デュラスや武田泰淳、金子光晴は年取ってから人生を振り返ったが、こちらはきわめて若い時にキャリアを止めた場合の半生記。
1981年のベストセラー。自分にとってはその少し前のキャンディーズの解散のほうがインパクトがあったなあ。そういえばこの年には、TVを持っていなくて、新聞もとっていなかった。そりゃあ関心を持つはずがない。(書かずもがなだけど、インターネットも携帯電話もなかった。念のため)
山口百恵は1959年横須賀生まれ。14歳でデビュー。映画やTVドラマで共演した三浦友和と21歳に結婚。芸能界を引退。その後は芸能界やマスコミと一線を画している。この本は引退にあわせて書かれた。内容は、出生と性と結婚、あといくつかの思いつき。21歳という年齢だと、語ることは内面しかない。その内面もまだ十分に深く探査されたわけではないので、ごく通俗的な物語を自分のオリジナルな話として書くことになる。まあ、そのあたりは世の中にある多くの20代はじめの書き手、あるいはアイドル本の中身から大きく外れるわけではない。とはいえ、(少し)驚いたのは、この年齢の書き手にしては、しっかりした・浮ついたところのない・足のついた議論をしていること。単純には、北山修「戦争を知らない子供たち」とか高野悦子「二十歳の原点」、奥康平「青春の墓標」、樺美智子「人知れず微笑まん」なんかよりも充実した内容を持っているかもしれない、と思ったのだ。たぶん、芸能界で10代のときから大人と付き合ってきたこと、特別な出生をもっていること、その一方で友人を持ってこれなかったことなんかで、年齢にしては大人びたところがあり、その一方で幼いところがあり、そこらのアンバランスさと、しっかりした物の考え方のギャップに目を見張ったのかなあ(まあ、もともと人の目に触れることを前提にしてかかれたものと、公開を前提にしていない日記を比較するのはおかしい)。
もうひとつは、アイドルが出生や性、結婚をあからさまに書いたこと。この直前にエリカ・ジョング「飛ぶのが怖い」がベストセラーになって「女の自立」が議論のテーマになったり、それ以前の性の解放を求める運動などがあったりして、その影響かもしれないけど、こういう率直さというのは注目すること。表情からはなかなか内面を測ることの難しい人だったが、こういうことを考えていたのだね。忙しかった、眠たかったと往時を述懐するアイドルとはちょっとちがっていたのだ。
結婚後は、本人の意思とは無関係にプライバシーを暴かれたりしていたけれど、このところは息子が成人して、彼女の周りは落ち着いてきた。それでいいのだ。