odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-1 原作はボアゴベの「ルコック氏の晩年」。吉川英治と乱歩がのちにリライトした。

黒岩涙香が1891-92年にかけて「都新聞」に連載した(いや単行本化したときに1回分脱落したとのこと。旺文社文庫版(全129回)は脱落した版とのこと)。このとき涙香31歳。契約の多い月初めからの連載なのは、いかに涙香が原作にほれ込んだかの証。もとはフォ…

黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-2 パリで見つかった死美人。容疑は息子にかかったので、老探偵は重い腰を上げる。

2022/04/29 黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-1 1891年 鳥羽(トリハ)探偵は英国出身でしきりに両国を行き来するとか、英国のレビュー団がフランスを巡回巡業しているとか、英国のウィスキー会社がフランスで営業しているとか、両国の民間交流はさかん。当…

黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-3 息子の処刑に老探偵は間に合うか・・・。1891年の日本人は現在と大差ない文章で会話していた。

2022/04/29 黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-1 1891年2022/04/28 黒岩涙香「死美人」(旺文社文庫)-2 1891年 入手が極めて困難。若い読者には難読。すでに100年以上前の出版。なのでほぼすべてのストーリーを記しておく。でも、細部にある風俗、習慣、服…

吉川英治「牢獄の花嫁」(青空文庫) 黒岩涙香「死美人」の翻案。藩のお家騒動に変えたら、法治主義や官僚制を無視して権力体制の強化になってしまった。

黒岩涙香の「死美人」に触発されて、吉川英治が昭和6年1931年に雑誌「キング」に一年間連載した。「死美人」もまたボアゴベの長編の翻案で、元の作があるのだが、その仔細は黒岩涙香「死美人」のエントリーを参照してください。 2022/04/29 黒岩涙香「…

黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-1 原作はボアゴベの「サン・マール氏の二羽のつぐみ」か「The Iron Mask」。ときは17世紀後半、太陽王ルイ14世の時代。

黒岩涙香31歳のときに(明治25-26年1892-93年)、万朝報に全138回で連載された。二人の鉄仮面の正体はだれか、二人の後を追う波乱万丈の冒険、謎の髑髏の怪人等で興味を引き、最後に驚愕の真相が明らかになるなど大好評を博した。戦後もなんどか単行本化され…

黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-2 1672年2月ルイ14世の圧政に反抗する貴族・有藻守雄は鉄の仮面をつけられて幽閉される。妻バンダは解放に奔走する。

2022/04/25 黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-1 1893年 1672年2月。長年のルイ14世の圧政は一部の貴族の反感を増やしていた。パリは王の配下のルーボア(涙香は日本名にしているがめったに使わない文字はカナ表記にする)が密偵を放っているので活動は制限…

黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-3 盟友・家臣・支援者がことごとく捕らわれても、妻バンダの愛と貞淑は30年以上も揺らぎはしない。

2022/04/25 黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-1 1893年2022/04/22 黒岩涙香「鉄仮面」(旺文社文庫)-2 1893年 梅真(ばいしん)処刑の日から8年たった1681年。辺境ピネロルの監獄に、典獄・仙頭麻有(せんとうまある:サン・マール)がいた。もともとはパ…

アレクサンドル・デュマ「仮面の男」(角川文庫) ダルタニャン物語の最後。19世紀のソープオペラ的な描写は冗長すぎた。

ボアゴベ-黒岩涙香の「鉄仮面」を読んだので、その勢いでデュマの「鉄仮面」を読む。面食らったのは「三銃士」のダルタニャンが出てくること。あとがきによると、「三銃士(1844)」の続編の「二十年後(1845)」のさらに続編「ブラジュロンヌ子爵(1848)」…

佐藤賢一「ダルタニャンの生涯」(岩波新書) 当時としては珍しく王への忠誠を全うしたダルタニャンのような忠誠と奉仕をしろと現代のサラリーマンにいっているよう。

大デュマ「仮面の男」がなかなか読み進まないので、こちらに手を伸ばした。デュマを読む参考にはなったと思うが、フランス史の勉強になったかというと、うーん。 デュマの小説「三銃士」「二十年後」「ブラジュロンヌ子爵(後半が「仮面の男)」で世界中にし…

ひし美ゆり子「セブンセブンセブン」(小学館) ファンやマニアには目新しい情報はない。昭和のセクハラは悪質でたちがわるい。

ご多分にもれず、おれもウルトラシリーズを見て育ったのである。一時期はウルトラQから帰ってきたウルトラマンまでのすべての怪獣の名前を言えたのである。そうなったのは、本放送を見ていただけではなく、翌年以降、夏休みや冬休みの間、毎日テレビで再放送…

笠智衆「小津安二郎先生の思い出」(朝日文庫) 日本的なやり方は「和」「意をくむ」「根回し」とされるが、親方は権力をふるいまくる独裁者。

笠智衆は1904年生まれ。寺の次男坊だったが、坊主になるのが嫌で、東京に出て蒲田の映画会社で俳優になる。最初は大部屋付きで端役ばかりだったが、小津安二郎に声をかけられる。いくつか出た後30代半ばで主演を務める。以後、小津映画の常連になった。小津…

