odd_hatchの読書ノート

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ダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード」(角川文庫)

 自分の半生はこの本を読むためにあったのだ(笑)。なにしろ、
福音書
使徒のはたらき
ヨハネ黙示録
「新約聖書外伝」(講談社学芸文庫)
高橋保行「ギリシャ正教」(講談社学術文庫)
エドマンド・ウィルソン死海写本」(みすず書房
高橋正男「死海文書」(講談社選書メチエ
荒井献「トマスによる福音書」(講談社学術文庫)
バートン・L・マック「失われた福音書」(青土社
バーバラ・スィーリング「イエスのミステリー」(NHK出版)
マイケル・ベイジェント/リチャード・リンカーン「レンヌ=ル・シャトーの謎」(柏書房
エックハルト「神の慰めの書」(講談社学術文庫
上田閑照エックハルト―異端と正統の間で 」(講談社学術文庫
橋口倫介「十字軍騎士団」(講談社学術文庫
堀田善衛「路上の人」(新潮文庫
森島恒雄「魔女狩り」(岩波新書
ジュール・ミシュレ「魔女」(岩波文庫
阿部謹也「ヨーロッパ中世の世界観」(講談社学術文庫
ウンベルト・エーコ「薔薇の名前」(東京創元社
ウンベルト・エーコ「フーコーの振り子」(文芸春秋社)
荒俣宏「レックス・ムンディ」(集英社文庫)
リヒャルト・ワーグナー「名作オペラブックス パルジファル」(音楽之友社
フランス古典「聖杯の探索」(人文書院)
笠井潔「アポカリプス殺人事件」(角川文庫)
シモーヌ・ヴェイユ「神を待ちのぞむ」(剄草書房)
ダンテ「新生」(岩波文庫
野田又男「ルネサンスの思想家」(岩波新書
会田雄二「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-1
会田雄次「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-2
横山紘一「ルネサンス」(講談社学術文庫
渡辺一夫「フランス・ルネサンスの人々」(岩波文庫
田中英道ミケランジェロ」(講談社学術文庫
エーリッヒ・フォン・デニケン「奇跡」(角川文庫)
等等という書物を読んできたのだから(あれ、あんまりないな)。作者はこの種のオカルトや伝聞を枚挙するだけで、歴史そのものの再構築をしたり、その時代を再現したりするわけではない。おかげですでにこの種の情報に興味を持っているものにはとりたてて驚異の真相が現れるということはなかった。ここに書かれたキリスト教の謎は謎というほどのものではなかった。たとえばイエス磔刑で死んでいないというのはその出来事の直後からうわさや伝説になっていたのだった(弟が身代わりになった、実はユダだった、偽装にローマ兵はだまされた、などの説がある)。ダ・ヴィンチも驚異の発想のおかげで、オカルト的な怪人にされていたりする(トリノにある聖骸布はダ・ヴィンチがつくったとか)。作者本人が「これは事実です」みたいなことを書いたおかげで、内容を真に受けた人が続出したらしい。またこれに便乗した本もたくさんでた。それが沈静してから振り返ると、これは完全にフィクションで、幻想で、トンデモ陰謀論なのでありますよ。
(このミステリでは「シオン修道会」という組織が重要な役割を果たす。このルネサンス期に誕生した秘密組織は歴代の総長に有名人をもつことで有名だ。ニュートンユゴードビュッシー、ジャン・コクトーなど。最近元ネタ提供者による捏造であることが発覚した。これに依拠した「レンヌ=ル=シャトーの謎」はトンデモ本の仲間入りとなった。当然だよな、ドビュッシーコクトーの作品に触れ、彼らの生涯を調べていくと、ほぼ毎日なにをやったのかがわかるくらいに研究が進んでいるのだ。とてもではないが秘密組織を主催しているひまがあるわけがない。コクトーは阿片の喫煙常習で、しかも同性愛、めだちたがりやのおかげでマスコミの注視をいつも浴びていたのだ。ドビュッシーは不倫の末に子供を作り、、双方が離婚の末に再婚するというスキャンダルを起こして、一時は隠遁状態にあった。さらには、フランス革命に肩入れしたユゴーがどうしてキリスト教秘密組織に加わるのだろう。「レンヌ=ル=シャトーの謎」を一読したときから信用していなかったが、その通りだった。)
 中心的な興味は歴史の謎であるのだが、それを除いてみたとき、これはあんまりうまくない巻き込まれ型サスペンスということになる。プロットは単純、心理も深く描かれず、わずか3日で解決してしまう。ヒッチコックの映画のほうがよほどスリリングでサスペンスフルだ(「バルカン超特急」「逃走迷路」「知りすぎた男」「北北西に進路を取れ」など)。まあ、ベストセラーは単純でなければならないのであって、その点は仕方ないか。

ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

バーバラ・スィーリング「イエスのミステリー」(NHK出版) - odd_hatchの読書ノート