odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

PKD

フィリップ・K・ディック「去年を待ちながら」(創元推理文庫)

PKD

PKDの長編では膨大な登場人物が現れて、それぞれが連絡なしに動いていって、最後にまとまるという仕掛けがおおい。うまくいくことはまれで、たいていは本筋を追うのも困難になる。この長編ではエリック・スイートセントという人工臓器移植医の視点で書かれて…

フィリップ・K・ディック「アルファ系衛星の氏族たち」(サンリオSF文庫)

シミュラクラのプログラマーであるチャック・リッタースドルフは、離婚の危機。なにしろ妻のメアリーはマリッジ・カウンセラーとして成功していて、最も有名なコメディアンバニー・ヘントマンの支援を受けて大成功。夫婦関係を清算して、アルファ系衛星で心…

フィリップ・K・ディック「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」(ハヤカワ文庫)

PKD

PKDの長編は登場人物が多くて、それぞれがしばらく脈絡ないストーリーを進めるので、しばらく何が本筋なのかわからないことが多いのだが、この長編は3人にフォーカスしているのでわかりやすい。とはいうものの、10ページごとに筋がずれるので、追いかける…

フィリップ・K・ディック「ザップ・ガン」(創元推理文庫)

PKD

事前に短編「ウォー・ゲーム」を読んでおいた方がよい。この短編の描かれた状況が長編「ザップ・ガン」の延長にあり、短編にでてきたギミックが長編にも登場するから。 とはいえ、作者本人が「最初の150ページは、ほんとうに読めないよ。文字通り読めないん…

フィリップ・K・ディック「最後から二番目の真実」(サンリオSF文庫)

この長編を読む前に短編「ヤンシーにならえ@(ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック III・サンリオSF文庫)」を読むことを推奨。短編はガニメデが舞台だが、長編では地球。ヤンシーの役割は同じ。 さて、1945年から歴史がずれている世界。米ソの対立は深…

フィリップ・K・ディック「テレポートされざる男」(サンリオSF文庫)

ポール・ウィリアムズ編「フィリップ・K・ディックの世界」(ペヨトル工房)とこの文庫の注によると、前半部が1964年8月26日SMLA受理、1966年出版。ただし商業的な理由で三万語を削除した版。後半部は1965年5月5日に日SMLA受理。脱落した部分を元に戻して再…

フィリップ・K・ディック「逆まわりの世界」(ハヤカワ文庫)

PKD

1986年6月ホバート位相が始まった。エントロピーが低いほうにながれ、生理的な時間が逆転する。毎朝、食事を吐き(なのでフードは四文字言葉)、吸殻が新品になり、それらをパッケージに詰め直す。電話にでるときは「さよなら」で、切るときは「ハロー」。死…

フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-1

PKD

映画「ブレードランナー」は初めて見たときに衝撃と感激のふたつの感情をもった。なので、ビデオにとった日本語吹替版を繰り返しみた。そこにある犯罪者の追跡、バウンティハンターの孤独、アンドロイド(映画ではレプリカント)の悲哀、経営者や警察官の傲…

フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-2

PKD

2018/07/26 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-1 1968年 人間とアンドロイド(映画ではレプリカント)の違いは、アンドロイドは工場で生産されるもので、人間はそうではないというところ。しかし製造にあたるロ…

フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-3

PKD

2018/07/26 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-1 1968年 2018/07/24 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-2 1968年 人間とアンドロイドの区別あるいは境界の消滅とい…

フィリップ・K・ディック「ユービック」(ハヤカワ文庫)

PKD

小説世界の在り方が異様なので、まず抑えておくことにしよう。生者と死者の間に半生者というカテゴリーがある。脳に損傷がなければ生命活動を停止しても、急速冷凍することで「意識」を保存することができる。通常は半生者同士の認識世界(夢ともいうか)に…

フィリップ・K・ディック「ニックとグリマング」(筑摩書房)

PKD

ディックの未来世界は近未来でいまだ訪れていないけれど、かつてあったことのあるレトロな場所でもあるんだなあ。この小説では、人口爆発で食料が枯渇気味。なのでペットはご法度。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を読んでおこう。なぜか猫を飼ってい…

フィリップ・K・ディック「銀河の壺直し」(サンリオSF文庫)

PKD本人は「やっつけ仕事だよ」「書きすすめながら、先がどうなるか、まるでわからなかった」というのだが(「ザップ・ガン(P366)」所収のインタビュー)、どうしてどうして、読みやすい。テーマもはっきり。この小説を気に入ってくれたという人もいたとPK…

フィリップ・K・ディック「死の迷宮」(サンリオSF文庫)

さまざまな技能士(言語学者、経済学者、神学者、医師、物理学者、写真家、心理学者、海洋生物学者、社会学者、コンピューター技師)たちが選ばれて植民惑星デルマクーO(オー)に派遣される。片道燃料だけを搭載した飛行機で到着した。技能士たちは全部で14…

フィリップ・K・ディック「フロリクス8からの友人」(創元推理文庫)

PKD

数十年前に「新人」が現れた。現生人類をはるかに上回る知性の「新人」は中立論理学という未来予測で、世界の支配者になる。一方、「異人」という超能力者(未来予知、テレパシーなど)も生まれる。現生人類は彼らの能力についていけず、60億人の「旧人」…

フィリップ・K・ディック「流れよ我が涙、と警官はいった」(サンリオSF文庫)-1

3000万人の視聴者のいる娯楽番組。その司会で歌手でもあるジェイスン・タヴァナー。仕事を順調で、人気は絶大で、女遍歴も優雅にこなしている。でも、その日若い歌手志望の娘がジェイスンを恨んで、カリスト海綿生物を投げつけた。昏睡状態の一夜のあと、安…

