odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

筒井康隆

筒井康隆「七瀬ふたたび」(新潮文庫)

2017/11/10 筒井康隆「家族八景」(新潮文庫) 1972年 火田七瀬を主人公にする小説の第2作。家政婦は気疲れし、露見する可能性が高いので、すでにやめている。夕方、列車にのっているとき、七瀬は思念を感じる。はじめての体験。自分と同じ超能力者がいるこ…

筒井康隆「やつあたり文化論」(新潮文庫)

1975年に週刊誌に連載。そのあと単行本化。 1975年をこの本をベースに思い出すと、どうやら不況でインフレも進行しているころ(OPECが原油価格を従来の数倍にあげて、製造原価や光熱費などが値上がりしたのが理由)。年収1000万円が高額所得者の基準になって…

筒井康隆「私説博物誌」(新潮文庫)

小説家の筒井康隆の父が、京都の動物園園長などを務めた筒井嘉隆であるのを知ったのは、このエッセイを読んだずっとあとで荒俣宏の博物学関係の本だった(タイトルは思い出せない)。なので、小説家にしてはえらく博物学に詳しいなあと感心した(後付けで言…

筒井康隆「エディプスの恋人」(新潮文庫)

2017/11/10 筒井康隆「家族八景」(新潮文庫) 1972年 2017/10/27 筒井康隆「七瀬ふたたび」(新潮文庫) 1975年 火田七瀬を主人公にする小説は「家族八景」「七瀬ふたたび」がさきにあって、これが最後。初読はこの順だったが、今回は逆に読んでいる。なの…

筒井康隆「全集19」(新潮社)-1975-77年の短編「ポルノ惑星のサルモネラ人間」など

いくつかの作品は「宇宙衛生博覧会」新潮文庫に収録。12人の浮かれる男 1975.07-10 ・・・ ルメット「12人の怒れる男」1957年は、圧倒的に不利な被告をひとりの陪審員が無罪を主張し他の陪審員を納得させる。アメリカの草の根民主主義のロールモデルみたいな…

筒井康隆「全集20」(新潮社)-1977-78年の短編「関節話法」「虚構と現実」など

いくつかの作品は「宇宙衛生博覧会(新潮文庫)」「エロチック街道 (新潮文庫)」に収録。エッセイ「虚構と現実」は「着想の技術」新潮文庫に収録。 関節話法 1977.05 ・・・ ビザング星人は人間に似た体形であるが、手足は細く関節が極端に太い。彼らは関節…

筒井康隆「富豪刑事」(新潮文庫)

場所が不明の警察署の捜査会議が始まる。まあ事件はありがちなものだ。ただ、この会議が奇妙にねじれるのは神戸大助という刑事の存在。大富豪・神戸喜久右衛門の息子であり、捜査に私費を惜しげもなく投じる。その結果、通常の警察予算では賄えない大掛かり…

筒井康隆「不良少年の映画史(全)」(文春文庫)

作家が主に中学生時代に見た印象深い映画を回想する。雑誌連載が1979年から81年にかけて。始まったばかりのころは民生用のビデオデッキは高価で普及していない。そのために、ビデオソフトも出ていない。なので、映画の記憶をたどるために、作家は戦前の「キ…

筒井康隆「大いなる助走」(文春文庫)

桑原武夫「文学入門」岩波新書1950年を読んで、そういうものなの?と驚いたのは、現役の作家に文学とは別の生業を持て、そうして収入の心配のないところで小説を書けとこの評論家が薦めていたこと。自分がこの新書を読んだのは筒井康隆のこの小説のでる直前…

筒井康隆「みだれ撃ち涜書ノート 」(集英社文庫)

雑誌「奇想天外(廃刊)」にたぶん1975年から1979年までの3年半連載された「涜書ノート」。このタイトルも韜晦であるが、まあ書評や評論をするつもりはなく(しかし結果として優れた評価を集めた本になった)、いかに面白く本を読んだかという記録。全部で1…

筒井康隆「腹立半分日記」(角川文庫)

全集22で読んだ。併録は「美藝公」(感想は別エントリーで)。 「腹立半分日記」は、雑誌「面白半分」に掲載された。この雑誌名は宮武外骨のものからとったわけだが、プロの作家が編集長となり、半年間の勤めののちに次の作家にバトンタッチされた。筒井康…

筒井康隆「トーク8(エイト)」(徳間文庫) 「唯一の対談集となるであろうことは確か」。このあとは自作解説や小説内で小説理論や技術を書くようになり対談で語らなくなった。

1970-80年の対談を集めたもの。あとがきによると「唯一の対談集となるであろうことは確か」とある。そうであるのかどうかは不明。ちなみに、1980年代の新潮社版全集には未収録。 山下洋輔トリオ・プラス・筒井康隆(山下洋輔・森山威男・中村誠一) 1970.04 …

筒井康隆「美藝公」(文春文庫)

この世界にはなかったにもかかわらずなんとも懐かしい思いにさせられる社会が描写される。中心にあるのは映画会社。5つくらいの会社がそれぞれしのぎを削る。といっても粗悪品の量産ではなくて、芸術家が潤沢な資金と余裕のあるスケジュールで大作、小品、…

筒井康隆「全集23」(新潮社)-1980-81年の短編「ジャズ大名」「エロチック街道」など

「全集23」には1980-81年の作品が収録されている。長編「虚人たち」も併録されているが、別エントリーにしたので、割愛。遠い座敷 1980.10 ・・・ 宗貞少年が親戚の家で夕飯を食べることになる。「ごんた節」が歌われ、屋敷の廊下と部屋を延々と歩く。この…

