odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

アガサ・クリスティ

アガサ・クリスティ「ポケットにライ麦を」(ハヤカワ文庫) ミス・マープルは積極的にコミュニケートして相手のおしゃべりを引き出すカウンセラー。使用人の証言が大事になるのはWW2以後の社会を反映。

投資証券会社のオフィスで、社長が突然倒れた。このシチュエーションはクリスティには珍しいとおもったが、次の章ではロンドン郊外のアッパークラスの屋敷に切り替わり、物語のほとんどは屋敷の中で進む。1953年なのに、古めかしい意匠でした。 さて、投資証…

アガサ・クリスティ「死への旅」(ハヤカワ文庫) だれが同志でだれが敵かもわからないし、自分の行く先もわからない、女性のひとり旅。内面描写が多いシリアスな内容で異色。

邦題は内容に比べて大げさで、原題は「Destination Unknown」とクレジットされていて「先行き不明」のほうがストーリーにあっているとおもっていた。調べたらアメリカでのタイトルが「So Many Steps to Death」だったのね。アメリカのタイトルの軽薄さを踏襲…

アガサ・クリスティ「ヒッコリー・ロードの殺人」(ハヤカワ文庫) 世界各地から集まった学生たちむけの私設学生寮で起こる事件。プライベートな事柄が世界的な行動につながっている。

ポアロは秘書のミス・レモン(そんな人いたんだ! ちなみにこのころヘイスティングスとはしばらく会っていないとのこと)のミスに驚く。聞くと、姉が仕事をしている学生寮(主に学生を対象にした私設の賄付きの寮。大学が作ったのものではない)で窃盗が頻繁…

アガサ・クリスティ「死者のあやまち」(ハヤカワポケットミステリ) 貴族の生活はアップアップで北欧のヒッチハイカーが田舎をうろうろするイギリスの戦後復興期に起きた事件。タイトルのダブルミーニングに注目。

事務所で無聊を囲っているポアロのもとに電話がかかる。秘書のミス・レモン(「ヒッコリー・ロードの殺人」に登場)がとると、女声探偵作家のアリアドニ・オリヴァから「すぐ来て」とメッセージが入って、切れてしまう。ポワロはため息をついて、ロンドン近…

アガサ・クリスティ「無実はさいなむ」(ハヤカワ文庫) 古い殺人事件を再調査すると家族の不満と憎悪があぶりだされる。シリーズ探偵がいないから関係者の心理描写が充実する。

田舎の資産家アージル家では2年前に殺人事件が起きていた。慈善事業家で莫大な資産をもつレイチェル夫人が息子と言い争いをした直後に殺されたのだった。言い争いをした息子が犯人ということになり、事件は解決し、息子は獄中で病死した。あるとき、アージル…

アガサ・クリスティ「カリブ海の秘密」(ハヤカワ文庫) ミス・マープルは世界のどこでもイギリス人コミュニティに入っていける。ポワロは紹介する人がいないと入れない。

リューマチの痛みがあるマープルに甥のレイモンドがカリブ海の島で過ごす休暇をプレゼントした。あいにく、カリブ海の気候はあまりマープルにはふさわしくない。それにイギリス人夫婦の経営するゴールデン・バーム・ホテルの宿泊人も退屈だった(経営者のせ…

アガサ・クリスティ「バートラムホテルにて」(ハヤカワ文庫) ホテルの宿泊者による4つの物語が同時進行。どれが本筋でしょう? 

初出の1965年といえば、ル・コルビュジェ風のモダニズム建築が最盛期。新築のビルは箱の組み合わせで装飾がない。機能的であることを徹底して、建築作業を合理化することが新しい人間と資本主義に合うという考えになるのか。そういう建物はこの国でも同じ時…

アガサ・クリスティ「第三の女」(ハヤカワ文庫) third girlはみそっかす、そこにいない女の子くらいの意味。ポワロは足を使った捜査はできないので、高齢のアリアドネに任せるしかない。

ポワロを訪れたのは、心ここにあらずというようなぼんやりした若い娘。「あたしは殺人をしたのかもしれない」といって、何も相談せずに出て行ってしまった。この娘を、ポワロの友人のアリアドニ・オリヴァが知っていた。なのでポワロは気になり、娘の両親や…

アガサ・クリスティ「親指のうずき」(ハヤカワ文庫) タイトルは「マクベス」由来。タペンスの好奇心は隠したい秘密を暴いて人々を不安にさせる。

なるほど、クリスティがハードボイルドを書くとこうなるんだ、という感想。本書初出の1968年から12年もたつと、離婚し独立して拳銃をしのばせて街をうろつく女性私立探偵がでてくるものだが、この時代ではまだ独力で暴力に対抗するまでには至らない。それで…

アガサ・クリスティ「復讐の女神」(ハヤカワ文庫) マープルはお茶目で世話好きでおしゃべりなおばあちゃんから神話的な「復讐」の実現を確認する形而上的な立場に立っている。

