odd_hatchの読書ノート

エントリーは2800を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2022/10/06

司馬遼太郎「竜馬が行く」(文春文庫)

 最初に読んだのは中学1年生のとき。「国盗り物語」の大河ドラマを欠かさず見ているときに、「国盗り物語」「の原作を読み、これほど面白い小説があるのかと図書館にいって、同じ著者のこの小説を借りてきたのだった。(自慢することにしよう。それから1年をかけて、「国盗り物語」「新史太閤記(上巻のみ)」「関ヶ原」「城塞」「竜馬が行く」「峠」「坂の上の雲」を読んだのだった。史実順に並べたが、読んだ順番でとは一致しない。山岡荘八織田信長」は司馬遼太郎の書き方の違いに驚いて、1巻の途中で挫折。)
 前半は、伝奇小説風の試み。発達障害かともわれるような「うつけ者」が姉の保護で「すくすく」成長。とはいえ、他者の感情を読むことは苦手で、いいよる女たちの視線に気づかない。社会になじめないどこかおかしな子供が成長して旅に出て大事業を実現するというのは、民話や神話にでてくる定番。大事業の実現のあと英雄は故郷に帰還するものだけれど、竜馬は途中で不遇の死を遂げる。これもまた英雄譚の一種か(ヤマトタケルとかジークフリートとか)。
 さて、青年になると、信夫佐馬介という架空の人物を設定し、竜馬を付け狙うという悪役を割り当てる。同じく寝待の藤兵衛なる商人にして盗賊で義にあつい人物をわきに置く。物語の筋に詰まれば、彼らを登場させればよい。信夫が来れば喧嘩と剣劇が起り、藤兵衛が来れば事件がおこり、陰謀が露見する。竜馬は彼らにつき従うことによって、ヒーローらしい活躍をすることができる。
 さらには、複数の女性を描いて、ロマンスを設定する。竜馬は奥手なので、恋愛は進展しない。いつまでいっても女は竜馬を恋い焦がれ、竜馬ははぐらかす。それぞれに感情移入した読者を獲得できれば、恋愛の興味を持ってずっと小説を読み続けることだろう。幸いなことに竜馬は夭逝し、恋愛は成就しなかったので、読者の興味は結末まで持続する。このあたりは連載マンガに踏襲された技法だな。主人公とヒロインの恋愛が成就するまでは人気を博するのだが、いったん成就すると急速に読者は興味を失うところなんかが。
 この小説によって竜馬は全国の人気者になったのだが、ハーレクインロマンスに登場してもおかしくない人物像によって、彼のイメージが固定されている(ように思える)のは不幸なことかもしれない。
 あえて史的事実を書かない。どうもこれを読んで自分は「維新」を理解したと誤解する人が多そうなので。自分もかつてそのような一人。あとで中公新書の池田敬正「坂本竜馬井上清西郷隆盛」大江志乃夫「木戸孝充」毛利利彦「大久保利通」とか、岩波新書の石井孝「明治維新の舞台裏」遠山茂樹明治維新と現代」奈良本辰也吉田松陰」、ほかにも井上清明治維新」(岩波現代文庫羽仁五郎明治維新史研究」(岩波文庫)などを読んで、ずいぶん小説と違うなあと思った次第。

新装版 竜馬がゆく (1) (文春文庫)

新装版 竜馬がゆく (1) (文春文庫)