odd_hatchの読書ノート

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エドゥアール・ロネ「変な学術研究2」(ハヤカワ文庫)

悪ふざけで釣りたてピチピチの魚を飲み込んだらなんと窒息死!ちょっとしたお楽しみのためにガムテープで口をふさいだらそのままご昇天…誰もが平穏な死を迎えるとは限らない殺伐とした現代で、不可思議な死の真相を暴いてくれる法医学者たちの冷静な仕事ぶりに密着。殺人、自殺、病死、事故死などあらゆる死の現場に立ち向かう彼らには涙を流すヒマなどない。めざすはただ真実のみ!超ドまじめサイエンス・コラム集。

 文学に現れる自殺というと、「悪霊」のキリーロフとスタヴローギン、「罪と罰」のスヴァドリガイロフ、「アンナ・カレーニナ」になるかな。あとは大江健三郎万延元年のフットボール」が印象的だった。まあミステリの世界になると、殺人が実は自殺であったとか、犯人が追い詰められて自殺というのはよくある話なのでおいておく。まあ、ポイントは文学だとそれほど奇妙な方法で自殺することはないのだ。キリーロフとスヴァドリガイロフは拳銃を、スタブローギンはロープを、アンナは鉄道を使ったわけで、それはまあよく聞く話の範疇に収まる。
 ところが、ここにはそんな思い込みを破壊してくれる奇妙な方法がたくさん出てくる。それも性的興奮を高めるための手段として。
・肛門に拳銃を突っ込んで発射
・自分を吊り下げ、床に固定した刃物で腹を刺しているうちに、ロープが切れて刺殺
・感電
・窒息(テープで口をふさいだり、ロープで閉めたり、全身を縛ったり)
・掃除機で性器を吸引
などなど。まあ、人間の性的探究心はおそるべきものだ。死とほとんどすれすれのところで感じるエクスタシーというのはいったいどんなものかしら。でもねえ、快楽は最初の一撃が最高で、二度目以降はでがらしなのだと思うのだ。そんな自分には、描かれた多くの探求者・求道家冒険者ほどの熱意と創意はありません。あとは精神障害を起こしたときの肉体嫌悪、身体忌避のすさまじさにも注目。
 この本の記載は世界の法医学雑誌に掲載された論文を集成したもの。人が死んだことを法医学者は精密に記述していく。徹底的に即物的で、個人の感想や印象はまったく記載されず、故人がなぜそのような死を準備したのかという文学的・心理的な興味にも一切触れない。ここにも一種の心理嫌悪みたいなものを見出せるのかしら。
 あまり愉快になることはないが、まあ、自分の死を相対化するにはいいかもしれない。これらの即物的で膨大な奇妙な死の記述に触れたとき、私自身の死には、どこにも特権的なことは無いと思うのだから。
 ところで幼児から児童のころに、コインを飲んだことがあると思うが、硬貨はそのままの姿では排泄されない。強力な胃酸(ph2くらい)のために数10%が解けてしまう。子供のころの恐怖は根拠がなかったことがわかりました。なお、大量のコインを飲むと溶けた金属による中毒で死亡することがあるので注意。そのためには100枚を超える硬貨を飲まなければならないらしいけれど。