odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ダンテ「新生」(岩波文庫) 俺が見るところ本書は詩作を志す人々への指南書。擬人化された「愛」が苦悩するダンテの魂を浄化する。「神曲」天国編の予告。

イタリア(という国も概念もなかった時代だとおもう)の大詩人ダンテが若き日に書いた。 1293年前後、詩人が28歳のころ、それまで書きためた詩31編を骨子にし、これらを分析解説する散文を加えて全42(もしくは43)章にまとめあげた詩文集。詩の内訳はソネッ…

ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫)-1「地獄篇」 コペルニクスより前でもすでに地球は球であることがわかっていた。地球の中心に向かう地下に地獄がある。

13-14世紀の詩人で政治家のダンテが書いた畢生の大作。成立の背景その他はwikiを参照。 ja.wikipedia.org すでに森鴎外の紹介以来数種の翻訳がでている。岩波文庫や集英社文庫などで入手可能。でも、厳格な規律に従って書かれた700年前(1300-1320年にかけて…

ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫)-2「浄罪篇」 地球の中心を抜けて魂は天堂に向かうが、肉体や穢れた魂は重力に引っ張られるので上昇できず、高い天に行けない。

2022/07/28 ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫)-1「地獄篇」 1300年の続き ダンテ「神曲」の韻文訳は数種類でていて、古いものはネットで見つけることができる。そういうのをいくつか目を通してみたが、厳密な逐語訳では筋を負うことが難しい。ま…

ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫)-3「天堂篇」 10の天からなる天堂界はプトレマイオスの宇宙。神は他から動かされず、他を動かし、愛と望みを持つから信仰を持たなければならない。

2022/07/28 ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫)-1「地獄篇」 1300年2022/07/26 ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫)-2「浄罪篇」 1300年の続き ヴィルジリオの案内で行く地獄と煉獄では、多くの障害があり、あるいはダンテの知り合いと問…

イタロ・カルヴィーノ「くもの巣の小道」(福武文庫) 北イタリアのパルチザン活動。戦時を日常になると、人は疲弊し人間の弱点を露わにして分断を強める。

イタロ・カルヴィーノの最初の長編小説。カルヴィーノはパルチザンに加わっていたし、WW2戦後にはイタリアで「レジスタンス小説」が多数出版されたそうだ。その時流に乗っていながら、ズレたところのある小説。 おそらく1944年夏の北イタリア(具体的な年月…

イタロ・カルヴィーノ「むずかしい愛」(岩波文庫) 大衆社会における恋愛の困難さはコミュニケーションの機会と技術の不足。

解説を読んでも発刊の経緯はよくわからない。1958年初出の似たようなテーマを集めた短編集。 ある兵士の冒険 ・・・ 汽車に乗っている兵士が豊満な若い女性に愛撫を試みる。言葉のないコミュニケーションを言っているのかもしれないが、行為は痴漢そのものな…

イタロ・カルヴィーノ「レ・コスミコミケ」(ハヤカワ文庫)-1 Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。宇宙的進化論的な超歴史的、非人間的できごとを通俗的な物語に換骨奪胎。

Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。科学の記述を聞くと、わしはそこにいたと叫んで、思い出話に花を咲かせる。1965年初出。 月の距離 ・・・ 月の軌道がいまより地球に近かったころ。老人のいた岩礁から月にいくことができた(途中の無重…

イタロ・カルヴィーノ「レ・コスミコミケ」(ハヤカワ文庫)-2 Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。「私」から抜けられないモノローグの文体なのに、自閉的ではない。

2022/07/19 イタロ・カルヴィーノ「レ・コスミコミケ」(ハヤカワ文庫)-1 1966年の続き Qfwfq老人のホラ話。後半。 いくら賭ける? ・・・ 宇宙ができるまえ、何が起こるかを老人は学部長と賭けをする。どんどんエスカレートして地球の歴史のささいなことま…

イタロ・カルヴィーノ「柔らかい月」(ハヤカワ文庫、河出文庫)-1  Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。生命現象を語る自己の特権性を強調できなくなる。そうすると、語り手は自分を普遍的なお喋りシステムにするしかない。