筒井康隆「虚人たち」(中央公論社)-1

1980年代に出た新潮社の全集24巻に「マリオ・バルガス=リョサ『緑の家』」というエッセイが収録されている。そこに 「ついに結末を迎えたとき、読者に残るのはこの手法に対する感動である。(略)手法に対する感動の如く感じられるところに、この小説の新し…

筒井康隆「虚人たち」(中央公論社)-2

2017/10/09 筒井康隆「虚人たち」(中央公論社)-1 1981年 何もすることがなく何をしたいのかわからない男が突然登場する。とりあえず彼は自分の名が「木村」であり、妻と娘・弓子が別々に誘拐されたのを思い出し、息子といっしょに追いかける。手がかりはな…

筒井康隆「全集24」(新潮社)-1982-83年の短編「ジーザス・クライスト・トリックスター」「シナリオ・時をかける少女」など

1982-83年の作品(短編と戯曲)が収録。ページの半分以上はエッセイだが、ここでは割愛。短編小説 通過儀礼 1982.01 ・・・ 成人式と晴着魔。句点と読点 1982.02 ・・・ 「この文章は。と、に関するきわめて短い考察であるそもそも昔は。も、もなかったそう…

筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-1

1984年のたしか春に新潮社書下ろし長編でどんと出版された。丁寧であるが重く固い箱に入れられた本は、とても威圧的だったなあ。読者よ読めるか、と挑発するようで。 箱書きには著者のものと思われる400字ほどの文章が載っていて、テーマに即するだろう固有…

筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-2

2017/10/04 筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-1 1984年 第2部は「鼬族十種」。鼬はイタチのこと。 惑星クオールは流刑惑星であり、約1000年前に最初の流刑者が送られた。次第に人口を増やした鼬族は、独自に集団化し、国家を形成する。そのような惑星のク…

筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-3

2017/10/04 筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-1 1984年 2017/10/03 筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-2 1984年 第3部は「神話」。恐るべき速度で進んだクオールの科学技術は核兵器の開発を可能にし、おろかな政治家たち(オコディ、ステーテン、イイズナ…

筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-4

2017/10/04 筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-1 1984年 2017/10/03 筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-2 1984年 2017/10/02 筒井康隆「虚航船団」(新潮文庫)-3 1984年 第3部で特徴的なのは、話者の意識の流れや発話内話が優先順位を持たずに垂れ流しのよ…

筒井康隆「夢の木坂分岐点」(新潮文庫)

この作家の小説では、たいてい主題が作中で説明されていて、ここでは章「5」で語り手が行う講演に他ならない。現実と虚構と夢には差異がなくて等価。どれが地でどれが図なのかということこだわることは不要。であれば、積極的に現実と虚構と夢の境を取っ払…

筒井康隆「ベティ・ブープ伝」(中公文庫) アニメのキャラクターを一人の俳優とみて、できるかぎりの出演作を収集し、その演技や成長を確認し、賛辞を贈る。

アニメのキャラクターを一人の俳優とみて、できるかぎりの出演作を収集し、その演技や成長を確認し、賛辞を贈る。21世紀となっては、とくに不思議なことでもなくなっているのだが、昭和の最後の年に、それも50代の人気作家が行ったとなるとセンセーショナル…

筒井康隆「驚愕の曠野」(河出書房新社)

「おねえさん」が子供たちに本を読んでいるようだ。すでに大量にある本の半分は読み終えている。「おねえさん」が朗読する本を読者はいっしょに読む。 すでに332巻に達した書名の不明な本には、紹介なしに複数の人物が現れ、飢えや強盗、裏切り、とりわけ巨…

筒井康隆「薬菜飯店」(新潮文庫)

1986-87年にかけて発表された短編をまとめて1988年に出版。1994年に文庫化。これも繰り返し読んで、いったい何回目の読み直しになるのかな。 薬菜飯店 ・・・ 場末の中華料理店に入り、珍しい中華料理を食べる。実在しない中華料理の名前、それに対応する疾…

筒井康隆「残像に口紅を」(中央公論社)

読者の物理現実の側では、事物そのものが「在る」のだし、それについて語ることができる。コップ(サルトル)、くつ(ハイデガー)、太陽(カミュ)みたいに事物そのものを語れるし、事物は他の言いかえをしても在ることは変わらない。でも言葉でできた虚構で…

筒井康隆「文学部唯野教授」(岩波書店)-1

小説を読みながら、政治や文化の知識も教えられるというのは稀有なこと。「純文学」と呼ばれるような小説ではめったにお目にかからず/かかることが少なく、むしろ多くのエンターテイメント小説で見ることが多い。吸血鬼退治のバイオレンス小説で人類の起源が…

筒井康隆「文学部唯野教授」(岩波書店)-2

2017/09/21 筒井康隆「文学部唯野教授」(岩波書店)-1 1990年 の続き 「大いなる助走」で同人誌の世界を風刺した作者は、今度は大学文学部をオワライの舞台にする。アカデミーの人たちが身に着けた権威ほどの知性の持ち主でもなくリーダーシップを持ってい…

筒井康隆「フェミニズム殺人事件」(集英社)

紀伊・産浜のリゾートホテルに作家・石坂は招かれる。ブランドファッションをテーマにした仕事をするためだ。ホテルには優れた支配人に美しい妻、見事なコックらがいて、完璧な接客を見せる。ホテルの会長が招いた客は、作家の他に、助教授、実業家夫妻、大…

筒井康隆「朝のガスパール」(新潮文庫)

複数のレベルの話が交互に進行する。それを抜き出すと、 「1.現実の筒井康隆と読者たち物語世界外の存在 2.この小説を書いている第二の自己としての筒井康隆 3.筒井康隆の第三の自己である榛沢たちがいる世界 4.榛沢が書く貴野原たちの世界 5.貴野…