もどきシリーズ第三弾。原作者を調べておいたが、読んだことのあるのはひとつもねえや。こちらは1984年単行本初出。
枠組みは、明治の時代に新聞社に勤める書生が書き手。速記を練習しているところを青沼という老人と知り合う。この老人が菅谷半次郎という零落した武士の面倒を見ている。菅谷はときどき幕末に活躍した剣士や英雄の真似をするという奇癖をもっていた。
鞍馬天狗もどき ・・・ 原作者は大佛次郎。頃は明治の半ば。銀座の町中でスリを捕まえたら、袂に手紙が。そこには砲兵工廠午後10時という書付がある。維新前鞍馬天狗の名前で活躍していたのを思い出し、日清戦争直前(明治27年という設定)、清国の軍事探偵の暗号だということになって、三人で張り込むことにした。曲者は取り逃がしたものの、ピストルと鉛メンコ(角をとがらせた武器)を見つける。そして清国の曲芸団に目を付けた。
座頭市もどき ・・・ 原作者は子母澤寛。これからあとは半次郎と青沼の若いころの話で、幕末のころになる。若い女曲芸師が地回りの悪いやつに目をつけられ、ツボふりをさせられた。昼は芸で夜はツボふりと休む暇がない。意気に感じた半次郎。座頭の市の真似をして賭場に乗り込む。出入りは2回あるのだが、最初のは颯爽と、あとのはドタバタと、書き分けが見事。吹いた。いわずもがなだが、勝新太郎主演の映画とTVドラマは見ておいたほうがよい。
丹下左膳もどき ・・・ 原作者は林不忘。吉原とは格の違う女郎街で突然「どろぼう!」の声。逃げる相手をつかまえてさしだすと知らないと女郎は白を切る。逃げた相手は15-6の餓鬼で、兄の敵をとるのだ、そのために女郎の弱みを盗ったといって、なにかの付文をだす。どうやら吉原に大火事を出す算段をしているらしい。
木枯紋次郎もどき ・・・ 原作者は笹沢佐保。今度は新宿が舞台。博打に入れあげた百姓が借金を親分にしたおかげで娘を苦界に落とされた。親爺が臨終間近というので、女郎の一晩だけの足抜けを手伝うことになる。見事に成功したものの、事件は親分と足抜けの計画を立てた旗本の一騎打ちになり、ついには切りあいに。賭場を書くのは作者は得意で、寿屋の「洋酒天国」(新潮文庫)に読みきりの短編を書いているので、読んでやってください。同時代の読者はもちろん中村敦夫の紋次郎は知っているだろうけど、同時に江波杏子の「女賭博師」シリーズも見ているわけ。サービス精神抜群のセンセー。
眠狂四郎もどき ・・・ 原作者は柴田錬三郎。吹き矢の天才児がいて、射的場で遊ばせると仕掛け的に次々に命中。眠狂四郎の半次郎は地回りの悪巧みを聞き込み、あとをつける手はずをつけたらそこに用心棒の剣客が。おかしな賭けのあと、今度は半次郎と用心棒の奇妙な一騎打ち。ここも市川雷蔵主演の映画を見ておいたほうがよい。エロかったなあ。
藤枝梅安もどき ・・・ 原作者は池波正太郎。今度は品川の女郎屋が舞台(川島雄三「幕末太陽伝」参照)。梅安もどきの半次郎についた女郎が仕掛を依頼する。依頼先は、青沼についたお駒という女郎。青沼を呼び出して話をして戻ったら、お駒が殺されていて、店に入る前にであった浪人もそこで死んでいる。直前には裸の女の幽霊も現れた。ここらへんの入り組んだ人間関係があらわになり、最後は青沼と鎖鎌の名人の一騎打ち。梅安もどきが珍妙な食事をするのが笑える。そして、最後のエピソードが冒頭の「鞍馬天狗もどき」に帰り、さてさてこのもどきシリーズ全巻のおしまい。
これは原作を読んでおくより、映像になったやつをみておかないと面白さは半減だなあ。そういう点では自分は楽しみの半分も咀嚼できなかったなあ。中村敦夫の木枯紋次郎と緒方拳の藤枝梅安はろくにみていなかった。鞍馬天狗も戦前の嵐寛寿郎のはみていないし(竹中労「鞍馬天狗のおじさんは」(白川書院)でしっているくらい)。丹下左膳は山中貞雄「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」をパブリックドメインでみたことはあるが、これはホームドラマコメディで本来のチャンバラではない。戦後のマキノ雅弘「続・丹下左膳」は正統チャンバラ映画。自分はこの作の良い読み手ではないなあ。
〈もどきシリーズ〉
2012/10/18 都筑道夫「名探偵もどき」(文春文庫)
2012/10/17 都筑道夫「捕物帳もどき」(文春文庫)
2012/10/16 都筑道夫「チャンバラもどき」(文春文庫)