odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

土田直鎮「日本の歴史05 王朝の貴族」( 中公文庫) 平安期は民衆や地方の武士に関する資料が少ないので、歴史記述は貴族ばかりになる。

 西暦1000年を境に前後50年の約100年を記載。タイトルにあるように天皇を中心にした摂関政治のことを記述している。それは当時の資料がどうしても貴族の日記や公文書、さらには歴史物語に偏するためで、民衆や地方の武士に関する資料が少ないから(文書が散逸、紛失したから。考古物件に頼ることになるから)。
 網野善彦「日本中世の民衆像」などとつきあわせると、こんな制度であったと仮構できるかしら。
200年には九州あたりで国が作られる。それに対応して作られた国が次第に東方に広がっていく。
・奈良や平安時代の前半を通じて、これらの国を統括する政治権力ができる。これは天皇を中心においた政治権力。初期は指導者の強力なカリスマ性に依存していたが、次第に複数の指導者が協力する制度ができてくる。簒奪したのが、たとえばここに出てくる藤原道長
・この中央集権の体制の基礎となるのが荘園制度。とはいえ、中国的な官僚制度までにはいたらず、地方の「村」「惣」などを基盤にした権力、国を完全に統制しているわけではなかった。
・この「王朝の貴族」に書かれた時代は、とりあえず中央と地方の折り合いはできていた。
鎌倉幕府は、王朝の貴族の制度にはあまり手をつけず、その政権で疎外されていた武士、地方の荘園の指示を取り付けたもの。それぞれの政権の首都から離れると、二重権力体制があって、それぞれの荘園は思惑にしたがって、王朝についたり、幕府についたりした。
・このような二重権力体制がしばらく続いたが、王朝の荘園制度が解体したのは、南北朝から応仁の乱あたりにかけて。その後の戦国時代で再編成。このとき「村」「惣」の自治権が壊滅。そして中央集権制度が列島の隅々まで(比喩として)行き渡る。

              • -

 平安朝の貴族たちは日々の儀式をいかに正確に行うかということに気を配っていた。一つの儀式(たとえば正月)は数日続き、それが細かい規則にのっとって行われる。ほぼ毎日何らかの儀式があり、旱魃や長雨があると急きょ儀式を追加することになる。それらを執行するのは左右の大臣たちで、彼は数十の部署を調整し、数百の人を指揮し、問題のつど天皇(や蔵人頭など)に裁可を得なければならない。式の規則を明記した書物はないから、父の日記を手がかりに古い儀式の執行を調べなければならない。というわけで、儀式を執行できるということが出世の(ひとつの)手段になってくる。
 ああ、この世界はマーヴィン・ピークゴーメンガースト城」と同じだ。スティアパイクがのし上がったのは、この城で唯一の儀式執行官になるところからだった。

井上光貞「日本の歴史01 神話から歴史へ」(中公文庫)→ https://amzn.to/3U6toWl
直木孝次郎「日本の歴史02 古代国家の成立」(中公文庫)→ https://amzn.to/3UspdFW
青木和夫「日本の歴史03 奈良の都」(中公文庫)→ https://amzn.to/49LLVwT
北山茂夫「日本の歴史04 平安京」(中公文庫)→ https://amzn.to/3QbxMCi
土田直鎮「日本の歴史05 王朝の貴族」(中公文庫)→ https://amzn.to/4b4Zdpn
佐藤進一「日本の歴史09 南北朝の動乱」(中公文庫)→ https://amzn.to/4b2s4e7
永原慶二「日本の歴史10 下剋上の時代」(中公文庫)→ https://amzn.to/44bRweI
杉山博「日本の歴史11 戦国大名」(中公文庫)→ https://amzn.to/3w5WpJR
林屋辰三郎「日本の歴史12 天下一統」(中公文庫)→ https://amzn.to/3U6tq0p
辻達也「日本の歴史13 江戸開府」(中公文庫)→ https://amzn.to/3wcH8a5
佐々木潤之介「日本の歴史15 大名と百姓」(中公文庫)→ https://amzn.to/3xPNnBq
児玉幸多「日本の歴史16 元禄時代」(中公文庫)→ https://amzn.to/4aZv8ra
北島正元「日本の歴史18 幕藩制の苦悶」(中公文庫)→ https://amzn.to/3U58TcN
小西四郎「日本の歴史19 開国と攘夷」(中公文庫)→ https://amzn.to/3UtaLxt
井上清「日本の歴史20 明治維新」(中公文庫)→ https://amzn.to/3vYPmTj
色川大吉「日本の歴史21 近代国家の出発」(中公文庫)→ https://amzn.to/4a2uJDP
隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」(中公文庫)→ https://amzn.to/3JsUUbH
今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)→ https://amzn.to/3Q9i0rC
大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)→ https://amzn.to/3QdyCi9
林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)→ https://amzn.to/4aZOKvo
蝋山政道「日本の歴史26 よみがえる日本」(中公文庫)→ https://amzn.to/3UbT1F8


2016/04/15 堀田善衛「定家明月記私抄」(ちくま学芸文庫) 1986年
2016/04/14 堀田善衛「定家明月記私抄 続編」(ちくま学芸文庫) 1988年
2016/04/18 堀田善衛「方丈記私記」(新潮文庫) 1971年