「レ・コスミコスケ」1966年に続く1967年の短編集。第1部はQfwfq老人のホラ話。訳者が変わったので、老人のイメージから中堅サラリーマンのようになった(一人称が「わし」から「私」に変更)。でも、底を流れるのは過去が回復しないことへの諦念。同類や仲…

イタロ・カルヴィーノ「柔らかい月」(ハヤカワ文庫)-2 Qfwfq老人(別の訳者ではクフウフクと表記)のホラ話。語り手は事態を鳥瞰することができなくなり、論理のわなにはまって、行動できなくなる。

2022/07/14 イタロ・カルヴィーノ「柔らかい月」(ハヤカワ文庫)-1 1967年の続き 以後はQfwfq氏の名は出てこない。でも「ティ・ゼロ」で「私Q0(0は小文字)」と表記されるので、Qfwfq氏が語り手だと推測可能。 第三部 ティ・ゼロティ・ゼロ ・・・ 突如…

イタロ・カルヴィーノ「パロマー」(岩波文庫) 27のフラグメントからわかるパロマー氏は自分をすきになれない冷笑家で、人間同士のコミュニケーションを信頼しない。

パロマー氏という中産階級のインテリを語り手にした短編集。短編というにはオチもないし視点はズレるしで奇妙な味をもっている。3部3章3節で合計27のフラグメントからなる。 中年男性、職業不詳、家族は妻と娘一人、パリとローマにアパートを所有―これがパロ…

鹿野政直「日本の近代思想」(岩波新書)

本書の紹介を出版社のページから引用(2002年刊行)。 軍事大国から,敗戦を経て経済大国へ.そしてその破綻による閉塞感.このような歴史を背負いつつ,百年余にわたる日本の近代は思想において,どのような経験を重ねてきたのだろうか.戦争と平和・民主主…

カレル・ヴァン・ウォルフレン「人間を幸福にしない日本というシステム」(潮OH!文庫) アーレント「全体主義の起源」の方法に基づく日本の全体主義社会分析。

長年、日本を調査しているオランダ人ジャーナリストによる日本批判。1994年に出版され、ベストセラーになったという。 以下を読むときのポイント。彼の観察によると、日本は「管理者たち」という流動性のある階層にいる少数者が権力を独占している。だれか個…

中野晃一「右傾化する日本政治」(岩波新書) 日本の21世紀の政治は右傾化しているか。答えは、Yes。それもかつてないほどに。欧米のネオナチや極右が日本をうらやむほど。

日本の21世紀の政治は右傾化しているか。答えは、Yes。それもかつてないほどに。自由民主主義を標榜する国家の中では突出して。欧米のネオナチや極右が日本をうらやむほどに。 どのような特徴があるか。1.政治主導(首相官邸に権限集中)2.国家主義(戦…

村山富市/佐高信「「村山談話」とは何か 」(角川oneテーマ21)

第81代総理大臣になった村山富市の一代記。 1924年に大分の漁村に生まれる。小学校卒業と同時に東京に奉公。勉強して大学に進学(当時は入学資格にうるさくなかったとみえる)。無料の下宿が社会運動家で薫陶をうける。1944年に招集され、熊本で訓練中に敗戦…

大江志乃夫「靖国神社」(岩波新書) 1879年に明治政府が作った招魂社が靖国神社に改名。1952年に宗教法人に格下げされ、A級戦犯合祀以降天皇は参拝しない。

日本の軍事史を専門にする研究者による啓蒙書。1983年初出。戦後、靖国神社を政治家が参拝することはあっても閣僚が参拝することはなかった。それが1975年に三木武夫が現職首相として初めて参拝した。それに対する批判が高まった時期のこと。靖国神社は右翼…

高橋哲哉「靖国問題」(ちくま新書)-1 靖国神社は日本人の生と死を吸収し尽し、生と死の意味付けをする国家的な宗教とする機能をもっている。

大江志乃夫「靖国神社」(岩波新書)1983年で靖国神社の戦前戦中の歴史を学んだので、戦後と現代の問題を本書で把握することにする。 極右や右派の宗教カルトは、古代からの神道と明治政府による国家神道をあえてごっちゃにして、靖国を正当化する。その違い…