バブル崩壊後,不良債権処理とともに日本経済のなかで大きな位置を占めるようになった事業再生.そもそも事業再生とは何を目的とし,どのようにして実現するのか.注目を集めるM&Aなどの手法,各種ファンドなどのプレイヤー,この数年で抜本的改正を遂げた法や制度の内容とその背景について,第一人者が平明に解説する.
ビジネスにも山あり谷ありで、谷にいって金がまわらなくなる(売上が減る、コスト高で利益を失う、売掛金が回収できない、借入金の返済が滞るなど)と、ビジネスを見直さなければならない。最悪は「夜逃げ」であって、債権者にも債務者(経営者)にも雇用人にもいいことがまったくない。とはいえ通常のやり方では資金調達できなくなったとき、個人借入で会社や事業につっこむというのも問題あり。ではどうするかということになり、事業再生を行いましょうということになる。なぜビジネスをつぶして新規に行わないかというと、新規起業のほうがリスクがあることと、腐っても残された資産を有効に活用するほうが生産性が高い(端的にいえば、生産機器をスクラップするより本来の用途に使うほうがよい、解雇された雇用人が再雇用されるまで保険その他の援助をするより仕事を継続し給与を受け取れる仕組みを残したほうがよい、経営者の人脈とか贔屓客(リピーター)を使うほうが販売促進費が少ない、など)。たいていの場合、事業がうまくいかなくなる原因は経営陣にあるから、彼らにはお引き取りを願うことになる。一方、失敗した起業家がもう一度チャレンジできるように彼らの債務をできる限り少なくすることも必要(なにしろリスクを負って起業する人はそうはいないから)。
かつては倒産してから再建する方法がとられていたが、それだと債権者や雇用人などステークホルダーに迷惑がかかる。そこで、もっと前から再建策をとるようになり、それを支援する法律や専門家が登場するようになった。これらを活用することで事業再生に成功する事例が増えている。基本的に行うことは、(1)債務の整理(場合によっては債権放棄をお願いすることもある)、(2)新たな資金投入、(3)不採算事業・遊休資産の売却、(4)コア事業の再建、(5)経営陣の入れ替えや立て直しに特化する経営者の一時派遣、(6)コストの見直し、などかな。会社や負債額の規模によって、いろいろな方法を使うことができる。この国では1990年代の金融機関の不良債権整理とか、上場企業の大規模破綻や破産があったので、2000年ころから法整備が進み、専門家集団も起業したので、ますます便利になった。事業が危うくなったら早めに動くことが必要。(なので、夜逃げや自殺はやめてください、ということ)。
この本に書かれている内容を全部覚えるのはなかなか大変。また自分の所属する企業の規模によっては使えないものもある。なので、経営者は事業再生を支援する仕組みがあることを知り、この本をメインバンクの担当者や税理士に配っておくとよいだろう。金融機関の雇用人や税理士はこのエキスパートになることで事業拡大の可能性がある。
個人的なこと。自分は、店頭公開の成功と失敗を経験したり、事業がうまくいかなくなって事業を売却したり、会社ごと他社に買われることを経験してきた。また付き合いのある会社の社長がメインバンクや役所に通って、再生資金を獲得するのを見てきた。なので、本書の内容は切実。世の中の経営者はなにもかも自分で責任を持とうとするけど、援助する人や機関はたくさんあるので、ひとりで悩まないで、というのがメッセージ。
章建ては、
第1章 事業再生とは何か――再建・倒産との関係
第2章 事業再生の手法とプレイヤー
第3章 不良債権処理と事業再生
第4章 事業再生を支える法制度――より使いやすく
あと重要なのは、財務諸表が読めるようになり、簡単な財務分析ができるだけの知識。これは必須。古本屋に100円でごろごろしている「サルにもわかる財務諸表(こんなタイトルの本はありません)」などを購入し、自社の財務分析を自分で計算してみよう(自分で計算することがもっともよい勉強法)。