odd_hatchの読書ノート

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ジャン・ジュネ「泥棒日記」(新潮文庫)

 1914年生まれ。父親のことは誰も知らず、母もすぐに子育てを放棄。そのため孤児院で生活。その後は、男娼、泥棒、その他の犯罪で生計を立てながら、1930年代にヨーロッパ中(文中にでてくるだけでもスペイン、イタリア、ユーゴスラヴィアチェコポーランド、ドイツに行ったとされる)を放浪する。第2次大戦勃発と同時に、逮捕、獄中生活。そのときに戯曲を読み漁り、創作を開始。戦後46年に第1作「花のノートルダム」を発表。サルトルらに認められて、作家生活を確立。一時、終身刑に処されるところをサルトル以下文化人の救命嘆願により釈放された。「泥棒日記」は1949年発表の第4作。おそらく彼の小説の最高傑作との由。
 大部な上に、たくさんのナラティブがでてくるので、おなか一杯。気になるところだけ。
 この人の半生は、犯罪・非社会的行為のオンパレードだった。だから、法の枠の中にいるごく平凡な人とは倫理が異なっている。彼(ら)は窃盗、強盗をすることに躊躇はないし、男娼もまた卑屈になるような行為ではなかった。法の枠の中にいる連中に対する尊敬や関心をほとんど持っていなかったのだといえる。さすがと殺人については実行することをたやすくやることはなかったにしても、そういう可能性で躊躇することはないだろうと書いてもいる。また彼らの同類に対する意識においても、裏切りをすることは悪ではないと考えている。そのように通常の社会の規範を大きく逸脱しているのだが、(にもかかわらずか、であるからこそはわからない)、著者ジュネは美を意識している。その「美」の内実もまたわれわれとは異なるものなのだが。それをどのように言い表せるのかは、自分にはよくわからない。
 そうではあっても、この小説(自伝的ではあるが、いわゆるストーリーがあるわけではない)の書き手の精神は非常に高貴なものになっている。語り手は、愚痴をいわない・悪口を言わない・ののしらない・悪を正当化しない。そして、過去の自分、その係累や関係者のことを冷静に距離を置いて的確にみている。