odd_hatchの読書ノート

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石川達三「僕たちの失敗」(新潮文庫) 

 たしか1974年にNHK銀河テレビ小説でこれを原作にしたドラマをやっていた(夜9時40分から二十分のテレビドラマで、2週間10回の構成だったと思う*1五輪真弓の主題歌がかっこいいものだった。「落日のテーマ」というんだそうだ。サビのところは覚えている)。夜の大人の番組を子供が少し背伸びしてみたいころだったから、かなり面白がってみていたものだ。内容も出演した俳優もなにもおぼえていないのだが。
(リンクを削除しました。2015/11/25)
 その後同じ作者の「青春の蹉跌」を高校3年のときに読んで、なんだこれは、ドライサーの「アメリカの悲劇」と同じじゃないかと、ドライサーを読んでもいないのに怒った。以来、石川達三には興味を持たなかった。
 でも、実家にずっとほったらかしにしておいたのがあったので整理を兼ねて、一気に読了。
 石川達三というのは、裏「三島由紀夫」裏「石原慎太郎」なのではないかと思う。この小説、筋はしっかりしているかわりに、人物がどうにも平坦で面白みがないし、何でそういう偶然が起こるのというようなことをやっているからだ。いかにもこしらえ物の小説、という感じが、上記の二人を思い出してしまう。しかも主人公は、自己中心的で、わがままで、他者への配慮を欠いたものとして設定されていて、これは当時の太陽族とさして違わないところの精神の持ち主だ。彼が「失敗」を繰り返して、自衛隊に入隊し交通事故を負うところなぞ、上記への揶揄というか、意地悪というか、皮肉を感じてしまう。皆さん、太陽族のようにその日暮らしの気ままな生き方をしているのでは、こういう風に自業自得な出来事にあうのですよ、と原稿用紙の向こうでいっているのではないかしら。
 上記のような思い出があるので、70年代初期の作かと思ったら、1961年の作。母子家庭の工員がいる。彼は恋人との関係がややこしくなるのをおそれて、契約結婚ということを行う。それを切り出したら、恋人や母を巻き込んだいざこざがいろいろ起きて、彼に降り注ぎ、ドタバタするという次第。
 これは当時の風俗、比較的貧困な層の、をしっかりと描いたものだった。とはいえ工場描写も抽象的なので、職工の暮らしぶりはイメージするのが難しいが、当時ではくだくだしい描写がなくても済んだのだろう。東映大映あたりの当時の映画を見ておくといいかもしれない。また、核戦争の恐怖というのが底にあって、なるほど黒澤明「生き物の記録」や大江健三郎ヒロシマノート」などの核へのリアリティ、恐怖というものが一般生活者にも浸透していた時代であったことを彷彿させる。原水爆禁止運動も政党や文学者とは関係なく、杉並の主婦たちが始めたものだというし。
 さて、契約結婚という新しい家族制度の実験についてであるが、自分が独身であることと、上のような揶揄みたいなものに目をとらわれていたので、特に感想はなし。時代からすると、サルトルボーヴォワールがモデルなのかしら。
 しいて言えば、「僕」という理屈っぽい20代前半の男(自立しているようでいて、女に依存しているようだ)の思弁が中心に話が進んでいくのだが、彼の周りの女性は彼の思想を上回るスピードで、「自由」を獲得していく。「契約結婚」という思想をそれぞれ自分の身にひきつけて解釈しなおし、「僕」の予想以上の行動をとっていく。それに「僕」はたじたじとなっていく(契約結婚のあいては契約を理由に「僕」から離れ、契約結婚に反対している母は別の男と再婚するなど)。なるほど、こと恋愛に関しては男は観念的であり、女性は行動的であるのだ。決断に関してのすっぱりとしたところは、やはり男は女にはかなわないのだなあ。そういう女の豹変ぶりと翻弄されておろおろする男の情けなさが面白い。
 1960年代が「契約結婚」であるとすると、70年代が「同棲」(上村一夫「同棲時代」)、80年代が押しかけ(「うる星やつら」、「翔んだカップル」、「みゆき」)、90年代が「援助交際」と「できちゃった婚」と言う具合に、性交や結婚の感覚もまた変わってきていて、そういう問題に最初に触れた小説であったのかと思う。作者はぼかしているが、上のようなことを考えると、うまくいかないよといっているように思うが、これは下種のかんぐりか?
山田風太郎神曲崩壊」の憤激の地獄に石川達三が登場。山田によると、石川達三共産主義の思想を除くと、単なる風俗小説家にすぎないという。)

 さらに世代が上のひとたちの結婚に関する諸相。
福永武彦「夜の時間」(河出書房) - odd_hatchの読書ノート
金子光晴「どくろ杯」(中公文庫) - odd_hatchの読書ノート

 「落日のテーマ」のカバー。いい感じです。
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*1:2012/3/29 間違えてました。1974年8月5日〜9月13日、全30回とのこと。ごめんなさい