フィリップ・K・ディック「流れよ我が涙、と警官はいった」(サンリオSF文庫)-2

2018/07/12 フィリップ・K・ディック「流れよ我が涙、と警官はいった」(サンリオSF文庫)-1 1974年 女性たちにフォーカスすることになるのは、自分のIDが失われるという非常事態、不条理にみまわれながらも、渦中にあるジェイソンはのんきで傍観者でいられ…

ポール・ウィリアムズ編「フィリップ・K・ディックの世界 消える現実」(ペヨトル工房)

PKD

ポール・ウィリアムズはPKDより20歳くらい若い音楽評論家。1974年に「ローリング・ストーン」にPKDのインタビューを載せるために、長時間の話を録音した。その後も親交が続き、PKDの死後の1986年にインタビューと評論などを入れたこの本を出版。ほかにPKDの…

フィリップ・K・ディック「暗闇のスキャナー」(創元推理文庫)-1

邦訳タイトル、原題「A Scanner Darkly」の意味は小説の中の説明によるとこんな具合になる。脳は二つのコンピュータが連結したようなもの。左半球と右半球でそれぞれ異なる機能をもっているが、それぞれの情報が統合されて世界認識の同一性を保持している。…

フィリップ・K・ディック「暗闇のスキャナー」(創元推理文庫)-2

2018/07/06 フィリップ・K・ディック「暗闇のスキャナー」(創元推理文庫)-1 1977年 もうひとつのやるせなさは、ボブ・アークター=フレッドにおきたことが、これもまたやるせないほど読者の現実に続いている。ボブは覆面麻薬捜査官の仕事をしている。彼の…

フィリップ・K・ディック/ロジャー・ゼラズニイ「怒りの神」(サンリオSF文庫)

小説の背景は、文庫のサマリーに詳しいので、まず引用。メモしながら読んだが、地の文に断片的に語られるので詳細をつかめなかった。 「第三次大戦で地球は全滅した。人々が奇妙な逆説を信仰したためだった。エネルギー調査開発庁長官カールトン・ルフトオイ…

フィリップ・K・ディック「アルベマス」(サンリオSF文庫)-1

これまでの長編と色合いがずいぶん異なるのは、PKDの経歴や体験がほぼそのまま書かれているため。もちろん、この国の私小説や、自伝のように、正確な情報を提供しているわけではない。想像力をふくらませたり、存在しない人物に評価を語らせるなど、フィクシ…

フィリップ・K・ディック「アルベマス」(サンリオSF文庫)-2

2018/07/02 フィリップ・K・ディック「アルベマス」(サンリオSF文庫)-1 1985年 ニコラスに起きた神秘体験には白けるのだが、彼らを取り巻くアメリカの状況はすさまじく迫真的だ。すなわち1968年までのアメリカは史実通りに進んでいたのだが、60年代の暗殺…

フィリップ・K・ディック「ヴァリス」(サンリオSF文庫)-1

突き放したしかたでサマリーをつくるとこうなる。心身が不安定な中年のSF作家がいる。このところ立て続けに悪いことが起きる。妻が離婚して子供を連れてでていき、ひとりきりの家には薬物中毒者がでいりするようになる。その一人が、作家フィルに電話を掛け…

フィリップ・K・ディック「ヴァリス」(サンリオSF文庫)-2

2018/06/28 フィリップ・K・ディック「ヴァリス」(サンリオSF文庫)-1 1981年 2018/06/25 フィリップ・K・ディック「ヴァリス」(サンリオSF文庫)-3 Tod Machoverのオペラ「VALIS 1981年 本書の記述のほとんどは、神をめぐる考えの羅列。本書の訳者によっ…

フィリップ・K・ディック「ヴァリス」(サンリオSF文庫)-3 Tod Machoverのオペラ「VALIS」

PKD

作中に映画「VALIS」(ストーリーは「アルベマス」の自由な翻案)が登場する。ストーリーは把握しがたいほどに自由奔放 に飛び、そのうえ、見るたびに内容が変わるという不思議なもの。さらにストーリーより画面に情報がたくさんあって、さまざまなシンボル…

フィリップ・K・ディック「聖なる侵入」(サンリオSF文庫)-1

CY30=CY30B星系で、受信した地球の電波を入植者のために配信している男ハーブ・アシャーがいる。ひとり暮しの独身であったが、その星の神<ヤー>が受信テープをダメにしてしまった。隣のドームに住む同じ独身女性リビス・ロビーのところに行くと、彼女の具…

フィリップ・K・ディック「聖なる侵入」(サンリオSF文庫)-2

2018/06/22 フィリップ・K・ディック「聖なる侵入」(サンリオSF文庫)-1 1981年 ハーブとリビス、あるいはリンダ・フォックスに起こる巻き込まれがたサスペンスといっしょに、霊的な闘争が進行する。それを担うのは、リビスから生まれた異星人と地球人の子…

フィリップ・K・ディック「ティモシー・アーチャーの転生」(サンリオSF文庫)-1

PKDには極めて珍しい女性の一人称視点。長編でも短編でも、このような書き方をしたのはなかったのではないか。 カリフォルニアの聖公会のティモシー・アーチャー主教。神の遍在を証明しようと、文献を読み漁っていた。今回彼が注目したのは紀元前2世紀ころの…

フィリップ・K・ディック「ティモシー・アーチャーの転生」(サンリオSF文庫)-2

2018/06/19 フィリップ・K・ディック「ティモシー・アーチャーの転生」(サンリオSF文庫)-1 1982年 物語をティムの側から見ると、「ヴァリス」のホースラヴァー・ファットの行ってきたことに等しい。異なるのは、ティムは主教で名声があり、精神疾患を持っ…