odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

笠井潔

笠井潔「薔薇の女」(角川文庫) 貨幣経済と資本主義が世界を覆いつくし蕩尽ができないとき、過剰な性によるエネルギーは他者への危害に転換する。

火曜日の深更、独り暮らしの娘を絞殺し屍体の一部を持ち去る。現場には赤い薔薇と血の署名――映画女優を夢みるシルヴィーを皮切りに、連続切断魔の蛮行がパリ市街を席捲する。酷似した犯行状況にひきかえ、被害者間に接点を見出しかねて行き詰まる捜査当局………

笠井潔「アポカリプス殺人事件」(角川文庫) 観念に取り付かれた人間による大量殺戮にどう抗するか。カタリ派壊滅、ナチのホロコースト、原子力帝国の共通項。

灼熱の太陽に疲弊したパリで見えざる敵に狙撃されたカケルを気遣い、南仏へ同行したナディアは、友人の一家を襲う事件を目の当たりにする。中世異端カタリ派の聖地を舞台に、ヨハネ黙示録を主題とする殺人が4度繰り返され……。2度殺された屍体、見立て、古城…

笠井潔「熾天使の夏」(講談社文庫) 政治革命に挫折した若者は「完璧な自殺」による存在革命を志向するが、賭博の永遠を圧縮した一瞬の神秘体験に挫折する。

熾天使というのは旧約聖書その他に登場する天使の最上位にあるもの。単数でセラフ、複数でセラフィムと呼ばれる。我々は、英EMIのクラシック音楽の廉価レーベル「セラフィム」や映画「マトリックス」の登場人物「セラフ」でなじみがある(かな)。作中では「…

笠井潔「バイバイ、エンジェル」(角川文庫) キーワードは「赤」。通常禁忌とされる殺人を確信的に実行する観念に対する批判。

アパルトマンの一室で、外出用の服を身に着け、血の池の中央にうつぶせに横たわっていた女の死体には、あるべき場所に首がなかった! ラルース家を巡り連続して起こる殺人事件。警視モガールの娘ナディアは、現象学を駆使する奇妙な日本人矢吹駆とともに事件…