odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

森雅裕「ベートーヴェンな憂鬱症」(講談社文庫) あの陰鬱キャラのベートーヴェンが弟子のチェルニーを掛け合い漫才しながら事件を解決。

 収録されているのは4編。

1.ピアニストを台所へ入れるな・・・ベートーヴェンの部屋でピアニストが死んだ。彼の断末魔の叫びはアパート中に響き渡った。「よくもやったな!ベートーヴェン!」。状況証拠から冤罪を被るベートーヴェン。そこへ死んだピアニストの弟子のチェルニーが現れる。
2.マリアの涙は何故、苦い・・・ドガディ教会のマリア像が涙を流す?しかもマリア像に関わった人間が次々と死んでいく。調査を進めるうちに、かつての恋人ジュリエッタも絡んでくる。
3.にぎわいの季節へ・・・王女を救い出して欲しい。突然ベートーヴェンの元へ舞い降りた依頼。ある時はオーダーメイドオルゴールを使って、ある時は気球に乗って、ベートーヴェンは奔走する。
4.わが子に愛の夢を・・・突然ベートーヴェンの前に現れた2人の子供。聞けばジュリエッタベートーヴェンの愛の結晶だという。そんな時、チェルニーが弟子を連れてきた。フランツ・リスト……。嫌な予感である。

 いつものようにネットで梗概を取得。時代考証が正確で、政治状況から文化、技術、大衆現象までよく調べられている。代わりに人物はマンガかアニメのように記号化された「キャラのたつ」ように描写されている。主役のベートーヴェンチェルニーも、日本のギャグアニメにでてくるような掛け合い漫才をするのだから。ベートーヴェンの同時代あたりに書かれた小説の会話とは、まるきり違うのだから。そのあたりを割り切って、ここには史実とおりの人物はいないと考えれば、ストーリーは楽しいものだ。制約の多い世界を作りながら、現代の読者を満足させたのは、よくやった!と拍手。