ヨーロッパに対してユダヤ人を、アメリカに対してWASPを対置させると、政治・経済・文化を理解するときの有効な補助線になる。同じように、中国に対して客家(ハッカと読む)を対置させると、この国を理解するのに有効だ。ここらへんのみたては独自研究なのでうのみにしないように。
客家は漢人であるが、かなり違った特徴を備えていて、簡単に漢人と同化することがなく、独自の「場所」を占めているという。その中からは有能な政治家、軍人を輩出していて、シンガポールや台湾では政治権力をもっているし、客家出身の訒小平が毛沢東没後に政権を奪取したとき、彼は客家風の家父長的中央集権国家を運営したという。
ユダヤと客家(WASPは以下の類似点からは除外されるだろう)は、被差別性・流浪というあたりで共通し、地縁・血縁でなくとも同じ「場所」の出自であれば、問答無用で支援しあう共同体をもっている。客家とWASPは、フロンティアの開拓で類似していて、客家はもともとは中国中央あたりの出らしいが、元の侵攻以来数回の大規模な移動を行っていて、南部(四川、雲南あたり)から台湾あたりまでに広がった。南部は山岳・高地であって、生産性が低く人口も少ないところだったが、彼らの移住によって(ある程度)高い生産性を持つ場所になった。彼らは政治への関心が強く、中国でしばしばみられる反権力闘争の主役になることがあった。元の侵攻、明の成立、清の時代の太平天国の乱、辛亥革命、そして中国共産党の長征(この経路は太平天国の乱で敗走する兵がたどった経路と同じとのこと)、などなど。そして上記したように、周辺国家で政権を樹立している場合もある。(18世紀にボルネオでは、彼らがアメリカに先立って「共和国」を樹立したということ。この国は60年ほど続いたあと、オランダの軍事圧力によって属国になった。)
(司馬遼太郎と堀田善衛の対談「時代の風音」で、共産党の活動は水滸伝と同じような社会ののけ者、無頼の運動に類似している、というようなことを読んでいたので、このあたりを補完する資料として面白かった。なにしろ歴史教科書には客家のことは書いていないので、多くの日本人は客家のことを知らないだろう。とはいえ、このような集団に大きな意味を持たせると、「陰謀論」みたいになるので、注意が必要。)