odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

堀田善衛

堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-1

2022/09/05 堀田善衛「ゴヤ 2」(朝日学芸文庫)-2 1974年の続き 有力な支援者(であり愛人)を失い、聾疾ははかばかしくない。老いもやってきて憂愁にふける。 作者の目によると、ヨーロッパの肖像画、とくに貴族の女性のそれ、は見合い写真であった。なん…

堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-2

2022/09/02 堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-1 1975年の続き 堀田善衛の「ゴヤ」は全4巻なのだが、最初の二巻でゴヤは60歳の老人になる。そのあとの20年を描くのに、それまでの60年と同じ量の文章を使わねばならない。 思い返せば、作者が「ゴヤ」を連…

堀田善衛「ゴヤ 4」(朝日学芸文庫)-1

2022/09/01 堀田善衛「ゴヤ 3」(朝日学芸文庫)-2 1975年の続き 晩年。すでにゴヤ68歳(1814年)。半島戦争の影響は 「彼ら(民衆)が立ち上って戦ったのは、ナポレオンの新しい軍事雫専制主義に対してであって、フランス革命の精神に対してではなかったの…

堀田善衛「ゴヤ 4」(朝日学芸文庫)-2

2022/08/30 堀田善衛「ゴヤ 4」(朝日学芸文庫)-1 1977年の続き 「ゴャの諸作は、あまりに生々しく人間的であるために、美術作品でありながらも、美しい、という語を付することの不可能なものばかりなのである(P294)」 暗い谷間に ・・・ 1810年代の暗い…

堀田善衛「路上の人」(新潮文庫)-1

時代は13世紀。1243年のモンサヴァール城包囲戦を焦点にする。しかし、この戦い―異端審問から発する異教徒の殺戮戦―は主題ではなく、深い森からおずおずと現われ、村と村がつながりだした、西洋の中世のあり様を全的に描くことにある。作家はすでに西洋中世…

堀田善衛「路上の人」(新潮文庫)-2

2022/08/26 堀田善衛「路上の人」(新潮文庫)-1 1985年の続き 人々が森を出て、隣の村と交易を開始する。ローマ帝国の道が残っていたが、教会と王の物だったので、新たに道を作った。すると無数の人々が道を行きかう。路上を歩くのは商人、職人、下級聖職者…

堀田善衛「ミシェル 城館の人1」(集英社文庫)-1

ミシェルは「随想録(エセー)」を書いたミシェル・ド・モンテーニュのこと。1533年生まれ1592年没というから、この国では戦国時代にあたる。織田信長(1534-1582)、豊臣秀吉(1537-1598)、明智光秀(1528-1582)らを並べると親近感がわくだろうか。もちろ…

堀田善衛「ミシェル 城館の人1」(集英社文庫)-2

2022/08/23 堀田善衛「ミシェル 城館の人1」(集英社文庫)-1 1991年の続き 乱世、というしかない時代。そこにおいて知識人(という言葉はこの時代にはないが)はどう生きるか。 通常フランスのルネサンスは尻つぼみとされるが、それは文人のビッグネームを…

堀田善衛「ミシェル 城館の人2」(集英社文庫)-1

2022/08/22 堀田善衛「ミシェル 城館の人1」(集英社文庫)-2 1991年の続き 39歳にして隠棲を始めたからといって、現代のひきこもりや江戸川乱歩の作中人物のようなものを想像してはならない。高等法院の前審議官であり、貴族の領地の経営などを引き継ぐと…

堀田善衛「ミシェル 城館の人2」(集英社文庫)-2

隠棲して1572年ころから「エセー(試み)」を書き始める。以後約20年書き継がれ、全部で3巻を出版した。加筆を繰り返したので、時期によってテキストはa、b、cに区別している。いくつかの邦訳がでているが大冊。体系的な書き方をしていないので、俺のような…

堀田善衛「ミシェル 城館の人3」(集英社文庫)-1

2022/08/18 堀田善衛「ミシェル 城館の人2」(集英社文庫)-2 1992年の続き 率直に言えば、堀田善衛の著作は敬愛するところ多々とはいえ、通読するのに困難が時に起こる。「ゴヤ」がそうで、この「ミシェル 城館の人」でも2巻の中ほどで半年以上放置してい…

堀田善衛「ミシェル 城館の人3」(集英社文庫)-2

2022/08/05 堀田善衛「ミシェル 城館の人3」(集英社文庫)-1 1994年の続き 16世紀のフランスは混迷の時代。進んだイタリア、スペイン、イギリスに囲まれ、ドイツやオランダなどからプロテスタントがはいっていた。それを統合する王権はとても弱い。王様が…

堀田善衛「ラ・ロシュフーコー公爵傳説」(集英社文庫)-1

前作「ミシェル 城館の人」で16世紀フランスを描いた次作「ラ・ロシュフーコー公爵傳説」では17世紀フランスを取り上げる。この博識な観察家によると、ばらばらだった断片が一つにつながる快感を得られる。箴言(マキシム)で高名なラ・ロシュフーコー公がデ…

堀田善衛「ラ・ロシュフーコー公爵傳説」(集英社文庫)-2

2022/08/02 堀田善衛「ラ・ロシュフーコー公爵傳説」(集英社文庫)-1 1998年の続き ラ・ロシュフーコー公爵家はフランス南部の名家。この名を持つ土地を所領にして、フランス王の覚えも愛でたかった。本書の主人公フランソア六世・ド・ラ・ロシュフーコー公…

堀田善衛 INDEX

2016/04/23 堀田善衛「インドで考えたこと」(岩波新書) 1957年 2016/04/22 堀田善衛「上海にて」(筑摩書房) 1959年 2016/04/21 堀田善衛「キューバ紀行」(集英社文庫) 1966年 2016/04/20 堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-1 1969年 2016/04…

