odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

自然科学

梅棹忠夫「生態学入門」(講談社学術文庫) 京都学派の共同体主義が反映した生態学用語集。敗戦直後に作られたのでもう古い。

1951年に「思想の科学」研究会が新しい知識の百科事典を作ろうとしたのがきっかけ。当時の最新の学問である生態学の項目をつくるために、鶴見俊輔が梅棹忠夫に相談したのが始まり。梅棹忠夫が所属していた京都大学の研究者を中心に生態学の項目が記述された…

岡田節人「細胞に刻まれた未来社会」(朝日出版社) 科学者の慎重なものいいに田原総一郎は能天気に擬人化する。

岡田節人は京大で細胞学を研究していた。当時の細胞学者としては最も名の知れた人だった。この人は筆の立つ人で、ブルーバックスに岩波新書に各種の啓蒙書を書いていたからかもしれない。いくつか読んだことがある。1985年に退官した。その直後に、イン…

荒俣宏/金子務「アインシュタインの天使」(哲学書房) 落下する人間と落ちない天上。イカルスからアインシュタインまでの「落下」をめぐる思想概観。

科学思想史研究者と稀代の好奇心の持ち主が、「落下」をテーマに語りつくそうという壮大なテーマに挑み、見事に成功。この長い対談を読むことによって、西洋の思想史および力学史を通覧できるというのだから、なんてお得なんでしょう。 章立ては以下のとおり…

ニュー・サイエンティスト編集部編「つかぬことをうかがいますが・・・」(ハヤカワ文庫) 民主主義が共同知を作るという幻想があったとき。実際はバカとビリーバーのために知識の質と情報の正確さは保証されなくなる。

くしゃみをすると目をつぶっちゃうのはなぜ? 瞬間接着剤はどうしてチューブの内側にくっついてしまわないの?……お固い科学書ではまずとりあげないけれど、だれもが知りたい日常の“疑問”を科学的に解明するエヴリデイ・サイエンスQ&A集。イラスト:水玉螢…

エドゥアール・ロネ「変な学術研究2」(ハヤカワ文庫) 性の求道者たちの奇妙な死。自分の死を相対化し特権的なことは何もないとわかる。

悪ふざけで釣りたてピチピチの魚を飲み込んだらなんと窒息死!ちょっとしたお楽しみのためにガムテープで口をふさいだらそのままご昇天…誰もが平穏な死を迎えるとは限らない殺伐とした現代で、不可思議な死の真相を暴いてくれる法医学者たちの冷静な仕事ぶり…

マーティン・ガードナー「奇妙な論理」(現代教養文庫) 21世紀のニセ医療、ニセ健康療法の起源は20世紀前半からあった。

ニセ科学や超常現象、ニセ医学などのデバンキングの古典。アメリカの初版は1952年というのに、でてくるトンデモ科学は現在でも健在で、しかも主張がまったく進歩していない。まったくあいつらには進歩とか前進とかいうのはないのか(えーと、引用は正しかっ…

日高敏隆「動物にとって社会とはなにか」(講談社学術文庫) 動物の行動を擬人化・比喩・過度な一般化・特殊な事例の普遍化・人間の行動の正当性に利用するのはやめよう。

これは名著。著者40代に書かれていて、文章は清冽かつ意気に溢れ、慎重でありながら、ときには学問の領域を逸脱し的確なところで矛を収めている。見事。 内容の検討の前に、気をつけなければならないことをいくつか。主題は動物の社会であって、「社会」と…

柳川弘志「生命の起源を探る」(岩波新書) 太陽光がなくても生命は発生できそうで、セントラルドグマでない系もあったらしい。

とても久しぶりに、生物学関連の本を購入。主題は、生命の誕生に関する最新知見の紹介。 1980年代初頭では、生命の誕生はミラーの実験(1950年代)までしか紹介されていない。その前の10年間、生物学者は遺伝子組換実験の可能性を検討し弱点を克服することに…

立花隆/利根川進「精神と物質」(文春文庫) サブタイトルは「分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか」だが、利根川進にそこまでの意図はない。

