odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

角田喜久雄「妖棋伝」(春陽文庫)

 最近(2003年)、伝奇小説をいくつか読んでいるのだが、「伝奇」というジャンルがどういうものなのかよくわからないでいる。とりあえずいくつかのキーワードを拾えば、江戸時代中期・美人/美少女の善男善女・醜面醜女の悪役・秘宝・出生の秘密・正体不明の悪役→味方・魔法・旅・三角関係・新しい恋の始まりなどかしら。プロットとシチュエーションとごっちゃにしているのだが、これだけでは通常の歴史小説あるいは忍術小説との区別をつけがたいのだ。伝奇小説の最高峰は国枝史郎であるのだろう。そこまでいくと想像力がストーリーを越えてしまって、それこそこの「妖棋伝」のようなふつうの伝奇小説が見通す範疇からは異形のものになってしまっている。これは伝奇小説の初心者であるからで、おそらくこういう時期のほうが読書の楽しみはあるのだろう。

 上州の郷士の次男坊にして縄術の達人・武尊守人は、仕官の道を求めて上ってきた江戸で、瀕死の男から将棋の銀将の駒一枚を託される。それこそは徳川家秘蔵の「山彦」の銀将というという曰くつきのもの。その銀将を巡って暗躍する自分と同じ縄術使いの怪人・縄いたち、妖女・仙珠院らを向こうに回し、守人は、南町奉行所与力・赤地源太郎と共に山彦争奪戦に巻き込まれるのだった。(裏表紙のサマリ)

 角田氏は戦前の探偵小説をいくつか読んでいる。以前から春陽文庫に大量の時代小説があるのを知っていたので、それが理由で読んでいなかったのだが、最近になって伝奇小説を読み始めた。将棋の駒に秘められた謎を、江戸に上京してきた縄術に練磨した美少年が追うというストーリー。そこに、怪覆面の泥棒や妖艶な美女がからんでいく。うぶな美少年は魔の手にあって、ついに敵に捕らわれた。運命や如何に・・・というわけだ。これは日本の剣術映画、チャンバラ映画そのものではないか。実際、「妖棋伝」に限らず角田喜久雄の作はいくつも映画化されている。そして思ったのは、伝奇小説のプロットを借り、シチュエーションを現代に置き換え、陰謀団を香港あたりに巣食う国際不明の密輸団に変えたものこそ、昭和30年代の日活アクション映画だということ。なるほど嵐寛十郎や片岡千恵蔵の息子(映画史上の)が石原裕次郎小林旭であるということなのだね。
 この小説では探偵小説的な意匠が散りばめられていて、いくつか見抜けなかったのが、しごく残念。