80歳になったミス・マープル(著者クリスティも同じ年齢)は、リューマチで手がこわばり、きびきびと動くことはかなわない。なにより友人や知り合いはことごとく世を去り、おしゃべりを楽しむ相手はいない。セント・メアリー・ミードで村人を観察する喜びは…

アガサ・クリスティ「象は忘れない」(ハヤカワ文庫) ポアロはかつての嫌味やひがみ、誇大な自尊心が影を潜め、人間性の詮索をすることもない。人間への興味をほとんどもたなくなってしまった。

探偵作家のアリアドニ・オリヴァは、奇妙な依頼を受けた。名付け親になった(その事実すら記憶はおぼろ)シリヤの結婚のことだが、彼女の両親は12年前に心中事件を起こしている。その際、父が母を撃ったのか、それとも母が父を撃ったのか明らかにしてほしい…

アガサ・クリスティ「カーテン」(ハヤカワ文庫) 作者死後に発表するはずだったポアロ最後の事件。過去の5つの殺人事件の見直しと私的制裁の是非。「そして誰もいなくなった」1939年を引き継ぐ。

「ポアロ最後の事件」。もともとは作者死後に発表するはずであったが、存命中の1975年にでた。すぐに大評判になり、この国でもハードカバーで翻訳され、ベストセラーになった。漠然とした記憶だが、新聞に大きな広告が出たと思う。 ヘイスティングスは最初に…

アガサ・クリスティ「スリーピング・マーダー」(ハヤカワ文庫) 作家が50代に書いたミス・マープル最後の事件。オイディプスでアガメムノンのような神話的な構造とストーリー。

俺くらいの年齢になると、クリスティが亡くなったときの報道を覚えているし、死の数年後にでたクリスティ読本をもっていたりする。亡くなる前年にポワロ最後の事件「カーテン」がでて、もうひとつミス・マープルものの長編が出るだろうというのも覚えている…

アガサ・クリスティ「ナイルに死す」(ハヤカワ文庫) クリスティは貴族やブルジョアの一見隙のないダンディさの後ろに多くの秘められたことを暴く。

初読かと思っていたら、実に20年前に読んでいた。細部はすっかり忘れているのに、クリスティの仕掛けは途中ですっかりわかってしまった。直前にネットの書き込みで、国内の有名作と同じ趣向(本邦作が後)だということを読んでいたからかもしれない。感想をア…

アガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」(ハヤカワポケットミステリ) クリスティの早口の語りと場面の急速な転換が「書かないこと」や「書いていないこと」を隠している。

四半世紀ぶりに再読。1976年にハヤカワミステリ文庫が創刊され、その第1回配本のうちのひとつだった。アイリッシュ「幻の女」、クイーン「ダブル・ダブル」、ロス・マクドナルド「ウィチャリー家の女」などと一緒。いずれもポケミスでは入手難(当時周囲にポ…

アガサ・クリスティ「三幕の悲劇」(創元推理文庫) タイトルとは逆に、おきゃんな娘と退屈している大人がひと夏の恋を楽しむ喜劇。

「嵐をよぶ海燕のように、おしゃれ者の探偵ポワロの現われるところ必ず犯罪がおこる!引退した俳優サー・チャールズのパーティの席上、老牧師がカクテルを飲んで急死した。自殺か、他殺か、自然死か。しかしポワロは、いっこうに尻をあげようとしなかった。…

アガサ・クリスティ「ABC殺人事件」(創元推理文庫) ストーリーがトリックになった大傑作。WW1の戦争犠牲者は戦間の自信を失ったヨーロッパの姿。ポワロがヨーロッパを救う。

「ポワロのもとに、奇妙な犯人から、殺人を予告する挑戦状が届いた。果然、この手紙を裏書きするかのように、アッシャー夫人(A)がアンドーヴァー(A)で殺害された。つづいてベティー・バーナード(B)がベクスヒル(B)で……。死体のそばにはABC鉄…

アガサ・クリスティ「アクロイド殺し」(ハヤカワポケットミステリ) 世界で最も有名な犯人のひとりが登場する探偵小説。ただし、その姓名を正確に指摘できる人は少ないだろう。

名士アクロイドが刺殺されているのが発見された。シェパード医師は警察の調査を克明に記録しようとしたが、事件は迷宮入りの様相を呈しはじめた。しかし、村に住む風変わりな男が名探偵ポアロであることが判明し、局面は新たな展開を見せる。ミステリ界に大…

アガサ・クリスティ「スタイルズ荘の怪事件」(ハヤカワポケットミステリ) イギリス人による差別を受けるベルギー人が憤慨しながら恩義のためにイギリス人の事件を捜査する。

「第一次世界大戦下、イギリス片田舎のスタイルズ荘。ある夜遅く、一家は女主人エミリー・イングルソープがストリキニーネによって毒死するのを目撃する。客として居合わせたヘイスティングズ中尉は事件について、近くのスタイルズ・セント・メアリー村で再…