『ご冗談でしょう,ファインマンさん』につづく痛快エッセイ集.好奇心たっぷりのファインマンさんがひきおこす騒動の数々に加え,人格形成に少なからぬ影響を与えた父親と早逝した妻についての文章,そしてチャレンジャー号事故調査委員会のメンバーとしてとらわれぬ発想でいかに原因を究明していったか,その顛末が報告される.
岩波書店
・ひとがどう思おうとかまわない! ・・・ 幼馴染から最初の妻になった女性の思い出。
・ものをつきとめることの喜び
・「ワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリー」
・生れてはじめての教授職 ・・・ マンハッタン計画進行中のころの行政の不手際を楽しむ
・トップ・シークレット
・出世の秘訣
・歩いたかさぶた
・ハーマンとは誰だ?
・「ファインマン・セクシスト・ピッグ!」
・「困りましたね、ファインマン先生」
・パップ氏の永久機関 ・・・ ニセ科学(永久機関)のデモでインチキを暴こうとしたら、爆発事故を起こしてしまった。
・「シャベルを持っていきましょうか」 ・・・ 日本滞在記。高級ホテルには飽きたので民宿に泊まる。著者にはそんな心持などないのだが、なんとなく辺境の冒険旅行博物記で、珍奇な風俗を面白がっているように思えた。
・ファイマン氏、ワシントンにいく―チャレンジャー号爆発事故調査のいきさつ
・科学の価値とは何か
「ご冗談でしょう、ファインマンさん」の感想で書いた最初の奥さんの思い出は、こちらの「ひとがどう思おうとかまわない」に書かれていた。初読のときは続けて読んだので混乱していたのだな。
重要な文章は、ほぼ半分をしめる「ファイマン氏、ワシントンにいく―チャレンジャー号爆発事故調査のいきさつ」。1986年1 月28日に打ち上げられたスペースシャトルが、離床後数分で爆発炎上したのだった。この様子はTVで繰り返し放送されて、大きなインパクトがあった。その事故調査委員会にファインマンさんが選ばれ、3ヶ月間の調査を行った。例によって独特の動き、組織に縛られない自由な発想が問題を突き止めていく。
・委員会は弁護士、空軍高官、宇宙飛行士経験者、学者などから構成される。優秀な人物ばかりではあるが、この種のプロジェクトの経験者はいない。また、NASAや政府の思惑を慮って、軽快な動きを取ることができない(ように見える)。ファインマンの面白いのは、委員の権限を(たぶん拡大解釈して)有効に使うこと。彼は一人でNASAやメーカーに乗り込む。そのときに組織管理者とはあわない。現場の組立工とミーティングを行う。こういう現場にこそ問題があるという考えかたは(たぶん)科学者のものだ。組織人間のものではない。
・つきあたるのは組織の壁。物事が分解されてそれぞれが担当部署にまかされ、さらにマネジメントと実務担当と別れていくとき、3つの問題が発生する。ひとつはマネジメントと実務担当の壁。前者は後者が不効率で無能で怠惰と思いこみ、後者は前者が傲慢で非人情であると思いこむ。もうひとつは担当部署間のコミュニケーション不足、ビジョンやミッションの非共有。3つめは組織の目的が組織の存続に変わり、現状維持とリスクの軽視につながっていくこと。今回の事故でも、現場(組立担当や飛行士)ではOリングの問題は事前に認識され、報告されていた。それがどこかで無視され、あるいは隠されて、このような大事故につながってしまった。
・こういう組織の自己変革というのは難しい(この感想文では共産党や共産主義運動を例にして同じことを書いている*1)。事故を起こさない、という点ではNASAも真剣に取り組んでいる(ようにみえる)。でも、組織の目的が組織の維持になっていないかというのは解決されているかしら。今度は火星にいこうというのだからねえ。科学や技術からみると面白いテーマだけど、現在の社会において必要なことなのかしら。