odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

高橋哲哉「靖国問題」(ちくま新書)-2 靖国神社はかつての日本の戦争と植民地支配がすべて正しかったという歴史観に立っている。政府も「民主主義」を口実として、歴史認識を問われる国家としての責任から逃走している。

8月15日に全国戦没者追悼式典が行われるようになった経緯は以下のエントリーを参考に。この式典の前に首相が靖国神社参拝をするようになったのは中曽根康弘から。佐藤卓己「八月十五日の神話」(ちくま新書)佐藤卓己/孫安石 「東アジアの終戦記念日―敗北と…

山崎雅弘「日本会議 戦前回帰への情念」(集英社新書) 21世紀になって自民党政府の首相と内閣の多くは、日本会議と神道政治連盟所属者であり、政府の政策は日本会議の主張と一致している。

21世紀になって自民党政府の首相と内閣の多くは、日本会議と神道政治連盟所属者であり、政府の政策は日本会議の主張と一致している。ことに安倍晋三、菅義偉、岸田内閣とその閣僚は日本会議の制作を実現するように動いている。日本会議の目的は戦前(とくに1…

青木理「日本会議の正体」(平凡社新書) エスノセントリズム=自民族優越主義。天皇中心主義。国民主権の否定。過剰なまでの国家重視と人権の軽視。政教分離の否定。

2015年の反安保運動から日本会議と政府の関係が取りざたされるようになり、翌年に複数の親書が出た。先に読んだ山崎雅弘「日本会議 戦前回帰への情念」(集英社新書)はこの団体の復古思想の分析に頁を裂き、本書では日本会議の成り立ちと背景を詳しく説明す…

山之内靖「マックス・ヴェーバー入門」(岩波新書) ペシミスティックな感情を持って近代の合理化を批判した人。

マックス・ヴェーバー(1864-1920)の学問を近代知の限界を示し知の不確実性をあきらかにするものとして読む。導き手はニーチェ。これまでヴェーバーは近代知の賛美者と見られていたので、この読み方は斬新(であるはず)という。ヴェーバーは小品を二冊(「…

福吉勝男「ヘーゲルに還る」(中公新書) ヘーゲルの市民社会論、政治哲学の解説書。ロック、マルクス、アーレント、ウェーバーらの考えを外挿するとわかりやすい。

ヘーゲルは高校の倫理社会の教科書くらいのことしかしらない。難解そうなので、これまで手にしたことはなかった。本書はヘーゲルの市民社会論、政治哲学を論じているとのことなので読むことにした。かなり構えてしまったが、著者による図解はとてもわかりや…

カール・マルクス「ユダヤ人問題に寄せて」(光文社古典新訳文庫) 宗教的マイノリティを解放するには国家が宗教から解放されなくてはならない。そういうマルクスは同化を求める反ユダヤ主義者。

光文社古典新訳文庫では「ユダヤ人問題に寄せて/ヘーゲル法哲学批判序説」の二編(1843年。ほかに補論、論文など)を収録している。マルクスは1818年生まれなので、当時24-25歳。青年マルクスの初期論考のうち、ヘーゲルに言及した論文や断片を集める。とく…

カール・マルクス「ヘーゲル法哲学批判序説」(光文社古典新訳文庫) プロイセンでは宗教と国家と俗人(市民:ブルジョア)は一体化しているという批判。政治的に「解放」されるというのは、一部のものの特権をすべての人々が有するようにすること。

光文社古典新訳文庫では「ユダヤ人問題に寄せて/ヘーゲル法哲学批判序説」の二編(と補論、論文など)を収録している。このエントリーには「ヘーゲル法哲学批判序説」の感想を載せる。 2022/06/21 カール・マルクス「ユダヤ人問題に寄せて」(光文社古典新…

フリードリヒ・エンゲルス「イギリスにおける労働階級の状態」(山形浩生訳)-1 25歳のエンゲルスが労働者の悲惨な状況を調べたルポ。エンゲルスで唯一推薦できる本。

1820年生まれのエンゲルスが、25歳の1845年に出版した本。仕事の傍らイギリスの街に行き、労働者の状況を見聞きした。それにほかの人のレポートや新聞記事などを参照してまとめた。翻訳書は出ているけど、今回はネットに公開されているものを利用(山形浩生…

フリードリヒ・エンゲルス「イギリスにおける労働階級の状態」(山形浩生訳)-2 1845年の悲惨な状況も労働運動の成果で1885年にはだいぶましになった。

2022/06/17 フリードリヒ・エンゲルス「イギリスにおける労働階級の状態」(山形浩生訳)-1 1845年の続き この時代の労働環境がひどい理由のひとつは、女性と子供の長時間の過重労働が蔓延していたこと。当時は女性も、子供も人権は認められていないので、身…

