odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

エッセー

加藤周一「羊の歌」(岩波新書)

「羊の歌」というのは、著者の生年である1919年が羊年であるからの意。本文中に羊は出てこない。むしろ著者の姿勢は、群れを作り集団で行動する「白い羊」とは別のあり方を示す。むしろ99匹が家に戻ったにもかかわらず、荒野をさまよう一匹の黒い羊であるよ…

渡辺一夫「人間模索」(講談社学術文庫) 「人間というものが、狂気にとりつかれやすく、機械化されやすく、不寛容になりやすく、暴力をふるいやすい」という認識が出発点。

「人間というものが、狂気にとりつかれやすく、機械化されやすく、不寛容になりやすく、暴力をふるいやすい」という認識が出発点。言い方を変えると「天使になろうとして豚になりかねない」。なるほど、狂気についてはさまざまイデオロギー(宗教であったり…

渡辺一夫「僕の手帖」(講談社学術文庫) 「寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか」→Yes

著者は東大仏文学部の教授。ラブレー「ガルガンチュワとパンタグリュエル物語」の完訳で有名(全部読んだぜ、すげーだろ、なんも覚えていないけどよー)。あとはこの人の講義を聴くために大江健三郎が四国の山奥から東大仏文科を目指したというのもよく知ら…

高野悦子「二十歳の原点」(新潮文庫)

1971年に出版された。自殺した大学生の日記をあとでまとめたもの。 この年齢になるともう読めないなあ。もともと公開を前提にかかれたものではないので、若い女性の心を覗きをしているみたい。さらに、この年齢のころにある潔癖主義とか理想主義と、その一方…

越智道雄「アメリカ「60年代」への旅」(朝日選書)

初出の前年1987年は、サマー・オブ・ラブの20周年記念ということで、アメリカのいろいろな都市で回顧イベントがあったという。この国でも、大学闘争の象徴である東大安田講堂攻防戦から20年がたつころであったが、あいにく昭和天皇の体調不良の自粛騒ぎでな…

長山靖生「偽史冒険世界」(ちくま文庫) 21世紀の陰謀論や歴映捏造は20世紀前半からあった。

われわれの世界認識の方法はたいてい文書や文字によって作られて(なにしろ子供のころの体験だけでは世界の全体を把握することができず、そのような見取り図が簡単に手に入るのは書物なのだから)、たいてい理想主義的なエートスがあり、現実との葛藤におい…

山口百恵「蒼い時」(集英社文庫) 表情からはなかなか内面を測ることの難しい若い女性が出生や性、結婚をあからさまに書いたという衝撃

デュラスや武田泰淳、金子光晴は年取ってから人生を振り返ったが、こちらはきわめて若い時にキャリアを止めた場合の半生記。 1981年のベストセラー。自分にとってはその少し前のキャンディーズの解散のほうがインパクトがあったなあ。そういえばこの年には、…

高橋是清「自叙伝」(中公文庫) 日本には稀有な英語ができて、行動力があり、財務に明るい、そして頭がいい経営者で財務家は、軍事費削減を疎まれて暗殺された。

だるまと呼ばれて庶民に人気があり、日本銀行総裁・大蔵大臣を歴任、開成中学の校長の経験もあり、2.26事件で暗殺された経済人が語るバイオグラフィー。自叙伝だからなくなる時の様子は書かれていないのは当然として、昭和恐慌時代が書かれていないのは残念…