odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-3 存在の苦悩、生の悲哀」の弾劾はついに時空や宇宙を超越するものを召喚するまでにいたる。

2021/06/01 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-2 1984年の続き 「より重苦しく鈍くより厳しい響きが何処からともまったく解らずゆっくりと『違うぞ』」と響いてくる。「この影の影の影の国の果てにあるその長さも見届け得ぬほ…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第八章 《月光のなかで》-1 第2日夜。存在は数字1であるが、虚在ないし虚体は無限大であって、自らは満たされていないので、創造的な変幻をおこなう。

2021/05/31 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-3 1984年の続き 第八章 《月光のなかで》(第2日夜) 第6章の終わりで集まったもののうち、そのあとの行動は首だけが第七章で語られた。第八章ではほかの人たちが語られる。すな…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第八章 《月光のなかで》-2 「或る霊性をもってこちらを眺めている「ひと」の顔」に全体の緊張から一気に解放されるカタルシスを覚えるが、男には顔は見えない。

2021/05/28 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第八章 《月光のなかで》-1 1986年の続き そこまでの話をしたところで、外に出た安寿子は首と与志が歩いているのを見かけ、さらに父・津田康造もいるのを知る。 長身の黒川の影をみて「高志さん?」と…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第九章《虚體》論―大宇宙の夢-1 第3日朝、安寿子18歳の誕生日。なぜ男と女があるのか。

2021/05/27 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第八章 《月光のなかで》-2 1986年の続き 第九章《虚體》論―大宇宙の夢(第3日朝) 当日は安寿子18歳の誕生日(成年を認められる日)。津田家に安寿子が呼んだ列席者が集まり、舞踏会も行ったホールの…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第九章《虚體》論―大宇宙の夢-2 この「私」を笑う未出現者と「全宇宙はじめての創出」。

2021/05/25 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第九章《虚體》論―大宇宙の夢-1 1995年の続き 黒服のいうこの「私」を笑う未出現者は、たとえば受精しなかった精子。受精の競争で数億の精子からひとつだけが選ばれて、ほかの精子はなににもならない(…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第九章《虚體》論―大宇宙の夢-3 日本語の限界が探求の限界。「死霊」全巻を読んでも、存在の無根拠さと孤独を克服できない。

2021/05/24 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第九章《虚體》論―大宇宙の夢-2 1995年の続き とはいえ、五日間の物語は三日目にようやく至ったにすぎない。登場人物たちのアクションで行く末の分からないままになったことはたくさんある。首猛夫は津…

川西正明「謎解き「死霊」論」(河出書房新社)-1 埴谷雄高の担当編集者でのちに文芸評論家になったものによる「死霊」論。

2か月かけて埴谷雄高の書いたもの(「文学論集」「政治論集」「死霊」)を読んできた。総仕上げは、埴谷雄高の担当編集者でのちに文芸評論家になったものによる「死霊」論。60年代後半に埴谷雄高の本を作ることから始まり、埴谷雄高の仕事の協力者として信頼…

川西正明「謎解き『死霊』論」(河出書房新社)-2 死んだ黒川の屋根裏部屋を訪れた高志の前に夢魔や一角犀・節子、社会運動組織の同士、高志の部屋に出ていた名を知らない亡霊が現れる、はずだった。

2021/05/20 川西正明「謎解き「死霊」論」(河出書房新社)-1 2007年の続き この長大な小説をおもに「存在」「虚体」をめぐる議論を批判しながら読んだ。なので「謎解き『死霊』論」を読んで、登場人物たちの関係や行動で読み漏らしたところがあったことに気…

野間宏「暗い絵・崩壊感覚」(新潮文庫) 普遍的な青春のテーマの小説だが、戦争体験と新しい文体が小説の革命になった。

今回読んだのは新潮日本文学の39巻「野間宏集」。新潮文庫で読んだことはあるが、手放したので同じ作品が収録されているかは不明。 暗い絵 1946 ・・・ 近衛が「東亜新秩序の建設」声明を出したというから1938年ころか。その5年前の滝川事件で京都大学の左翼…

佐倉統「進化論という考えかた」(講談社現代新書) 進化論のエッセンス(突然変異、適応、自己複製)で文化現象まで進化論で説明可能かも。でも「多分野への関心と自然への謙虚」だけでは不足だと思う。

自分の進化論の知識は1980年までで途絶えている(そのあとに紹介されたビッグネーム、たとえばドーキンス、グールド、ウィルソンなどを読んでいない)ので、手ごろな新書で補完することにする。著者・佐倉統はたとえば別冊宝島「進化論で愉しむ本」で名前は…

マーク・トウェイン「トウェイン短編集」(新潮文庫) 貨幣の秘密に肉薄する好短編が二つ収録

初出が解説に書いていないが(いつ書かれたかの情報は必須!)、最後の中編を除いて1860年代、作家初期のものらしい。 私の懐中時計 ・・・ 正確無比な懐中時計が時を正しく刻まなくなったので、修理してもらう。そのたびに、ますます正しい時刻(とは何か)…

マーク・トウェイン「不思議な少年」(岩波文庫) 宇宙的な死を持ち出して人間の無価値を説く「サタン」はネットによくいる冷笑主義者にそっくり

トウェイン最晩年の作(出版は死後の1916年)。 1590年のオーストリアの片田舎。教会が町の中心で、町長もいるが神父の権威が強いころ。3人の子供が遊んでいるところに、「サタン」を名乗る美少年が現れる。古今東西の面白い話をして子供らを魅了したが、不…

マーク・トウェイン「人間とは何か」(岩波文庫) ゆたかな人々・満足した人々@ガルブレイスが語る冷笑とニヒリズム

1890年代に書かれ、私家版として1904年に出版。正式出版は没後の1917年。 老人が青年に語る。いわく、おまえの信じている人間の権威、尊厳、崇高さなどはないのだよ。なんとなれば人間は外的諸力に強制的に動かされている機械なのであるから(この「機械」は…

オー・ヘンリー「傑作集」(角川文庫)-1「賢者の贈りもの」「献立表の春」「二十年後」 作家がもっとも旺盛に書いていたのは日露戦争の前後のころ。ときどき背景に現れる。

O.ヘンリは昭和の時代にはよく読まれていた。高校時代に新潮文庫の3冊本を読んだが、今回は角川文庫が1969年に改版したものを読む(翻訳は1950年代だろう)。 作者名はペンネーム。30代にこういう短い話で大人気になり(当時、週刊誌が流行していて、平易…

オー・ヘンリー「傑作集」(角川文庫)-2「最後の一葉」「パンのあだしごと」「赤い酋長の身代金」 人間の見方がシニカルで敬意を払うことがない。

2021/05/07 オー・ヘンリー「傑作集」(角川文庫)-1 の続き オー・ヘンリーは数年の間に380編のショートショート(という言葉はまだなかった)を書いた。おおざっぱに、ニューヨークもの、中部もの、南部もの、中米ものに分けられるという。そのうち出来が…