odd_hatchの読書ノート

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橘木俊詔「企業福祉の終焉」(中公新書)

 これまで企業は従業員のために福祉活動を行ってきた。たとえば、法定福利費による福祉費用の負担であり、退職金の支給であり、福利厚生費による住宅・健康・保養所・食事などの負担である。

2015/04/16 入江徳郎「泣虫記者」(春陽文庫)

 昨今の不況で、法定福利費や保険などをきっちり払えない企業が増え、雇用人が困るケースが出ているという。
 著者の主張は、これらの企業福祉をやめようということ。
1.企業はこれらの福祉費用を負担することをやめる。それを給与に転化するか、投資に回して利益の拡大に向かうか、蓄積にまわすかは企業の意思によっていい。
2.そのかわりの福祉費用は税金(著者の主張は消費税)でまかなう。最低限度の福祉機能は国家(地方自治体を含む)が行う。それ以上の高度な福祉や機能別の福祉を享受するには、個人負担で行えばよい。
3.これまで企業が福祉費用を負担してきたのは、従業員の忠誠心をあげ長期雇用が可能になる、国家の福祉機能が僅少だったので企業が代替していた、などの理由による。しかし、現在では、企業の寿命には千差万別であって、どの企業に就職したかによって享受できる福祉に差がでる、従業員は一つの企業に長期雇用されることを望まない、ある程度の資産を国民が持つようになってこれまでの一律の企業福祉と従業員の希望が一致しなくなっている(保養所など)。
4.そのように福祉費用の負担先を変えることによって、国税庁社会保険庁は統合してよい。
 中小企業や自営業、農林水産などの自営業者には、社宅も会社の保養所も退職金がなかったわけで、これらの提案が実現したとしても影響はない。また、自分のように頻繁に就職先を変えついには自営であるものにとっては、退職金がでるあてなどないので、これも問題なし。自分が渡り歩いてきたベンチャー企業ではたいてい退職金制度を1990年代半ばで廃止していた。それに慣れている人たちは、この提言に動揺することはたぶんない。その代わり、これらの福祉活動を行う企業に勤め、とくに高額な退職金や企業年金をあてにして生活してきたサラリーマン(とりわけ、退職金をあてにして住宅を購入したもの)にとっては大打撃であるだろう。
 経営者および株主にとってはOK。不安定な雇用状態にいるものもOK。現状の福祉を受けているものは受け取る金額が減らなければOK。自分のように個人で生きているものにとっては変化なし(むしろ消費が少ないので費用負担は減る可能性がある)。頻繁に消費する人は負担増(たぶん消費税は10%くらいになるだろう)、もうすぐ退職で退職金を当てにしている人は大反対。こんな分布になるのだろう。最後の反対勢力は、ガルブレイスの「満足する人」に当てはまるだろうか。
2011/12/18 ジョン・ガルブレイス「満足の文化」(新潮文庫)
 あと、経済状況が目まぐるしく変わっているので、2005年の提案が今でも通用するかどうか、しっかり検証することが必要。