odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

国枝史郎「蔦葛木曽桟 上」(講談社文庫) 筋が脇にそれまくり、人間関係を把握できないことにあるが、あわせて正邪、善悪の二分法がわからない。

タイトルは「つたかずらきそのかけはし」と読む。長らく講談社文庫大衆文学館だけでしか入手ができないかと思っていたが、青空文庫に全文がアップされていた。労多謝。 www.aozora.gr.jp 「講談雑誌」博文館に1922(大正11)年9月から1926(大正15)年5月ま…

国枝史郎「蔦葛木曽桟 下」(講談社文庫) この世の悪を懲らしめ世界をまき直す知恵と力を求める旅はエスカレーションし、いつまでも上のレベルが現れ続け、家に帰りつけなくなる。

2022/2/28 国枝史郎「蔦葛木曽桟 上」(講談社文庫) 1922年の続き さて下巻。 父の仇木曽義明の寵姫になりすまし、義明を翻弄する美女鳰鳥(におどり)だが、俗界に失望して城外へ脱出する。そして彼女は人外の世界に迷いこみ、不思議な体験をする。一方、…

国枝史郎「沙漠の古都」(青空文庫) パリに怪獣現るがロブ湖の秘宝探しになり、ボルネオの有尾人と怪獣調査になって、探検隊は存在を忘れられる。

パリに怪獣現る! その報はレザール探偵のもとに届き、もう一人の高名な探偵ラシイヌとともに調査を開始する。最近冒険から帰還した市長はあおざめて口を閉ざし、もう一人の相棒動物園長はついに怪獣の襲撃を受ける。という具合に、ルブランか「ジゴマ」あた…

国枝史郎「神州纐纈城」(講談社文庫)-1 永禄元年(1558年)、恐怖の源泉・纐纈城と富士教団神秘境を半人前の青年がうろつき、追いかける人が騒動を起こす。

「纐纈(こうけつ)」は耳慣れない言葉であるが、由来は「慈覚大師纐纈城に入り給ふ事(「 宇治拾遺物語」巻第十三)」にある。作品中に全文引用されているが、読みにくいかもしれないので、リンク先の現代語訳を読んでおこう。聞くだに恐ろしい話。近世より…

国枝史郎「神州纐纈城」(講談社文庫)-2 善と悪の理念の対立はうやむやになり、己の肉体を嫌悪するものは克服が可能か。というところで永遠に中断した。

2022/02/23 国枝史郎「神州纐纈城」(講談社文庫)-1 1925年の続き 今ある分の後半(第12回以降)を読む。 ここで大きな設定が覆される。悪の巣窟・総本山ともいうべき纐纈城の城主は、甲府への憧れが募って城を飛び出し甲府の城下をさまようのである。世界…

国枝史郎「神秘昆虫館」(青空文庫) 「永世の蝶」をめぐる物語のようだが、永世の蝶はついに現れず、それが不在であってもかまわない。それをめぐる欲望こそが物語で重要なのだ。

古来、永世の蝶なるものがあり、雌雄二体をそろえた者は覇者となる力が備わるという。この事実は知られていなかったが、天保十年(1831年)、武士・一式小一郎が深夜その話をささやく老人と娘とすれ違った時から話が転がりだす。小一郎は覇者になるつもりな…

夏目漱石 INDEX

2022/02/17 夏目漱石「倫敦塔・幻影の盾」(新潮文庫) 1905年2022/02/15 夏目漱石「吾輩は猫である」(新潮文庫) 1905年2011/11/20 夏目漱石「坊ちゃん」(青空文庫)2022/02/11 夏目漱石「坊っちゃん」(青空文庫)-2 1906年2022/02/10 夏目漱石「草枕」…

夏目漱石「倫敦塔・幻影の盾」(新潮文庫) 何を書くかよりもどう書くかの実験を行っている時代の習作

夏目漱石は1867年2月9日〈慶応3年1月5日〉 生まれで、 1916年〈大正5年〉12月9日没。享年49歳。あらためて生没年を見ると、とても若くして亡くなった。作家活動は10年ちょっと。その前には英文学を研究。病弱でしょっちゅう病気をしていた。このあたりの事情…

夏目漱石「吾輩は猫である」(新潮文庫) この後の小説は存在を消したのに文体に現れてしまう猫の「吾輩」をいかに消すかという苦闘

過去に二回「猫」を読んでいて、いずれも退屈だったと記憶するが、今回の数十年ぶりの再読でも同じ。漱石の小説は全部(新潮文庫で入手できるものすべて)を読みなおしたが、「猫」がもっともつまらない。今回は「吾輩」が運動を始めると言い出したところ(…

