odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

戦前探偵小説

角田喜久雄「妖棋伝」(春陽文庫) 戦前伝奇小説の傑作。剣術映画やチャンバラ映画といっしょに隆盛したエンタメ分野。

最近(2003年)、伝奇小説をいくつか読んでいるのだが、「伝奇」というジャンルがどういうものなのかよくわからないでいる。とりあえずいくつかのキーワードを拾えば、江戸時代中期・美人/美少女の善男善女・醜面醜女の悪役・秘宝・出生の秘密・正体不明の悪…

木々高太郎「人生の阿呆」(創元推理文庫) プロレタリア文学の目と手法で青年の自立と起業の社会悪と探偵小説を盛り込もうとした意欲溢れる失敗作

著者は戦前に「探偵小説芸術論」を唱えて、甲賀三郎と論争。今となっては論争の様子を読むことは相当に困難だと思うが、江戸川乱歩のいくつかのエッセーに様子が書かれている。あるいは、「深夜の散歩」において中村真一郎が「探偵小説は短編を拡大したもの…

佐々木俊郎「恐怖城」(春陽文庫) 1920年代後半にかかれた労働者階級視点の探偵小説。後半の作ほど閉塞感や絶望の度合いが強くなる。

日本探偵小説の最初期を作り、1933年(昭和8年)に32歳で没した作家。「新青年」にはあまり書かなかったし、戦後のアンソロジーに収録されることも少なかったので、知られざる作家だった。恐怖城 ・・・ 北海道の開拓地で牧場を経営する富豪。その娘紀久子は敬…

黒岩涙香/小酒井不木/甲賀三郎「日本探偵小説全集 1」(創元推理文庫) 学生や貧乏サラリーマン向け日本のモダニズム文学は謎解きよりも人間心理の暗黒面(無意識、情動)に関心を持つ

1984年刊行の日本探偵小説全集はあと3巻で完結する(という書き出しで感想を書いたのは1986/10/29のこと。完結したのは10年後の1996年。以下ほぼ書き替え)。文庫で手軽に戦前の探偵小説を読むことは、江戸川乱歩、横溝正史の大御所を除くと、ほとんど難しい…

谷崎潤一郎「犯罪小説集」(集英社文庫) 作者が誘惑する共犯関係にはいると、作者のマゾヒズムやピーピングはもう読者そのものの行為になってしまう

谷崎潤一郎の初期短編のうち、犯罪に関係しているものを集めた。谷崎潤一郎はこれしか読んでいない、恥ずかしながら。「春琴抄」「鍵」など気になる小説はあるのだがねえ。もう読む時期を失してしまったのだろう。柳湯の事件1917 ・・・ 弁護士事務所に駆け込…

押川春浪「明治探偵冒険小説集3」(ちくま文庫) 海外を舞台にした冒険奇談小説。20世紀初頭には情報が少なすぎて江戸戯作風。

東宝特撮映画「海底軍艦」のオリジナルを書いた人であったり、武侠小説の創始者であったりするなど高名な人ではある。横田順弥が評伝を書いている。にもかかわらず、その小説を読むことは難しかった。明治の小説全集あたりでは一部を読めたとはいえ、一般読…

押川春浪「海底軍艦」(ほるぷ出版) 秘密軍団は近代の労働者のパラダイス

東宝特撮映画「海底軍艦」のオリジナルということになっているが、それはタイトルだけ。ストーリーは異なる。 西欧を放浪していた青年がある名家の主人に妻と子供の帰国を助けるよう依頼される。しかし、奇怪な軍船に追跡された後、暴風雨に出会い、船は沈没…

黒岩涙香「明治探偵冒険小説集1」(ちくま文庫)_「幽霊塔」所収 涙香翻案の最高傑作。女性目線で見ると、謎の女「秀子」によるマンハント(亭主探し)の物語。

1.「幽霊塔」が収録。ずっと原作不明だったが、1990年代の調査により、A.M.ウィリアムソン「灰色の女」(1898)が原作であることが判明した。いずれは原作の翻訳がでるのかもしれない(これを書いたのは2005年。その後翻訳はでました)。まあ、日本でだ…

中島河太郎編「日本ミステリベスト集成1戦前編」(徳間文庫) 乱歩を除いた戦前探偵小説の優秀短編をいいとこどりした入門書(もう入手困難だが)

横溝正史「面影双紙」1933 ・・・ 大阪弁と標準語のちゃんぽんで語られた商家の奇談。商い一筋の夫と若い妻。妻は歌舞伎役者と不倫していて、それが発覚したとき夫は失踪する。語りのあとのあざやかな落しで、恐怖が倍増。久生十蘭「海豹島」1939 ・・・ オ…