odd_hatchの読書ノート

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日本経済新聞社編「日本電産 永守イズムの挑戦」(日経ビジネス文庫)

「一番以外はビリと同じ」――日本電産・永守社長の強いリーダーシップのもと勝ち続ける秘密は何か? 倒産寸前の三協精機を従業員の意識改革によりわずか半年で再生させたドラマを再現、「永守流経営」の真髄を描く。

 2007-8年ころ、永守社長はメディアによく登場して、彼の経営方法を繰り返し述べていた。この本を買った動機はそういった番組を見ていたから。
 さて、高木新二郎「事業再生」(岩波新書)では経営がうまくいかなくなった企業を再生させる手法としてM&Aを紹介している。「事業再生」は買収される側の視点で語られていて、こちらは購入する側の視点で書かれている。企業の業績がよいとき、簡単に企業を大きくする方法としてM&Aが使われる。とりわけ店頭公開前後にはその種の話がよく持ち込まれるものだ。一方、M&Aの成功率はそれほど高くない。20-30%というのが相場の数値。なぜ成功しないかというと、経営者同士は合意したとしても、従業員や雇用人は実際の業務において企業風土の違いに戸惑うから。業務フロー、書類形式、権限と役割、評価方法などになれるのが大変。上司が変わり、会議のやり方が変わり、勤務時間がかわる。M&Aをした側とされた側の間の反目とか反発とか。それがあって、たいていはM&Aの事業が期待通りの成果を上げないとか、M&Aされた企業の社員が辞めるなどして終わってしまう。
 それに対して、日本電産のやり方では基本的に失敗はない(とされる)。webのまとめを紹介すると

「1.戦略・企業買収。競合に対する技術を持っているかを見極める。
2.再建の第一歩は経費削減。1円以上の支出をすべて永守社長が決済することで、コスト意識を高めさせる。
3.購買費削減。永守社長を含めて、内部で3〜5段階のチェック体制を設けることで、費用削減の取り組みを徹底。
4.業務効率化。役員含めてトイレ掃除を自分たちが行い、窓枠のホコリすらもチェックする。指標が60点を越えると黒字化、80点を越えると最高益になるとの相関があるという。
5.労働生産性改善。雇用と給与は維持する代わりに、社員には出勤率を90%以上、出勤時間も長くして成果を出させる。
6.経営人材転換。買収先企業が最高益を出す際には、何かの事業分野は大きく伸びている。その事業担当者を、次の社長に抜てきするのだ。」
『日本電産 永守イズムの挑戦』――会社を蘇らせる6つのステップ - ITmedia エンタープライズ

 これがフォーマット化され、マニュアルになっている。驚きは1の戦略企業買収が社長直属の部門になっていて、リサーチ活動を行っていること。中小企業に持ち込まれる買収話はたいてい社長と役員だけで行われて、そこにはしっかりした財務分析などはないからねえ。デューデリデンスでM&Aの決定に沿うように報告書を作ることも可能なのだし。買収したら本社から役員を派遣して2から5までを実行する。月に一度は永守社長も役員会だったか経営改善会議だったかに出席して進捗を確認。ふつうの会社では、社長自身が買収した会社の経営会議にでることはまずない。まして現場の責任者や管理職との打ち合わせも持たない。もっとも重要なことは、6かな。買収した会社が再建するようになったら、元の経営者ないし買収前からいた人を次の経営者にする。これは役員や従業員にとっては気分が楽になるはず。高木新二郎「事業再生」(岩波新書)ではファンドがM&Aしたら、旧経営陣には退場していただいて再建のためのスペシャリストを派遣するものだし、再建されたら会社を高く売って差額を得るということを行う。そうすると、もう一度、社風や業務システムの作り直しが起こるからね。ただ、日本電産のやり方では猛烈に勤務時間が延びるので、それについていけるかは重要。通常は再就職のリスクをとるより、しばらくの間の賃金低下と勤務時間の延長を選択するようだ。
 日本電産のやり方は工場の生産現場に即したものなので、営業会社、システム開発会社、サービス業など異分野の会社を購入するときにそのまま役に立つわけではない。ここは買収する側の企業が工夫と創意を凝らし、かつこの会社のように専門部署があったほうがよいのだろう。
 無理やりなまとめをすれば、購入する側は、思いつきではやらないでね、M&Aで異分野に参入するのは難しいよ(日本電産は同業ないし関連事業しか購入しない)。再建のために派遣されるマネージャーは、仕組みを押しつけるだけだと反発されるよ、PMBOKの人的資源管理・コミュニケーション管理にとくに注意してね。購入される側は反発や反目するだけだと居場所を失うよ、積極的に改善に参加しようね、あたりかな。と、失敗したし、されたものはかく語る。

 以上、起業から事業拡大、そして倒産、事業再生まで会社の一生を本で鳥瞰する試みでした。