サブタイトルは「分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか」。これはいささか風呂敷を広げすぎている。利根川進にはそこまでの意図はない。免疫系の複雑さが脳神経系の複雑さに似ているのではないか、という直観を語ったのみ。立花隆の勇み足。(1990年初出)…

平澤輿「生命の探求者」(新学社文庫) 戦時中に書かれた19世紀に医学に貢献した学者たち。本邦の研究者の成果は大きめに書かれている。

昭和17年に「子供の科学」に連載されたエッセー集。自分の知っている「子供の科学」は誠文堂新光社から出版されていたが、当時はどうだったのか。 タイトルから連想されるのは、生物学の発展の話であって、たしかにレーヴェンフックが顕微鏡の発明と細胞の発…

三田誠広「天才科学者たちの奇跡」(PHP文庫) 小説家が書いた科学者たちの肖像。図表や年表がなく小見出しがついていないので検索できない。

隠された原理を見出したい」「もっと深く真理を探究したい」……。科学者たちのそうした願いが、ときに信じられないような奇跡を呼び起こした。「何かがおかしい」という直感を得て、何時間も揺れるシャンデリアを見続けたガリレオ。リンゴは落下するのに、な…

M.ミッチェル ワールドロップ「複雑系」(新潮文庫) 複雑系の研究成果のレポート。研究の中心にあったサンタ・フェ研究所も自己組織化する複雑系のよう。

1985年に「VHSコミュニケーション」という深夜番組があった。最初の放送が、浅田彰がプロデュースした「ビデオ進化論」。その第1部が、アートとサイエンスの中間領域に関する話題だった。そこで初めて、「セルオートマトン」「ライフゲーム」「メンガースポ…

サイモン・シン「フェルマーの最終定理」(新潮文庫) 現代数学は理解もイメージすることも難しいものになったが、孤独なワイルズに訪れたひらめきには心躍らされる。

フェルマーが当時の数学の教科書の余白に書いたメモ(それが知られるようになったのは、息子が書き込み付の本を出版したこと、および1908年にとある財団が証明に懸賞をだしたこと)で、350年間数学者が頭を悩ました問題の最終解決を独力で行った物語。証明の…

中谷宇吉郎「雪」(岩波文庫) 研究というのは結果の面白さではなく、過程の面白さであり、未知なるものがつぎつぎと現れてくることに驚く楽しさ。

高校1年に入学したてのとき、学校図書館に通って昼食時に読む本を借りていた。ひとつは谷崎精二訳の「ポー小説全集」(たしか6巻。全巻制覇)。もうひとつが中谷宇吉郎の随筆集。後者はたしか3巻だったが、途中で挫折したと思う。それにしてもなぜこの随…

サイモン・シン「宇宙創成」(新潮文庫) 力学と天文学の発展はパラダイムシフトの繰り返し。古いパラダイム観の人は主張を変えないが引退死亡すると、新パラダイム観の人が残ってシフトが完成する。

宇宙はいつ、どのように始まったのか?人類永遠の謎とも言えるその問いには現在、ある解答が与えられている。ビッグバン・モデル。もはや「旧聞」の感さえあるこの概念には、実は古代から20世紀末の大発見へと到る意外なエピソードと人間ドラマが満ちていた―…

ミチオ・カク/ジェニファー・トンプソン「アインシュタインを超える」(講談社ブルーバックス) 相対性理論から超ひも理論までの物理学詩の平易な解説。

相対性理論から超ひも理論までの物理学詩の平易な解説。ここでのポイントは「統合」かな。アインシュタインは時間と空間を統合した。マクスウェルは電力と磁力を統合した。量子力学は電磁力と弱い力を統合した。アインシュタインは4つの力を統合する理論を…

カール・セーガン「コスモス」(朝日文庫) 初期のCGを使用したTV番組は大きな反響を獲得。

カール・セーガンはミラーの弟子。ミラーは原始地球の大気を想定した気体に長期間の放電を行うことにより、有機物質を合成する実験をした人。セーガンは、この実験に協力していたとの由。直前に生命の起源に関する新書を読んでいたので、共時性に少し驚くこ…

