odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

コーネル・ウールリッチ「もう探偵はごめん」(ハヤカワポケットミステリ)

札束恐怖症 ・・・ 小悪党が屋台の売上を盗んで逃げた。警官に押さえつけられたが、金を持っていない(この隠し場所トリックはなかなか実用的、あれっ)。小悪党が友人の医者に弁護を頼むと、証人にたって小悪党が札束アレルギーであることを証明する。無罪で放免された直後のどんでん返し。たった3行しか使っていないのだ。

もう探偵はごめん ・・・ 大学以来の親友の結婚式。パーティで新婦の妹と踊っているうちに、彼女は崩れてしまい、そのまま死んでしまった。新婦に贈られた薔薇の刺に指を刺したのが原因。刺には致死量の除草剤が塗ってあった。薔薇は親友が買ったもので、「わたし」は彼への疑惑を晴らすために、花屋そして親友の一人前のガールフレンドに会いに行く。彼女の口からは別の疑惑が語られる。例によって、とてつもなく不吉な結婚式。そして親友のために人肌脱ぐ好青年。今回はとても苦い結末だった。

バスで帰ろう ・・・ 長編「暁の視線」の元(であるはず)。ストーリーは長編を読んだときに語ろう。細部の違いは、長編はダンスホールで始まるが、ここでは女の部屋。あとはほぼ同じ。「街(ニューヨーク)は人の気をくじけさせる」から、田舎の隣の家の男の子と帰ろう。午前6時のバスに乗り遅れたら、二度と田舎に戻れない。こういう焦燥感とセンチメンタリズム、男女の初々しい恋愛(女性が主導権をとるのはこの時期には珍しい?)が絶妙のバランスで書かれている。
2012/01/25 ウィリアム・アイリッシュ「暁の死線」(創元推理文庫)

歌う帽子 ・・・ エレベーターボーイの男が安定食屋で帽子を間違えた。そこには手の切れるような20ドル札が20枚。世間を騒がせている偽札だ。この男は殺されてしまう。警官は部屋に残された帽子を手に取ると、何が起きたのかすぐさまわかった。そこからは偽札使いのアジトを見つけるための丹念で計画的な捜査。そして敵のアジトへのアタック&エスケイプ。後半の冒険は日活の無国籍アクション映画だな。あと犯罪に気づいた理由というのが小粋。本格風の味付けをアイリッシュは忘れない。

お前の葬式だ ・・・ 全国を震撼させた凶悪犯、ある町のアパートに追い詰められた。すでに警察の包囲が終わり、住民は退避させられている。銃撃にガス銃攻撃も加えられる。アパートの一室で葬儀があったので、それを利用して逃げることを企てた。浅間山荘や東大安田講堂の攻防戦を知っているものにとっては心底恐ろしい描写。その後、策を授けられた女の焦燥も。アイリッシュの作品ではストレートなもので、ひねりもない。恐怖と恐慌の描写でおなかいっぱい。

モンテズマの月 ・・・ メキシコ国境を渡ってきた女。倒れる寸前にあるあばら家にたどり着く。そこには姿を消した良人がいるはずだった。彼女を迎えたメキシコ人の老婆と娘が妖しく女を迎える。アステカの神々、神話が引用されて、風景は幻想的、怪奇的に変じる。ほとんどモダンホラーの世界。文体も凝ったものになって、現実と夢の境が消えていく。

黒いリズム ・・・ 原題は「パパ・ベンジャミン」。オットー・ペンズラー編「魔術ミステリ傑作選」(創元推理文庫)に収録されたものと同じ。人生は短いので読まないことにする。

 アイリッシュの短編集は、創元推理文庫で6冊。ハヤカワミステリでも別に編まれていて、これとは別に「睡眠口座」「ぎろちん」があるのをしっている。他にもいろいろ独立して収録されたものがあり、全短編を読むのは難しいだろうな。この短編集もたしか文庫にはおちていないはず。