戦前の探偵小説は目に付く限り集めようという気持ちはある(2004年当時。今はもうない)。1970年代には、江戸川乱歩と横溝精史をのぞくと、現代教養文庫と角川文庫の小栗虫太郎、夢野久作、久生十蘭くらいしかなかった。それがいまではちくま文庫と光文社文庫と春陽文庫と創元推理文庫でかなりの数が入手できるようになった。とはいうものの、上記のビッグネーム以外の作家のものとなるとなかなか触手が湧かない。
この短編集も読みきるのに半年くらいかかった。この短編集は鮎川哲也が自前の蔵書から埋もれた戦前、戦後の怪奇小説を見つけてまとめたという趣向のもの。「新青年」から「宝石」「ロック」あたりに載った作品ならばそれなりの質があるだろうと見当が着くものの、ぞっき本やカストリ雑誌に載った小説ともなると、これはそうとうに質が低く、読むのに骨が折れる。素人の作品もたくさんあるようだ。改行もなく延々と描写が続いたり、たいして深くもない表面的な主人公の内的独白が続いたりするものがおおい。もう、やれやれである。
そういうものの中に橘外男や渡辺温あたりがはいっていると、しっかりした文章でようやく小説を読んでいるという気持ちになれるのだ。江戸川乱歩、大阪圭吉、小酒井不木、海野十三などはプロの仕事。うん、怪奇小説というけど、岡本綺堂、田中貢太郎がはいっていないや。
手元には第3巻があるが、いったいどのくらいの時間をかけて読むことになるのかねえ(結局、2か月かかった)。
中島河太郎編「日本ミステリベスト集成1戦前編」(徳間文庫)
中島河太郎編「君らの魂を悪魔に売りつけよ」(角川文庫)
中島河太郎編「君らの狂気で死を孕ませろ」(角川文庫)
のほうが面白い。
■ 怪奇探偵小説集 鮎川哲也編 [ハルキ文庫 あ4-1] 1998/5
悪魔の舌 村山槐多/白昼夢 江戸川乱歩/怪奇製造人 城昌幸/死刑執行人の死 倉田啓明/B墓地事件 松浦美寿一/死体蝋燭 小酒井不木/恋人を食う 妹尾アキ夫/五体の積木 岡戸武平/地図にない街 橋本五郎/生きている皮膚 米田三星/謎の女 平林初之輔/謎の女 続 冬木荒之介(デビュー前の井上靖だとか)/蛭 南沢十七/恐ろしき臨終 大下宇陀児/骸骨 西尾正/乳母車 氷川瓏/飛び出す悪魔 西田政治/幽霊妻 大阪圭吉
■ 怪奇探偵小説集 鮎川哲也編 [ハルキ文庫 あ4-2] 1988/6
踊る一寸法師 江戸川乱歩/悪戯 甲賀三郎/底無沼 角田喜久雄/恋人を喰べる話 水谷準/赤い首の絵 片岡鉄兵/父を失う話 渡辺温/決闘 城戸シュレイダー/幻のメリーゴーラウンド 戸田巽/霧の夜 光石介太郎/魔像 蘭郁二郎/壁の中の男 渡辺啓助/喉 井上幻/葦 登史草兵/眠り男羅次郎 弘田喬太郎/蛞蝓妄想譜 潮寒二/逗子物語 橘外男
■ 怪奇探偵小説集 鮎川哲也編 [ハルキ文庫 あ4-3] 1988/7
双生児 江戸川乱歩/踊り子殺しの哀愁 左頭弦馬/皺の手 木々高太郎/抱茗荷の説 山本禾太郎/怪船『人魚号』 高橋鉄(作家としてよりセクソロジー研究家として有名。大島渚「新宿泥棒日記」に出演)/生きている腸 海野十三/呪われたヴァイオリン 伊豆実/くびられた隠者 朝山蜻一/くすり指 今日泊亜蘭/嫋指 平井蒼太/壁の中の女 狩久/呪われた沼 南桃平/墓地 小滝光郎/マグノリア 香山滋/死霊 宮林太郎/人肉嗜食 永田政雄