odd_hatchの読書ノート

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ジョン・ディクスン・カー「絞首台の謎」(創元推理文庫)

夜霧のロンドンを、喉を切られた黒人運転手の死体がハンドルを握る自動車が滑る! 十七世紀イギリスの首切役人〈ジャック・ケッチ〉と幻の町〈ルイネーション街〉が現代のロンドンによみがえった。魔術と怪談と残虐恐怖を、ガラス絵のような色彩で描いたカーの初期代表作。『夜歩く』につづくバンコランの快刀乱麻を断つが如き名推理!
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488118150

 冒頭の恐るべき光景(死者の運転する車!)に引き続いて判明するのは、黒人運転手の主人であるエジプト人の奇怪な動向。彼は10年前に突然羽振りがよくなり、以来ヨーロッパ中を放浪して半年前からロンドンに在住中。その周りにいるのは、無頼漢のほうがよく似合う執事に、ロンドンで名の知れた高級娼婦。高級娼婦はかつて男を殺されており、その犯人を見つけ出したい。エジプト人の部屋には、誰も入れないのに絞首台のおもちゃが次々と投げ込まれる。ロンドンのどこにも存在しない街であおうという脅迫状まで現れる。いったい何が起こっているのか。頭の温かい小人に、元スコットランドの副総監、古代エジプト学を語る医師、奇妙な人物の渦の中にバンコランとジェフ・マールが巻き込まれる。
 ああ、こういうのを日本に移し変えたのが、小栗虫太郎黒死館殺人事件」なんだな。古い怪談風のストーリーの展開、古代文書で予言された現代の殺人、密室に突然現れる奇怪なオブジェ、過去の因縁、罰せられない罪びとに偶然起こる裁き、「黒死館」にあってここにないのはペダントリーくらい。代わりにバンコランという人物が異彩を放って、ストーリーを推し進めるから、読み応えは十分。「夜歩く」の混乱具合を思い起こすと、次作でここまで練ることができたとは驚異的。1931年作。「黒死館殺人事件」は1934年に「新青年」に連載されたのだが、小栗がカーのこの作を読んだかどうかは不明。
 ここには、「キーン」「グローブナー将軍」なんかが登場し、バンコランとあわせて、魔夜峰央パタリロ」の印象的な命名はここに端を発しているらしいとわかった。あとヒューイットはE.C.ベントリーからだろうな。