odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

貝塚茂樹「世界の歴史03 中国のあけぼの」(河出文庫) 帝国の誕生は文字による記録が作られる前。国家の起源はよくわからない。

 先に鈴木良一「織田信長」を読んでいたのだが、信長の時代である1500年代の100年間に起きたことは、中国では春秋戦国時代の約500年間(紀元前700年から紀元前200年まで)に起きたことなのだ、と考えた。ということは、中国は日本より約2000年早く歴史を進み、あるいは日本は中国に遅れること2000年であった。それは封建社会・中央集権国家を過ごした期間の多少にかかわっていて、「西洋列強」と文明の衝突を起こし、資本主義社会と民主主義体制をどのように咀嚼するかに大きな影響を及ぼしていると思う。昨今の中国の混乱、流動化をこのあたりから見ることも可能なような感じ。
 さて、春秋戦国時代に起きたこと。
・邑(ゆう)と名付けられた村落共同体の没落・・・国家という生活の場から切り離された共同幻想の権力が成立していったというところ。
・土地私有制の確立・・・土地の売買が可能になったり、開墾地の私有が認められたり、など。
・生産力強化のための公共財の生産・・・たいそうな言い方をしたが、つまりは大規模灌漑施設の建設。村落共同体では負担・実現できない巨大プロジェクトを実行できる組織として、国家が生まれたということ。それ以前の殷や周という村落共同体の親玉の集合体という国家はついぞこのような公共財の生産と管理を行うことはなかった(らしい)
・生産技術の向上・・・それまで石器・木器だけだったところに鉄器の生産が可能になる。これにより、森林の開拓が可能になり、とくに中部(たぶん黄河周辺)の生産性が高まる。それが人口増につながり、軍事力の強化になる、という具合に富国強兵策を取ることを可能にする。
・工業生産従事者・・・通常、工業生産(当時では道具の作成)は農家の副作業のようなもので、兼業であるのが常だった。この時期に、鉄その他の工業生産を専業にし(ということは原料の生産と加工が別になっているということ。これを実現するためのロジスティックと市場があったということなのだろうか)、都市で生活するものが生まれた。単純に権力者と家来が一緒に住む地域でもなく一時的な商品売買のいちばである路次でもない、複数のビジネスがネットワークされた都市が生まれている。
・メディアの発達・・・文字の発明、本の発明(初期は木、のちに紙)。
・法の明文化・・・それまでは慣習に基づいていたが、明文化した法を作り、公開したのはこの時期。
 このような「生産革命」が起きた。たぶん他のどの場所よりも早い。この時代を詳しく見ることは、マルクスの「疎外」が実現していく様子を観察することができるかもしれない(「ドイツ・イデオロギー」の感想を参照)。念のためにいっておくと、ここおよびリンク先の「疎外」は自分の俺様定義なのでご注意あれ。

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<追記 2018/3/26>
 再読完了。上のまとめは春秋戦国時代にフォーカスしたが、今度は秦、漢以降に注目。
春秋戦国時代の変化で特に注目するのは、商工業の発達(それによる職業の文化)と貨幣経済の浸透。これが進むには国家の支援と統制があったわけで、さまざまな国家があった状態からさらに強大な連合体ないし統一体ができることが経済発展に有効。国家の側も支援する一方で税収の増加が期待できるわけで、両者の思惑は一致。その背景があって、秦、漢のような巨大「帝国」ができる。帝国が手を付けたのは、度量衡などの単位、文字(フォント)などの制度の統一。
・制度の統一は経済の自由化を目的にするが、こと政治と法に関しては統制に向かうことになり、そこで利用されたのが儒教。とはいえ、せいぜい儒教の国教化くらいまでで、儒教の教えを実践する国家建立は失敗する(例は王莽)。
・同時代のギリシャには民主主義があったが、なぜ中国では民主主義は生まれなかったかというのが、この本を読みながらの疑問。たぶん邑(ゆう)と名付けられた村落共同体は直接民主主義の運営であったと思うが、その上に国家ができると、国家は中央主権で運営され、人権と民主主義は無視される。そのうえ、中国という巨大な大陸では邑とその緩やかな連合体ができない。国家の軍隊はどんな山奥、へき地にもでかける(匈奴の侵攻を防ぐために長城を建設するくらい)。ギリシャの民主主義都市が海に囲まれて容易に侵攻されない場所にあったようにはならなかった。そのうえ、儒教とか家などの思想や社会の制度が階層を固定し差別的であったというところもか。
諸子百家の思想は知らないも同然なのだが、国と個人は思想の対象にする。軍人や商人など職業人の論理も考える。でも、民や衆が出てくることはないように思う。なぜか?すでに邑が解体して、機能しなくなっていたためか?)
匈奴の「脅威」に対して二つの対応法があった。ひとつは長城を建設し軍隊を派遣して軍事的な圧力を加えること。あまりの国土の広さ、防衛線の長さのために軍事費が増加し、国家は窮する。増税、徴兵などによる不満がでて数十年もすると国内で反乱がおきる。そういう社会を不安定にする方法。もうひとつは匈奴との間の妥協点を見出し、融和する政策をとる方法。軍事費が抑制されるので、国内投資にまわり、経済が活性化し、安定した経済成長が可能になる(そういう時期にシルク・ロードが開拓され中東との貿易が開始された)。当然後者の方が優れた政策ではあっても、ときに「憂国」の士が軍事的緊張を高める政策をとり、政治体制の不安定や農民蜂起などを起こした。