odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

音楽

ウラジミール・ジャンケレヴィッチ「夜の音楽」(シンフォニア) 夜は夢想、幻視、運命。こういう名づけようのない、生成の場所。それを伝えるのは音楽。

1957年に出版された。3つの論文を収録。共通するテーマはタイトル通りの「夜の音楽」。ここに登場する作曲家をリストアップすると、フォーレ、ショパン、サティの3人を中心に、ドビュッシー、ラヴェル、シャブリエらのフランス人、バラキエフ、リャードフな…

ウラジミール・ジャンケレヴィッチ「ドビュッシー」(青土社) ドビュッシーに関するほとんどのアイデアがここに集約されているような小さいけれども浩瀚な書物。

ロシア生まれの両親をもつフランスの哲学者ジャンケレヴィッチ。主著はたぶん巨大な「死」(みすず書房)かな。一度所有したけど、どうしても読めそうになかったので、手放した。 さてこちらは1968年初出のドビュッシー論。これは小さいけれども浩瀚な書物で…

クロード・ドビュッシー「ドビュッシー音楽論集」(岩波文庫) ワグネリアンを脱したドビュッシーからみると、19世紀の音楽は間違いの歴史。

ドビュッシーは1862年生まれ。最初の成功は1894年の「牧神の午後への前奏曲」。20世紀に入ってから重要作をたくさん書いて、1918年に死去。この本は1901-1905年ころに雑誌や新聞に掲載した短文をまとめ、作曲者自身が編集して出版したもの。ほとんどが時評。…

遠山一行「ショパン」(講談社学術文庫) ロマン派の芸術家は創作と批評を同時に行い、そこに葛藤があり寡作になった。

ショパンはフランス人を父にしてポーランドに1810年に生まれた(異説あり)。1830年、ワルシャワ蜂起にあわせて亡命し、以後パリで生活し、作品を発表した。この評伝では誕生から亡命、パリ到着までを描く。そのあとのサロンでの生活やジョルジュ・サンドと…

磯山雅「J.S.バッハ」(講談社現代新書) 実証主義と古楽器演奏普及で変わりつつあったバッハ像。著者が言う「音楽の精神を受容する」は意味不明。

J・S・バッハをどうみるかについて、大きな変化が1960年代から起きたらしい。 ひとつは1962年の音楽学者フリードリヒ・ブルーメの講演で、それまでバッハをキリスト教精神史に位置付けるように考えていたのを実証的研究に変えて「人間バッハ」を見るようにし…

辻荘一「J.S.バッハ」(岩波新書) 近代という物差しで量れば、バッハの時代、ドイツはフランスに100年遅れ、イギリスには300年遅れていた。

1895年生まれの著者は、この国のバッハ研究の第一世代。この新書も、もとは1957年にでたものを1960年以降のバッハ研究の進展に応じて書き加えたものを1983年に出版。そのとき、著者87歳! この年齢で書きなおしをする気力、体力を持っておられるとは。 さて、…

フォルケル「バッハの生涯と芸術」(岩波文庫) ナショナリズム勃興期に、最大の天分と不退転の研究による天才「音楽の父」が再発見された。

ヨハン・セバスチャンが生まれたのは1685年。1750年に死去。作者のフォルケルは1749年に生まれた。なので、直接会ったことはないのだが、ヨハンの息子のヴィルヘルム・フリーデマンやカール・フィリップ・エマヌエルらと親交があった。フォルケルからみると…

諸井三郎「ベートーベン」(新潮文庫) 戦前に活躍した邦人作曲家はベートーヴェンの晩年様式を「宇宙的人間の霊的感情の映像」とみる。

「ベートーヴェンは、一生を通じて貧困、失恋、耳疾、肉親の問題などさまざまな苦しみと戦いながら、音楽史上に燦然と輝く数多くの傑作を創造した。苦渋の生涯から生まれたそれらの音楽は、人々の心に生きる勇気を与える。本書は、作曲家として、また教育者…

チャールズ・ローゼン「シェーンベルク」(岩波現代選書) 聞かれるよりも語られるほうが多い作曲家。

シェーンベルクは聞かれるよりも語られるほうが多い作曲家、になるのかな。彼の生涯を概観すると、1)神童、2)ウィーンでの無視、3)ベルリンからの追放、4)ハリウッドの疎外、みたいなストーリーを描ける。彼の作品を概観すると、1)表現主義、2)…

中島健蔵「証言・現代音楽の歩み」(講談社文庫) 敗戦後から高度成長期にかけて日本の現代音楽を聴いた人の貴重な証言。

「昭和時代」岩波新書がかかれたのは1957年で敗戦まで。こちらは1977年で、1974年くらいまでのことを書いている。 これによると、著者の活動は、文学・音楽・政治の3つの分野にあるという。そのうち、音楽に関する証言がここに書かれている。なぜ、証言かと…

