odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

2025-05-01から1ヶ月間の記事一覧

伊藤亜聖「デジタル化する新興国」(中公新書) デジタル化の進捗は試行回数が多いかで決まる。日本の試行回数はまったく不足している。

2010年以降にクラウドだ、電子決済だ、スマホアプリによる効率化だといろいろ聞くようになった。そのときに、驚くのは列島よりも新興国(発展途上国でも後進国でもない)のほうが進んでいるんじゃね、ってこと。2010年ですでに列島より韓国の方が屋外wifiが…

アミーチス「クオーレ」(学習研究社) 愛国心喚起のプロパガンダ小説だが、差別を許すな・格差をなくせの主張があるのがよい。

最初に読んだのは、小学4年生ころのカラー版名作全集「少年少女 世界の文学 1~30巻」学習研究社版。とても感動した。これは縮約で、印象深い話だけを編集したもの。なので、主人公エンリーコの日常生活や学校、大人たちのできごとはまったくでてこない。の…

大澤武男「ユダヤ人とドイツ」(講談社現代新書)-1 中世から反ユダヤ主義は蔓延。近世ではゲットーにユダヤ人を隔離する。

著者は古代教会史とドイツ・ユダヤ史の研究者。本書は1991年にでたが、そのあとに、以下の啓蒙書を出している(1995年)。2020/03/03 大澤武男「ヒトラーとユダヤ人」(講談社現代新書) 本書はドイツ(といっても国ができたのは19世紀後半なので、ここ…

大澤武男「ユダヤ人とドイツ」(講談社現代新書)-2 ユダヤ人の市民権は敗戦と極右の台頭で剥奪され、ナチスによるジェノサイドに至る。

2025/05/28 大澤武男「ユダヤ人とドイツ」(講談社現代新書)-1 中世から反ユダヤ主義は蔓延。近世ではゲットーにユダヤ人を隔離する。 1991年の続き 近世ドイツでは多くの都市で、ユダヤ人はゲットーに押し込められ、ドイツ人(とはいったい誰か)との交流…

石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」(講談社現代新書)-1 国民的な支持があってナチスは政権奪取後1年半で人種差別と人権制限の法を整備した。

1990年代からヒトラーとナチス研究は一新する。東西ドイツの統一で、資料の発見が相次いだこと、研究者が世代変わりしたこと、EU実現のために過去の戦争犯罪に対する補償をする決断をしたこと、ホロコースト否定の歴史捏造が現れたことなどが理由にありそう…

石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」(講談社現代新書)-2 見かけだけの雇用促進と外交上の成果にドイツ国民は熱狂した。

2025/05/26 石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」(講談社現代新書)-1 国民的な支持があってナチスは政権奪取後1年半で人種差別と人権制限の法を整備した。 2015年の続き ナチスが全権を掌握しヒトラーが総統(党ができたころから名乗っていた)になってか…

石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」(講談社現代新書)-3 ホロコーストはヒトラーとナチ・ドイツの手段ではなく、目的そのもの。

2025/05/26 石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」(講談社現代新書)-1 国民的な支持があってナチスは政権奪取後1年半で人種差別と人権制限の法を整備した。 2015年2025/05/23 石田勇治「ヒトラーとナチ・ドイツ」(講談社現代新書)-2 見かけだけの雇用促進…

中川右介「戦争交響楽」(朝日新書)-2 全体主義国家でも自分は生き延びられるのではないかと根拠のない安心を感じていたが、今回の再読ではそんな正常性バイアスが吹っ飛んだ。

ほぼ二年ぶりの再読。前回の感想は以下。2023/03/13 中川右介「戦争交響楽」(朝日新書) 2016年 今回の再読では以下のナチス関連の本の参考として、音楽家たちのことを考えた。大澤武男「ユダヤ人とドイツ」(講談社現代新書)石田勇治「ヒトラーとナチ・ド…

對馬達雄「ヒトラーに抵抗した人々 反ナチ市民の勇気とは何か」(中公新書) ファシズムを許さない人々の自らの責任で決断し事を引き受ける意志。日本人には抵抗運動はなかった。

ナチ政権ができた1933年からヒトラー自殺と敗戦の1945年までに、ドイツでは各地で反ナチ運動が行われた。エリートが行ったものもあれば、学生・若者が主導したものもあるし、ユダヤ人支援には市井の人々が参加した。いずれも命を賭しての行動であり、発覚し…

小野寺拓也/田野大輔「検証 ナチスは『良いこと』もしたのか?」(岩波書店) 歴史修正、歴史否認、歴史捏造は詭弁ばかりの政治活動。

「ナチスは「良いこと」もした」という主張がでてきたり、通俗書で誤りが書かれていたりするので、主要な「良いこと」もした論を検証する。「おわりに」でこのような歴史捏造が登場する理由を分析しているが、個人の欲望や不満などに求めるのは誤りだと思う…

望田幸男「ナチス追求」(講談社現代新書) 戦争犯罪を自国で裁く決意が周辺諸国の信用を培う

1989年の東西ドイツの国境開放は、それまでのソ連と東欧の革命の総決算で象徴のようであったが、実はそこから始まることもあり、それまでやっていたことをいかに継続するかという課題もあったのだ。冷戦終結以降のドイツを回顧的にまとめたのが、以下の…

芝健介「ホロコースト」(中公新書) ナチスの収容所はアウシュビッツだけではない。1980年以降の新発見も反映したナチスのユダヤ人絶滅計画の概要。

ホロコーストは1939年9月から1945年5月までのナチスドイツによるユダヤ人大量殺戮のことをいう。WW2前の欧州のユダヤ人口は950万人くらいと推測されるが、そこから600万人が死亡させられたと推計されている。推計値になるのは、ドイツ敗戦直前に絶滅収容所が…

武井彩佳「歴史修正主義」(中公新書) ヨーロッパ諸国が歴史否認や捏造を法で処罰するようになった経緯。ヘイトスピーチ同様、市民の監視が必要。

歴史とは何かにこたえるのは難しいが、歴史ではないのは何かということには20世紀になって社会問題になった歴史修正主義(revisioism)や否定論(denial)で説明できる。日本でも「大東亜戦争肯定論」を端緒にする歴史修正主義は「南京事件捏造」「従軍慰…

苫野一徳「『自由』はいかに可能か 社会構想のための哲学」( NHKブックス)-1 ヘーゲルの社会原理論を援用して「自由」を説明。自由は我欲する(欲望)と我なしうる(能力)が一致していると感じられること。

「自由」概念は多義的であり定義しがたいものとされているので、人間の重要な問題であるとは考えにくくなってきた。 誰もが自由に生きているはずの時代にあって、私たちはなかなかその実感を持つことができない。自由など本当は存在しないのか?自由より優先…

苫野一徳「『自由』はいかに可能か 社会構想のための哲学」( NHKブックス)-2 「自由の相互承認」を実現する国家・社会・家族。新たな圏域を構想しよう。

2025/05/13 苫野一徳「『自由』はいかに可能か 社会構想のための哲学」( NHKブックス)-1 ヘーゲルの社会原理論を援用して「自由」を説明。自由は我欲する(欲望)と我なしうる(能力)が一致していると感じられること。 2014年の続き ここまでに以下の…