odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

中野雄「クラシック名盤この1枚」(知恵の森文庫)

 クラシック音楽を聴くという趣味に入ると、どうしても自分の聞いた演奏のことを語りたくなるものだ。あるいは、自分の聞いた演奏の評価を他人を比べたくなるものだった。かつては、「音楽評論家」を名乗る人たちの文章を読むしかなかった。レコードやVTRの価格は高く、個人で収集するには限界があった。それに個人の評を発表するとなると、いくつかの雑誌の読者投稿欄くらいしかない。変化の起きたのは1980年代後半の円高やプレーヤーの普及などで、CDの値段が安くなり、一般素人のクラシック愛好家の情報量がLP時代に比べると飛躍的に増えたこと。特定の分野であればそれにのめりこんだマニアのほうが職業評論家より情報量が多いことがある。そのため、「音楽評論家」の権威が次第に落ちてきて(かつ著名な連中が年老いてきて、十年一日の同じことの繰り返しを書き、勉強不足であることが露呈してきたので)、彼らの書いたものは疎んじるようになった。
 でも、CDを買うに当たって誰かの評判は聞いておきたい。
 ということで、一般素人が書いた文章でもって名盤リストを作りましょうという企画でこの本ができた。書いたものたちはマニアか半分音楽業界にいる人たち、なのでこの本の読者はクラッシック音楽の初心者ではなく、聞き込みの年季を重ね、けっこうな情報を持っている人たちになる。個人が情報を発信するのがまだ難しかった時代だから通った企画なのだろうな。今ならblogその他で発信が可能になっているから。
 面白い企画であるとはいえ、書かれた文章それ自体は玉石混交。読むのが苦痛になるページもある。自分の昔話をベースに推薦盤の話をするやり方の文章もあり、特権的な話であればともかく、高校時代のいたずら話を読まされても、興味深いと思うことはない。著者がどのようなスタンスで書いているか、読者をどのように考えているかは読者はシビアに敏感に判断するものだ。なもので、半分を過ぎたくらいから飽きてしまった。
 どうも比較的高齢の人のものが採用されたらしく、1950−60年代のLPが推薦されることが多かった。うーん、未CD化の演奏も多く、入手不可能なものが並ぶ。戦後すぐに作られ、メーカーごと消えたLPの話(世界に100枚たらずしかなく、日本には3枚しかない、とか)の話を読んでも、こちらはどうせいというのだ。たしかにクラシックCDは販売、廃盤のサイクルが早いとはいえ、入手難のものを推薦されてもなあ。とうに手元に本は手放したので、なにが推薦されていたのか思い出そうとしたけど、記憶の網にひっかからなかった。