堀田善衛「インドで考えたこと」(岩波新書)

1957年9月の第1回アジア作家会議が開かれることになり、作家が事務局員として選ばれた。渡航費は自腹であり、いくつかの団体の支援をえてようやく出国することができた。開催地はインド。ここにエジプトから北朝鮮、日本までの40国近い作家が集まる。背景に…

堀田善衛「上海にて」(筑摩書房)

作家は1945年3月の東京大空襲(と直後の天皇行幸)のあと(ここは「方丈記私記」に詳しい)、上海に移動する。あわよくば欧州に行ければという無謀な妄想を持って。現地の文化協会だかの嘱託みたいなことをして、武田泰淳らと上海を歩き回る。8月10日、上海…

堀田善衛「キューバ紀行」(集英社文庫)

キューバ(地元の人はクーバと呼ぶらしい)は突然視界に入ってきた。1959年カストロがバチスタ軍事政権をおいだし(このときには共産主義革命とはいっていない)、1962年に米ソの間に「キューバ危機」が生じる。そして、1965年、作家はキューバに招かれる。そ…

堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-1

ヨーロッパの美に近づこうとするには、「ギリシャ・キリスト教・科学精神」を我々のものにしないといけないが、自然に入ってきてくれるものではない。なので無理と努力がいることになるが、それが精神のどの部分かをねじまげることになる。でもここではなる…

堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-2

2016/04/20 堀田善衛「美しきもの見し人は」(新潮文庫)-1 の続き。 「愛するものについて語り出せば、やはり尽きせぬ思いがある(P224)」という作家が古今東西の芸術作品を眺め歩き、語る随筆。その後半。 海老原喜之助の作品を見て、「手応えのある人生を…

堀田善衛「方丈記私記」(新潮文庫、ちくま文庫)

作家が学生時代(戦時中)から読み続けてきた「方丈記」。戦後25年目に、中世の勉強の成果を含めて読み直す。長明の時代は平安末期から鎌倉幕府成立ごろで、住んでいた京都は荒れに荒れていた。政治と経済がだめになって末世を肌で感じている。戦争末期も同…

堀田善衛「定家明月記私抄」(ちくま学芸文庫)

藤原定家が19歳から晩年まで書いた日記「明月記」。漢文で書かれた日記を研究書や注釈書を頼りに読み進める。宮廷貴族であり歌人であることから、日記のほとんどは宮廷のできごと、儀式の備忘録。そこから荘園制から地頭制に移る権力の動きやほぼ400年続いた…

堀田善衛「定家明月記私抄 続編」(ちくま学芸文庫)

続編再開。中断の間は、「路上の人」を書いていたとの由。13世紀初頭の西洋と日本の中世におおよそのところで相似、共通性を感じる。宗教、政治、文芸など。 さて、定家の時代には、平家滅亡、鎌倉幕府成立、承久の乱が立て続けに起きた。そのうえ飢饉、自然…

堀田善衛「スペインの沈黙」(ちくま文庫)

あの長大な「ゴヤ」を書き終えて(朝日ジャーナルに長期連載)、スペインに移住することにした1977年から79年にかけてのエッセイ、インタビューなど。ちょうどスペインのフランコ総統が死去したときに現地にいたので、そこでのてんやわんやが面白かった。と…

堀田善衛「スペイン断章〈上〉歴史の感興 」(岩波新書)

18世紀から19世紀の画家ゴヤの評伝を書くという途方もない計画に取り掛かり、めったに公開されない自筆画を見ることを目的のひとつにスペインに移住する。そして奥さんの運転する自動車に乗って、スペイン各地を移動し、見物し、本を読み、歴史をひもとく。…

堀田善衛「スペイン断章〈下〉情熱の行方」(岩波新書)

「スペイン断章〈上〉歴史の感興 」(岩波新書)では主題は「歴史」であって、どこにいっても歴史がものとしてあらわれ、そこに茫然自失する。それから5年たった1982年に出たこちらの本では、前著に書かなかったところを書く。すなわち、スペイン市民戦争と…

堀田善衛「歴史の長い影」(ちくま文庫)

1980年代頭に書かれたエッセーや往復書簡などを収録して、1986年に出版。 まず注目は、「歴史・宗教・国家」という長いエッセイ。書き方を見ると、講演の書き起こし。ここには、ヨーロッパ中世を研究して見出したことを網羅的に語っている。内容は、「ヨーロ…

堀田善衛/加藤周一「ヨーロッパ二つの窓」(朝日文庫)

堀田善衛は1918年、加藤周一は1919年生まれで同世代。共通するのは、戦後いち早く外国を周遊し、あるいは生活拠点にしてきたこと。そのうえ、勉強家で博識。彼らが1986年にヨーロッパについて語り合う。当時は、ソ連ほかの社会主義国があって渡航制限があっ…

堀田善衛「誰も不思議に思わない」(ちくま文庫)

自分らが住んでいる場所で、日常を見ているとどれもありふれていて、おかしなことや奇妙なこととは思わない。誰かに指摘されたり、よその土地にいって振り返ったりするときに、おかしなことや奇妙なことだと気付くことがある、たとえば恵方巻という食べ物を…

堀田善衛「バルセローナにて」(集英社文庫)

「狂女王フアナの境涯に思いを寄せ、いまも残るスペイン内戦の残酷な傷痕を目の当たりにする。スペインに移り住んで10年、人間の尊厳と狂気、歴史の愚行を見据えつづけた著者の魂の遍歴の書。」 「アンドリン村にて」 ・・・ 小さな村の生活風景。ここに住む…