odd_hatchの読書ノート

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堀内修「ワーグナー」(講談社現代新書) <追記2011/4/21>

 出版されたのと同時に購入したと思う。1980年代後半、バブル経済に入ると、ワーグナーの楽劇上演が相次いだ。1986年ウィーン歌劇場の「トリスタンとイゾルデ」、2年後の「パルジファル」。バイエルン歌劇場の「マイスタージンガー」。渋谷オーチャードホール開演に際してバイロイト音楽祭が引っ越し上演を行い、「タンホイザー」の舞台上演と「ローエングリーン」第2幕、「パルジファル」第3幕の演奏会形式上演をシノーポリ指揮で行った。二期会も10年がかりで日本人キャストによる「指輪」上演を完結させた。白眉は1988年のベルリン・ドイツ・オペラによる「指輪」4部作の通し上演。朝日ジャーナルが特集記事を載せた。これ以外にもシュターツカペレ・ベルリンがいくつか演目を持ってきたりしていた。関連する話題では、バイロイトに初めて日本人歌手が登場したのもこの時期(1988年の「パルジファル」の片桐仁美)。これらの上演は評判になり、新しいファンを獲得した。ベルリン・ドイツ・オペラの「指輪」公演を見て、その魅力のとりこになり、自ら漫画化してしまった作者もいるほどだ(あずみ涼「ニーベルングの指輪」角川文庫:いわゆる少女漫画の絵柄で、宝塚劇みたいになっていた)。
 この本は、たぶん当時の流行にむけて書かれたものだと思う。ワーグナーの生涯、作品解説、声楽の種類、CDやLDの推薦というような内容で、これから知りたいという人にはいいが、さらに深く突っ込んで読み込みたいと思う人には不十分。読んだ当時は、楽劇のCDは3から4枚組みで平気で1万円を越えていたから、CD評を読むだけでも楽しかったな。どれを買おうかなと夢想するのも楽しいことだった。今では古めの録音でかまわないのならば、15枚組みの「指輪」全曲を5千円以内で購入することができる(注。2010年には最新録音も安く買えるようになった。モノラルでよければネットで無料ダウンロードできる)。あっというまにクラシックCDはずいぶんデフレを起こしてしまった。今だったら、このような書籍からではなく、DVDその他の映像でワーグナーに入門することが可能。年に一回教育TVでオペラ放送があるかないかを待っていた身からすると、世界が転換したように思える。
 1980年代後半には、「世紀末」という言葉がよく使われていた。どん詰まりにきているという閉塞感、それでいてはしゃぎ浪費するという刹那主義、内容よりも形式を優先する軽薄な気分。こういったものが舞台上ではきわめてあでやかであり、最後には共同体もろとも滅びていく姿を描くワーグナーの楽劇の気分とあっていたのだろう。

1989年のバイロイト音楽祭の引っ越し上演のチラシがみつかったのでおすそわけ。

<追記 2012/1/26>
 ワーグナーの文章が岩波文庫ででていたことがあるので、下記のエントリーも参考にしてください。
https://odd-hatch.hatenablog.jp/entry/searchdiary?word=%2A%5B%A5%EA%A5%D2%A5%E3%A5%EB%A5%C8%A1%A6%A5%EF%A1%BC%A5%B0%A5%CA%A1%BC%5D