odd_hatchの読書ノート

エントリーは2800を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2022/10/06

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

アガサ・クリスティ「白昼の悪魔」(ハヤカワ文庫)

西イングランドのスマグラース島。ここのジョリー・ロジャー・ホテルは有名ではないが、名ホテルとして知られている。満潮には孤立するので、海水浴場や海岸などに一日限りの観光客が来ることもあるが、ふだんはホテルの宿泊者だけしかこの島にはいない。193…

アガサ・クリスティ「ゼロ時間へ」(ハヤカワ文庫)

Toward Zero(原題。最初の邦訳タイトルは「殺人準備完了」だった。1950年代の探偵小説エッセイにはこの名で出てくる)の解説は福永武彦の「ソルトクリークの方へ@深夜の散歩」に尽きているので、それを読むのがよい。本書に収録されている(改版されたクリ…

アガサ・クリスティ「ヘラクレスの冒険」(ハヤカワ文庫)-1

とても懐かしいのは、ハヤカワミステリー文庫が創刊されたとき、とても初期に刊行された一冊だということ。そのときはクイーンやカーに目が向いていたので、手が回らなかった(金がなかった)が気になっていた。40年たってようやく読む。 ことの起こり - For…

アガサ・クリスティ「ヘラクレスの冒険」(ハヤカワ文庫)-2

2020/07/28 アガサ・クリスティ「ヘラクレスの冒険」(ハヤカワ文庫)-1 1947年の続き。後半。 クレタ島の雄牛 - The Cretan Bull(1939年) ・・・ 婚約者が突然婚約を破棄するといいだした。代々男に狂気が現れる呪われた一族だから。最近は悪夢を見て(凶…

アガサ・クリスティ「予告殺人」(ハヤカワ文庫)

イギリスのローカル新聞に「殺人お知らせ申し上げます」の広告が載った。現場となる家ではまるで思い当たらない。しかし当主である老女が落ち着いて、みんな好奇心いっぱいで来るだろうから、お茶と軽食の準備をしなさいと命じた(たぶんイギリスの家庭料理…

アガサ・クリスティ「葬儀を終えて」(ハヤカワ文庫)

大富豪のアバネシー家の当主リチャードが亡くなった。葬儀を終えて、遺言状が公開されたとき、妹コーラが無邪気な顔で口走った。「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」。その翌日、コーラはなたで頭を割られた惨死体となって殺された。遺言状の内容…

アガサ・クリスティ「ポケットにライ麦を」(ハヤカワ文庫)

投資証券会社のオフィスで、社長が突然倒れた。このシチュエーションはクリスティには珍しいとおもったが、次の章ではロンドン郊外のアッパークラスの屋敷に切り替わり、物語のほとんどは屋敷の中で進む。1953年なのに、古めかしい意匠でした。 さて、投資証…

アガサ・クリスティ「死への旅」(ハヤカワ文庫)

邦題は内容に比べて邦題は大げさで、原題は「Destination Unknown」とクレジットされていて「先行き不明」のほうがストーリーにあっているとおもっていた。調べたらアメリカでのタイトルが「So Many Steps to Death」だったのね。アメリカのタイトルの軽薄さ…

アガサ・クリスティ「ヒッコリー・ロードの殺人」(ハヤカワ文庫)

ポアロは秘書のミス・レモン(そんな人いたんだ! ちなみにこのころヘイスティングスとはしばらく会っていないとのこと)のミスに驚く。聞くと、姉が仕事をしている学生寮(主に学生を対象にした私設の賄付きの寮。大学が作ったのものではない)で窃盗が頻繁…

アガサ・クリスティ「死者のあやまち」(ハヤカワポケットミステリ)

事務所で無聊を囲っているポアロのもとに電話がかかる。秘書のミス・レモン(「ヒッコリー・ロードの殺人」に登場)がとると、女声探偵作家のアリアドニ・オリヴァから「すぐ来て」とメッセージが入って、切れてしまう。ポワロはため息をついて、ロンドン近…

アガサ・クリスティ「無実はさいなむ」(ハヤカワ文庫)

田舎の資産家アージル家では2年前に殺人事件が起きていた。慈善事業家で莫大な資産をもつレイチェル夫人が息子と言い争いをした直後に殺されたのだった。言い争いをした息子が犯人ということになり、事件は解決し、息子は獄中で病死した。あるとき、アージル…

アガサ・クリスティ「カリブ海の秘密」(ハヤカワ文庫)

リューマチの痛みがあるマープルに甥のレイモンドがカリブ海の島で過ごす休暇をプレゼントした。あいにく、カリブ海の気候はあまりマープルにはふさわしくない。それにイギリス人夫婦の経営するゴールデン・バーム・ホテルの宿泊人も退屈だった(経営者のせ…

アガサ・クリスティ「バートラムホテルにて」(ハヤカワ文庫)

初出の1965年といえば、ル・コルビュジェ風のモダニズム建築が最盛期。新築のビルは箱の組み合わせで装飾がない。機能的であることを徹底して、建築作業を合理化することが新しい人間と資本主義に合うという考えになるのか。そういう建物はこの国でも同じ時…

アガサ・クリスティ「第三の女」(ハヤカワ文庫)

ポワロを訪れたのは、心ここにあらずというようなぼんやりした若い娘。「あたしは殺人をしたのかもしれない」といって、何も相談せずに出て行ってしまった。この娘を、ポワロの友人のアリアドニ・オリヴァが知っていた。なのでポワロは気になり、娘の両親や…

アガサ・クリスティ「親指のうずき」(ハヤカワ文庫)

なるほど、クリスティがハードボイルドを書くとこうなるんだ、という感想。本書初出の1968年から12年もたつと、離婚し独立して拳銃をしのばせて街をうろつく女性私立探偵がでてくるものだが、この時代ではまだ独力で暴力に対抗するまでには至らない。それで…

アガサ・クリスティ「復讐の女神」(ハヤカワ文庫)

80歳になったミス・マープル(著者クリスティも同じ年齢)は、リューマチで手がこわばり、きびきびと動くことはかなわない。なにより友人や知り合いはことごとく世を去り、おしゃべりを楽しむ相手はいない。セント・メアリー・ミードで村人を観察する喜びは…