カール・マルクス「経済学・哲学草稿」(光文社古典文庫)-1 マルクス26歳の時のメモ。人間と自然の関係は、近代の賃労働によって「疎外」される。

マルクス26歳のときのメモ。一冊の本に仕上げる予定だったのが、途中で放棄。出版されたのは死後49年たった1932年。最後が執筆用のメモになったり、ページがまとめて紛失していたり。そのうえ26歳の若書きは後年の緻密で重厚な考えからすると、とり…

カール・マルクス「経済学・哲学草稿」(光文社古典文庫)-2 マルクスの関心領域は自然・経済・幻想的な領域。人間本質の回復・人間性の解放には「私有財産」を廃棄しなければならない。

2022/06/14 カール・マルクス「経済学・哲学草稿」(光文社古典文庫)-1 1932年の続き 後半。・第3草稿「社会的存在としての人間」。難物。ここでマルクスの関心領域が3つあることがわかる。ひとつは自然(そのものではなく「自然哲学」のほうがあっている)…

カール・マルクス/フリードリヒ・エンゲルス「共産党宣言」(堺利彦・幸徳秋水訳、青空文庫) 秘教的・秘密結社的な装いがない堺訳のほうがマルクスらのいいたいことがよくわかる。

久々の読み直しは、青空文庫に入っている堺利彦・幸徳秋水訳。あいにくいつの翻訳かはわからないが、玉岡敦「『共産党宣言』邦訳史における幸徳秋水/堺利彦訳(1904,1906年)の位置」を参考にすると、1930年の翻訳だろう。 http://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/…

フリードリヒ・エンゲルス「自然の弁証法 上下」(岩波文庫) 19世紀後半は科学と哲学が未分離だった。エンゲルスと本書の批判はブラッシュアップされた20世紀以降の科学には通じない。

エンゲルスは「家族・私有財産・国家の起源」でさじを投げたので、もう手に取らないつもりでいたが、絶版になっている「自然の弁証法」を入手できたので読んでみた。もとはエルンスト・ヘッケルがどう扱われているかを確認するくらいの軽い気持ちだった。 読…

横手慎二「スターリン」(中公新書) ソ連崩壊後に航海されたスターリン関連の文書に基づく手軽な評伝。「凡庸」ゆえに選ばれた差別主義者による独裁と個人崇拝。

ソ連崩壊後にスターリン関連の文書が公開されたことからスターリン研究が進んだ。それに基づく手軽な評伝を読む。これまで読んできたさまざまな共産趣味の文書でおおよそのできごとは知っていたが、それらはレーニンやトロツキー、あるいは市井の共産主義者…

宇野弘蔵「資本論の経済学」(岩波新書) マルクス理論の形式化を徹底したら近代経済学に近づいた。なら最初から近代経済学をやればいいんじゃね、思考の節約になるし。

「資本論」の批判的な読みをしているからといっても、宇野弘蔵の「経済原論」を読む気にはなれなかったので、講演を基にし書き直した新書を選んだ。1969年初出。ながらく品切れだったのが2009年に復刊された。いくつか発見はあったものの、内容にはいささか…

フランシス・ウィーン「今こそ『資本論』」(ポプラ新書) 「資本主義は搾取に依拠している」ことを指摘し、資本主義の在り方を解析する政治哲学の書として「資本論」を読みましょう。

1980年前後の中越戦争(とベトナム脱出のボートピープル)、ソ連のアフガニスタン侵攻のころから社会主義国への幻滅が募る。マルクス主義の人気も落ち、ソ連の危機で決定的になったのだが、定期的に「マルクスに戻ろう」というムーブメントが起こる。1980年…

佐藤優「いま生きる『資本論』」(新潮文庫) マルクスの社会変革の意思をなしにして、現状維持を志せという体制受け、資本家受けしそうな読み替え

新聞の新刊広告でよく見る名前の人。有名になった理由がよくわからないので、これまではスルー。これは読む本がみつからないなあ、と書店の棚でため息をついているときにたまたまみつけた。ちょっとまえにフランシス・ウィーン「今こそ『資本論』」(ポプラ…

鈴木直「マルクス思想の核心」(NHKブックス) ぜんぜん「核心」をつけない「マルクス主義」がピケティ「21世紀の資本」ブームに便乗した本。

2016年。ピケティ「21世紀の資本」がよく売れたので、マルクス「資本論」の可能性を見てみよう、という志で書かれたらしい。 第1章 マルクスはいかに受容されてきたか―四つの断面 ・・・ マルクスは主著が未完であったし、運動や革命の展望を語らなかったの…