堀内敬三「音楽五十年史 上」(講談社学術文庫) 幕末1850年ころから1890年代日清戦争あたりまでの洋楽受容の歴史。助っ人ガイジンを読んでチームの強化を図る。

昭和17年刊行(!)の洋楽受容史。この種の歴史を記述した本は少ない(と思う)ので非常に貴重。とりわけ、明治初頭のころはこの本以外で読んだことはない。なので、クラシック音楽愛好家には必携なのだが、ずっと品切れ中。 乱暴にいえば、この国と洋楽のか…

堀内敬三「音楽五十年史 下」(講談社学術文庫) 明治の終わりから昭和の始めにかけての洋楽受容の歴史。合唱運動とSPレコードで愛好家とディレッタントが生まれ、国家が教育する。

2012/08/09 堀内敬三「音楽五十年史 上」(講談社学術文庫) 続いて明治の終わりから昭和の始めにかけて。ここになると、洋楽の普及めざましく、出来事はいっぱい。なので記述も総花的になるがしかたない。 ・日清戦争から日露戦争にかけてのトピックは、軍…

林光「日本オペラの夢」(岩波新書) 西洋音楽の方法で、いかに日本語を音楽にのせるか。「こんにゃく座」の挑戦と苦闘。

林光の音楽を聴いたことはそれほど多くない。大河ドラマ「国盗り物語」テーマ音楽とか、NHK教育TVで放送された「セロ弾きのゴーシュ」上演番組録画とか、2枚のCD(ソングと交響曲)くらい。 www.youtube.com 1931年生まれは岩城宏之、外山雄三などが同世代。…

諸井誠「音楽の現代史」(岩波新書) 戦間期の西洋音楽はロマン主義を解体していく過程。

「十九世紀末以降,西洋古典音楽は調性の崩壊,民族的素材の見直しなどにより今世紀前半に多彩な発展をとげた.一九一〇年代のバレエ音楽,二〇―三〇年代のオペラ,三〇年代のバイオリン協奏曲など各時期の代表的作品の検討を通して,歴史の激動とともに音楽…

フリーダ・ナイト「ベートーヴェンと変革の時代」(法政大学出版局) 20世紀半ばの実証主義研究でベートーヴェン像が変わりつつあるときの評伝。

訳者あとがきによると、たとえばロマン・ロランのような過去の一時代にあったベートーヴェンの伝記と比較すると偉大ではない、ということだ。もちろんこれがいいがかりなのは、作者はそのような偉大で巨大な天才の人物像を描こうという気持ちはさらさらないこ…

ロマン・ロラン「ベートーヴェンの生涯」(岩波文庫) 苦悩する天才、苦悩の果てに勝利を見出す人格の完成者、市民社会のモラリスト、普遍原理の探索者としてのベートーヴェン像を作った古典。

1902年に書かれたベートーヴェンの伝記、というかベートーヴェンに関するエッセイ。このとき録音機器は発明されていたものの商業化はまだまだであって、音楽はコンサートホールで聞くか、譜面を読むか、自分で演奏するか、という時代。交響曲第7番を実際の音…

ドナルド・ミッチェル「マーラー 角笛交響曲の時代」(音楽之友社) 研究者による作曲家30代の作品分析。マニア向け。

1980年代後半に、マーラーの作品が「ブーム」と呼ばれる現象になった。CM(ウィスキー)の音楽に使われ、ある年の同じ月に3つの外国オーケストラが交響曲第5番を東京で演奏し、TVで特集番組が持たれた。その頂点が、シノーポリとフィルハーモニア管によ…

高辻知義「ワーグナー」(岩波新書) ワーグナーの反ユダヤ主義を紹介した初期の啓蒙書。

作曲家としては勿論のこと、劇作家、思想家、美学者として、ワーグナーほど多彩な役割を演じた音楽家は他に例を見ない。同時に、ワーグナーほど毀誉褒貶の振幅の激しい作曲家もいない。稀代の風雲児の複雑に織りなされた生涯を底流するものは何であったか?創…

堀内修「ワーグナー」(講談社現代新書)   バブル時代にワーグナーが盛んに上演されたときの宣伝書。

出版されたのと同時に購入したと思う。1980年代後半、バブル経済に入ると、ワーグナーの楽劇上演が相次いだ。1986年ウィーン歌劇場の「トリスタンとイゾルデ」、2年後の「パルジファル」。バイエルン歌劇場の「マイスタージンガー」。渋谷オーチャードホール…