odd_hatchの読書ノート

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ドナルド・ゴールドスミス「宇宙を見つめる人たち」(新潮文庫)

昔、人々は明日を生きるための知識を得ようと空を見上げた。その後、僧侶や学者など一部の専門家だけのものだった時代を経て、宇宙は間近に捕えられた映像によって、再び我我の手に戻ってきた。途方もなく広い宇宙の神秘に魅せられた人たちの業績と夢を紹介し、最新鋭の電子機器で得られた鮮明な写真を豊富に使って、宇宙の起源と進化、その構造を解き明かす楽しい宇宙探索ガイド。

 比較的最近の天文学を紹介した本。1970年代だと、まだ天文学は観察と枚挙の学問だったと思っていた。あとは山岳部にも通じる体力勝負の研究(当時の素人グループの流星観測というのは6人が放射状に寝て、天球を6分割し、流星が流れるごとに口頭で報告、記録係が手帖に記載、というもの)と思っていた。多くの天文ファンは望遠鏡を自作しているのでもあった。
 それから20年、このころには理論先行で、巨大観測器具を使う巨大科学に変わってきていたのだな。ブラックホールにホワイトホールに、ダークマターに、宇宙背景輻射に、銀河の大規模構造に、クエーサーに、と、新しい言葉や概念がたくさんあらわれた。なるほど、研究が進むにつれて、宇宙の構造もまた複雑で、構造的で、奇怪なものになってきたというわけだ。知るほどに謎が深まるという科学の進み行きを見ることができる。さらには、量子物理学のような極小と宇宙という極大が同時に扱われるという認識の実験もあるのだな。
 あと重要なこととして、研究にかかわる人の思い。ここに出てくる人たちは科学と社会の関係や、研究費の出所などに興味をもつ社会的な意識の持ち主ではなく、対象そのものを解明したいという古典的な科学者像のひとたち。出自はどうあれ、科学研究のエリートでその立ち居振る舞いは精神の貴族のよう。その楽天さと情熱に感服しよう。
 残念ながら原著は1992年刊。その後のハッブル望遠鏡のことも、火星探検も書かれていない。改訂版が出てほしいな。それを待つことにしよう。

 なお、宇宙論の変遷はサイモン・シン「宇宙創成」(新潮文庫)、もっと思想史よりになると、ハーバート・バターフィールド「近代科学の誕生」(講談社学術文庫)が参考になった。

2011/07/11 サイモン・シン「宇宙創成」(新潮文庫)
2013/02/11 ハーバート・バターフィールド「近代科学の誕生 上」(講談社学術文庫)
2013/02/08 ハーバート・バターフィールド「近代科学の誕生 下」(講談社学術文庫)