断片であって、全体は判然としないとしても、そこにはすべてが書かれている、その断片でもってその小説世界のすべてはわかる。

ボルヘスについてはたくさんの研究本がでている(たとえば、持っているのに雑誌ユリイカ1989年3月号「ボルヘス」がある)ので、素人読者の自分がなにかを訳知り顔でなにごとかいうこともあるまい。 集英社文庫の「砂の本」には、「汚辱の世界史」ほかの短編…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「伝奇集」(岩波文庫)「八岐の園」 伽藍のすばらしさに感嘆させておいて、足元をすくって、どこにも足場とか根拠がないのを示し、読者を不安にさせて、そのまま終結。

ボルヘスの(たぶん)真骨頂である短編集を読む。 八岐(やまた)の園(1941年) プロローグ ・・・ 「長大な作品を物するのは、数分間で語りつくせる着想を五百ページにわたって展開するのは、労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。よりましな方法は、それ…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「伝奇集」(岩波文庫)「工匠集」 一個の固有名にたくさんの情報を圧縮。固有名から広がる連想やイメージが豊穣にあり、読者が想像を楽しむ。

工匠集(1944年) プロローグ ・・・ 「出来は多少ましだが、この本の作品は前の本におさめられた作品と同工異曲である。」とはなんと御謙遜を。「ショーペンハウアー、ド・クィンシー、スティーヴンソン、モースナー、ショー、チェスタートン、レオン・ブロ…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス/アドルフォ・ビオイ=カサーレス「ボルヘス怪奇譚集」(晶文社) 二人の書淫(解説者の言)が図書館中の本を読み漁って、「物語の精髄」を精選した92個。

二人の書淫(解説者の言)が図書館中の本を読み漁って、「物語の精髄」を精選した92個。その作者にはチェスタトン、モーム、スティーブンソン、モーム、ヴァレリー、Oヘンリー、カフカというなじみの名前もある一方、知らない中国やイスラムの物語作家の名前…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「ブロディーの報告書」(白水社) 登場人物はブエノスアイレスのならず者か、草原地帯のガウチョたち。1900年から1930年ころまでのマッチョな連中の物語。

1970年。作者70歳。登場人物はブエノスアイレスのならず者か、草原地帯のガウチョたち。1900年から1930年ころまでのマッチョな連中の物語なので、とりあえずBGMは、Carlos Gardelの歌とAstor Piazzollaの「El Tango」にしてみた。初期タンゴのスターである前…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「砂の本」(集英社文庫) 極度に圧縮されて乾いているような文体と、非歴史的な時間と、「奇妙な味@江戸川乱歩」風の作風。

集英社文庫版は「砂の本」と「汚辱の世界史」の合本。このエントリーでは、13の短編からなる「砂の本」を読む。1975年初出。 他者 ・・・ 1969年、ボストン近郊ケンブリッジで、懐かしい歌の一節をうたっている青年がいた。70歳の「わたし」は青年にこえをか…

イサベル・アジェンデ「神と野獣の都」(扶桑社文庫) インディオという異郷・異文化のルールや世界認識を自覚し、自分の住む世界の変革を志す。英雄は西洋化された世界では異端であり、孤独。

「アメリカ人少年アレックスは、母の病いに意気消沈する、気弱な15歳。そんな彼が、ひょんなことからアマゾンへの探検隊に参加する羽目に!探検の目的は、謎の人間型生物「野獣」の探索だ。アレックスは、同じ年ごろの少女ナディアと出会い、現地の呪術的…