ドナルド・ゴールドスミス「宇宙を見つめる人たち」(新潮文庫) 天文学も観察先行-理論先行-観察先行と研究のやり方が何度も変わる。

昔、人々は明日を生きるための知識を得ようと空を見上げた。その後、僧侶や学者など一部の専門家だけのものだった時代を経て、宇宙は間近に捕えられた映像によって、再び我我の手に戻ってきた。途方もなく広い宇宙の神秘に魅せられた人たちの業績と夢を紹介…

二間瀬敏史「ここまでわかった宇宙の謎」(講談社+α文庫) 科学的に予想される宇宙の終わりとM理論を目にすると、存の宗教の「時間」なんてちいせえちいせえ。

自分の天文学に関する知識は1980年で止まっていたので、久しぶりに科学の本を読む。一般向けなので、深くはない。残念なのは、写真(とくにハッブル望遠鏡の写したもの)がほとんどないこと。天文学は「見る」ことの快楽を満たしてくれる学問分野なのに…

アルバート・アインシュタイン「晩年に想う」(講談社文庫) ノーベル賞受賞者の素朴でナイーブな理想論が世界に影響を及ぼした。

2005年は一般相対性理論の論文が書かれてから100年目にあたる。とくにそのことを意識していたわけではないが、古本屋で絶賛品切れ中の文庫を入手した。収録されたのは、雑誌その他への寄稿や演説などであり、もともとひとつにまとめることを意図して書かれた…

コンラート・ローレンツ「攻撃」(みすず書房) ナチス体験者はヒトの攻撃性に悲観し、理性の発動と熱狂の否定を提案する。

なんとまあ、購入してから読了するまでに20年かかるということになってしまった。もともとみすず書房は上下2巻で出版していた。1985年に一冊にまとめた改訂版がでて、それを自分は購入したのだった。今はなき神田駅前の書店で仕事の移動中だったか、帰宅途中…

リチャード・ファインマン「困ります、ファインマンさん」(岩波現代文庫) チャレンジャー号爆発事故調査で組織に縛られない活動が解明につながる。失敗学のケーススタディに使おう。

『ご冗談でしょう,ファインマンさん』につづく痛快エッセイ集.好奇心たっぷりのファインマンさんがひきおこす騒動の数々に加え,人格形成に少なからぬ影響を与えた父親と早逝した妻についての文章,そしてチャレンジャー号事故調査委員会のメンバーとして…

リチャード・ファインマン「ご冗談でしょう、ファインマンさん」(岩波現代文庫)

後にはノーベル賞を受賞し、1980年代のスペースシャトル爆発事故の調査委員会の委員長を務めるなど、学問の枠には収まらない奔放な生き方が魅力的な人だった。多芸多趣味な人らしく、自伝を書くことには興味を持たなかったようだが、ボンゴを鳴らすことで知…

湯川秀樹「旅人」(角川文庫) 1920年代は物理学がホットな時代。教科書を読まない辺境の天才は、英語で論文を書かなかったら「発見」されなかった。

学者一家に生まれた凡庸な(と自己評価している)子供が物理学に興味を持ち、中間子理論を発見する27歳までの自伝。これを書いた時著者は51歳で、兄弟の学者一家(貝塚茂樹や小川琢治など)が存命であったので、彼らのことはあまり触れられていない。日本で…

柴谷篤弘「構造主義生物学」(東京大学出版会) 要素還元主義ではない次世代生物学研究のパラダイムを提案。成果が出ていないので盛り上がらない。

2011年3月25日に柴谷篤弘死去(享年90歳)、2011年3月31日にいいだもも死去(享年85歳)。学生のときに二人の講演を企画したことがあり、中華料理屋の打ち上げで話を聞いたことがある。今日は予定を変更して追悼企画。 生物学を勉強するつもりで大学にはいっ…