柳広司「漱石先生の事件簿 猫の巻」(角川文庫) シニシズムとニヒリズムの漱石キャラに常識や理性の持主を挿入すると、社会と世間が見えてくる。

もしかしたら漱石の「吾輩は猫である」は探偵小説として読めるのではないか、という試み。ときに漱石の原文をそのまま引用(「天璋院様のご祐筆・・・」のくだりなど)したり、原作のシーンを別視点で書き直したりしているので、原本を読んだうえで本書に取…

夏目漱石「坊っちゃん」(青空文庫)-2 「坊ちゃん」は共同体になじめないものが排除される物語。西洋の知識と美意識とマナーを身に着けると、30歳の「おれ」は「余」と名のって海の見える温泉宿に行くこともあるだろう

奇妙な小説だ。というのは、語り手の「おれ」23歳の観察力が不足していて、事態がさっぱりつかめないからだ。ことに、四国の中学に赴任して以降。とりたてて授業がうまいわけでも生徒に支持されているわけでもないのに、ひと月もたたないうちに校長は増給…

夏目漱石「草枕」(新潮文庫) 絵と詞と書くべきところ日本にはない画と詩に拘泥する。観察と解剖に徹し、自我の価値を身に着けた「余」が「人の世」を窮屈に感じるのは当然

30歳の「余」は画工具をもって旅に出る。雨に降られたので、海の見える山のうえに宿を求める(どこなのかきっと考証されているのだろう。たぶん愛媛松山近辺あたりか、まあどこでもいい)。「余」は非人情を求める。そのとき「余」が考えている人情界は日…

夏目漱石「二百十日・野分」(新潮文庫) 主人公の「文学は人生そのものである」は日本の文学者を苦しめ自己嫌悪に陥らせ、読者を呪縛し、社会への抵抗を書けなくした。

「草枕」の次に書かれた中編二つが収録されている。 二百十日 1906 ・・・ 東京住まいの圭さんと碌さんが連れ立って、阿蘇に上る。道中、二百十日の大雨にあってずぶぬれ。足を痛めたので登山はあきらめる。できごとはこれだけ。何が書かれているかというと…

夏目漱石「虞美人草」(新潮文庫) 何をしなくてもぶらぶらできる非人情の世界を生きる人も、結婚問題で周囲の圧力が高まると世間に屈する。

「坊ちゃん」の「おれ」も「草枕」の「余」も、人情の世界に嫌悪を感じ、非人情の世界を周囲に構築していきることができた。それと同類の人たちで、少しばかり世間の波に洗われている人たちがいる。宗近君、甲野君に小野君。いずれも大学を卒業してぶらぶら…

夏目漱石「坑夫」(新潮文庫) 三角関係のもつれから逃亡した若者は地獄めぐりをしても「罪と罰」を考えないが、「日本のためになれ」の説教で愛国者にはなれる。

相当の地位を持つ家の息子19歳が、女性二人との三角関係に悩み、家出する。死んでも構わないくらいの自己破壊衝動があるが、自殺するまでには至らない。呆然と歩いているところを、長蔵という男に「坑夫(通常は鉱夫)」にならないか、儲かるぞと声をかけら…

夏目漱石「文鳥・夢十夜」(新潮文庫)-1 「永日小品」は傑作。漱石の植民地主義がみられる「満漢ところどころ」。

1908年以降の短編やエッセイなど。「満漢ところどころ」「ケーベル先生の告別」は青空文庫で補完した。 江藤淳「夏目漱石」を読んだのは40年以上前なのでうろ覚えなのだが、「虞美人草」を連載するにあたって、東大教授の職を辞し、朝日新聞に入社したのでは…

夏目漱石「文鳥・夢十夜」(新潮文庫)-2 「思い出すことなど」は傑作。アイロニーの漱石は自分の生死にも自分を突き放して観察する。

2022/02/03 夏目漱石「文鳥・夢十夜」(新潮文庫)-1 1908年の続き 感想が長くなったので、エントリーを分ける。 思い出すことなど 1911 ・・・ 発表の前年夏に修善寺で静養していたところ、突如大吐血。一時死亡との報もでた。秋の終わりに東京に転院し、翌…