odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

都筑道夫「サタデイ・ナイト・ムービー」(集英社文庫) 子供の好奇心とプロフェショナルの目で1977-78年の映画をみる。映画一本1300円の対価にあうだけの内容を持っていたかで評価する。

 1977-78年に連載された映画時評。タイトルは、締め切り直前の土曜の深夜でないと映画を見る時間をねん出できないから、というもの。もちろん当時の流行った「サタデー・ナイト・フィーバー」のもじり。週刊誌の連載なので、古い映画は取り上げない。これからロードショーで見ようという読者のための記事なので、試写会で見るかロードショー初日のもので取り上げることになる。(一応念のためだが、この時代、レンタルVHSはなく、映画を見るには、TVか映画館に行くしかなかったのだ。ネットから映画をダウンロードしてPCで見るというのは、想像すらつかなかったころ)。
 戦前から封切館に通い、戦後も見てきた人なので、昔話がでてきて、自分のようなレトロ趣味のものにはありがたい。

 この人の趣味は、いわゆる文芸大作ものとかラブロマンスとかヒューマンものとかには興味を向けない。声高な主張をするものは敬遠するということになる。しかも、ミステリーにSFに伝奇小説にと、エンターテインメント小説の実作者であるだけに、仕掛けやストーリーの構築などにはうるさい。あわせて舞台を見る経験もあったのか、役者の演技やカメラの演出などにも注文をたくさんだす。といって、特殊撮影や映像トリックを「子供だまし」などと一蹴することもない。ロジャー・コーマンの怪奇映画もレイ・ハリーハウゼンストップモーションアニメも楽しみ、高い評価を付けている。驚くべきことに、特撮のあるポルノ「フレッシュ・ゴードン」を取り上げているのだ! 自分の知っている限りまともに取り上げられたことのない映画なのに(なにしろ下半身裸の男女がジェシカを踊るわ、ペニス型宇宙船で空を飛ぶわと、むちゃくちゃなんよ)。子供の好奇心とプロフェショナルの目をもっているわけだ。でもって、評価のポイントは映画一本1300円の対価にあうだけの内容を持っていたか、つまり元を取れたかで判断しているわけで、なるほど分かりやすく潔い。
 そういう眼でみたときの、1977年のベスト5は以下の通り。
1位 エクソシスト
2位 カプリコン1
3位 センチネル
4位 シャーロック・ホームズの素敵な挑戦
5位 007私を愛したスパイ
 ちょっとふつうじゃないよな。「ロッキー」と「未知との遭遇」「幸福の黄色いハンカチ」は評価が低い(翌年公開の「スター・ウォーズ」は3回とりあげるほどの熱中ぶり)。
 一方、邦画は「ハウス」だけをあげている。幽霊屋敷ものもどきなところが琴線に触れたのでしょう(ハイティーンから20代前半のアイドル女優がヌードになったり下着をみせたりと大活躍)。野村芳太郎監督の評価が自分に似ていて、「砂の器」「八つ墓村」はよくないといっている。残念ながら映画に関する薀蓄は小説にたくさんでてくるものの、この人の好きな映画を存分に描いたものは少なくて、まとまっているのはこれくらいではないかな。もったいない、もっとたくさん話を聞きたかった。