幽霊のでるという屋敷が競売にだされた。資産家クラークはさっそく購入し、友人知人7名を招待して幽霊パーティー(交霊会みたいなことか)を開くことにする。5月の休日に屋敷に集ったところ、資産家が銃で撃たれ死亡した。そこには、彼の妻しかいない。彼女の証言によると、壁に掛けてあった銃が突然中に浮かび、発砲したという。そこには当然誰もいなかった。これは、屋敷に潜む幽霊の仕業なのか? 招待された小説家の知り合いフェル博士がエリオット警部とともにこの謎に挑む。
(この引用は2007年11月にwebで見つけたものですが、今は見つかりませんでした。)
できごとこそ幽霊譚なのだが(きわめてオーソドックスな怪奇小説)、雰囲気はイギリスの田舎小説。できごとのほとんどは昼間に起こり、周囲の田圃風景には一片のくもりもない。とてもわかりやすいミステリー。でも犯人が当てられなかった。作者のレッドへリングにまんまとだまされた。まあ、だまされるのも気持ちがいいもんだ(by梁隊長@独立愚連隊西へ)。
(きわめてネタばれに近いです。いいですか、注意しましたからね。)
こういう屋敷ものは、どうしても屋敷の購入者=改築者に何らかの意図がある、ということになるのだよな。高名な屋敷ものミステリーはこの範疇になってしまう。たとえば、綾辻の館シリーズとか、森博ナントカのあれとか、マイケル・スレイドの「髑髏島の惨劇」とか、最近読んだダレカのなんとかとか(記憶がひどいことになっている)。そんなミステリー群が大量に書かれているのだが、この「震えない男」はその嚆矢ということになる。ところが、これは1959年に刊行されたあと長らく品切れ、再刊は1996年だった。日本のミステリー作家はこの趣向を独自発見したのかな。
屋敷に伝わる古い歴史が殺人を起こした、という趣向もカーおとくいのもので、ゴシックロマンスからの意趣になる。理性の勝利の物語であるミステリーでは、「オトラント城」のような改心を主題にするわけにはいかない。そこで別の動機が用意されるのだが、例によって恋愛・憎悪・財産の奪取などになるわけで、前半の荘厳さが結末の下世話さにとってかわる。このあたりが読後の爽快さを失わせることになるのだな。
あとは、殺人を準備した人とそれを実行した人が異なり、かつ前者の意図を全く知らない後者の偶然の行為は「殺人」になるのかという、法的な問題が最後に浮上する。作者は言明を避けているのだが、すくなくとも関わってしまった実行者の後味は苦いだろう。たとえ、法的処罰に合わないにしても。1940年作。
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