筈見有広「ヒッチコック」(講談社現代新書) VHS時代で映画を手軽にみられるようになった時のガイドブック。

著者はヒッチコック/トリュフォー「映画術」(晶文社)の翻訳者(原著1978年、翻訳1982年)。これでこの国のヒッチコック再評価が起きたのと、家庭用ビデオデッキが入手しやすくなりあわせてビデオテープが販売されるようになってヒッチコックの映画を(それ…

淀川長治「映画が教えてくれた大切なこと」(扶桑社文庫) 1930年ころまでの神戸の記憶。今東光や横溝正史が青春を過ごしていた。

淀川長治は1909年(明治42年)4月10日生まれ。幼稚園のころから親と一緒に映画館に行き、小学生にはひとりで入るようになる。彼は神戸に住んでいた。その思い出話が美しい。ちなみに同じ時代の神戸には、今東光や横溝正史が青春を過ごしていた。淀川長治「自…

御園京平「活弁時代」(岩波同時代ライブラリ) 日本に映画が輸入されてからトーキーで弁士が失業するまでの歴史。

日本に映画が入ってきたのは1896年、神戸。試験上映をしたら好評だったので、興行師が現れた。あたった。 最初期の映画は二種類あった。 「キネトスコープは、機械の大きさがオルガンくらいで、腹部が三つに分けられ、上部に原紙を挿入、中部に発電機、下に…

増田四郎「ヨーロッパとは何か」(岩波新書)-1 3世紀のローマ帝国に東洋の国家観が入り皇帝と官僚に権限が集中すると、経済が停滞する。

ヨーロッパとは何かの問いに本書で答えると、地中海地帯と西ヨーロッパと東ヨーロッパに分けられる大きな地域の総称であり、古典古代(ギリシャ、ローマ)とキリスト教とゲルマン民族の精神を共有している集団であるといえる。ただ、内実を詳細にみると、地…

増田四郎「ヨーロッパとは何か」(岩波新書)-2 極少数のゲルマン民族にローマ民は進んで同化する。ゲルマン民族は強制的な単一国家を求めるより、下から自発的な集団から国家を作る

2022/04/11 増田四郎「ヨーロッパとは何か」(岩波新書)-1 1967年の続き これまでの章では古代の終焉をそれまでの支配者であったローマの側から見てきた。以降は、新しい支配層になったゲルマン民族の側からみる。当時のゲルマン民族は無文字だったので、資…

弓削達「ローマ 世界の都市の物語」(文春文庫) マグダラのマリアを中心にする女性イエス集団が信仰を伝導していた

著者は 弓削達「世界の歴史05 ローマ帝国とキリスト教」(河出文庫)を書いた人。このエッセイでは、ローマという都市でおきた約2000年のできごとをみる。 ちょっと話をずらせば、この国ではエッセイは身辺雑事の「心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく…

井上浩一「生き残った帝国ビザンチン」(講談社現代新書) ビザンチンに残されたローマ帝国の遺風とその後の革新を遅れたヨーロッパが模倣する。

ヨーロッパ史を読むと、西ローマ帝国の滅亡からあと十字軍まではあまり関心を持てない時代。古代帝国が消えた後に、部族社会に後戻りした感があるから。一方、コンスタンティノープルに遷都した東ローマ帝国はというと、ほとんど記述されないで15世紀初頭の…

中谷功治「ビザンツ帝国」(中公新書) ヨーロッパの「正義の十字軍」はビザンチンからみると恐怖と略奪と殺戮の「蛮族の大移動」

井上浩一「生き残った帝国ビザンチン」(講談社現代新書)1990年を最近よんだときに、 以上のサマリーはあまりにヨーロッパ中心的な見方で、これではギリシャ・ローマの伝統文化をヨーロッパに伝達する中継者という役割に限定している。それはよろしくないわ…

堀越孝一編「新書ヨーロッパ史 中世篇」(講談社現代新書) 中世のヨーロッパは領邦の集合と教会の二重権力体制。キリスト教化がいきわたると、宗教的情熱は外に向かう。

クシシトフ・ポミアン「ヨーロッパとは何か」(平凡社ライブラリ)を読んで(だけではないけど)、ヨーロッパという摩訶不思議な地域に関心をもった。ヨーロッパが成立するまでは増田四郎「ヨーロッパとは何か」(岩波新書)、ヨーロッパの中世は鯖田豊之「…

澤井繁男「イタリア・ルネサンス」(講談社現代新書) ルネサンス文学の記述は専門的すぎるので、政治と経済と外交の情報を読み取ろう。ルネサンスは自律した運動というより、ビザンツやイスラムの文化の咀嚼運動。

本書を読む際に、ルネサンスを大まかに知っていた方がよいので、このエントリーを参照。会田雄二「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-1会田雄次「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-2 ルネサンスという時代(だいたい1300年から1600年まで)をイ…