もどきシリーズ第二弾。一応背景を説明しておかないといけない。ころは江戸の終わり。吉原の唐琴屋の若旦那・丹次郎は捕り物ごっこが大好きで、町の名人のまねをしては、幇間・梅廼家卒八を困らせる。それを明治の半ばに、速記術を勉強している書生に聞かせることになった。「半七」の仕組みをかり、「東京夢幻図絵」も踏襲しているという次第。というか「東京夢幻図絵」は1970年代なかば。こちらは1982年単行本初出。
平次もどき ・・・ 銭形平次の作者は野村胡堂。花魁が持っている名人の人形が用水桶の中で首を絞められている。それを聞いた丹次郎、もとい平次親分は中でなにか悪巧みが準備されているという。臭いやつとして旦那吉に民治が浮かび上がる。吉原が一般開放される燈籠祭りの夜。
右門もどき ・・・ むっつり右門の作者は佐々木味津三。一冊読んだけど記憶にない。ある店で幽霊が出たといううわさが広まった。そこでは以前沖津という花魁が若死にしていて、続けて玉浦花魁が使っている。そこに来たなじみの客と花魁がそろって幽霊騒ぎにあっている。なるほど色街が舞台では砂絵のセンセーも、顎十郎にも手が出せない。
佐七もどき ・・・ 人形佐七の作者は横溝正史。死神にあった。というのが冒頭で、その前に首くくりをしようとしていた侍を丹次郎と卒八が助けたという話になる。順番を逆にしてショッキングシーンを前にした。読者のつかみはばっちり(死語)。さて、侍の首くくりの理由は刀を盗まれたからで、その刀は明日公方様にご拝謁願うという業物だ。プロットのねじれ具合がみごと。
若様もどき ・・・ 若様侍の作者は城昌幸。今度は日常の不思議さに目をつけてストーリーを膨らませていく。孫太郎虫という漢方薬を買った清元の師匠が窓太郎虫を握って死んでいる。師匠のパトロンには勘衛門という隠居の爺さんがついていて、そこに乗り込もうという話を江戸川の花見の大船でしていたら、船頭が手裏剣で撃たれて行方不明。なかなか推理能力のありそうな若様ではあっても、やはり抜けがあるもので。けがの功名、というやつ。
顎十郎もどき ・・・ 顎十郎の作者は久生十蘭。花魁が毒のついた吹き矢で次々と殺される。ついには安女郎まで。吉原は大騒ぎ。顎十郎もどきの丹次郎は殺された花魁の源氏名に店名から十二支順に殺しているのではないか、と推理する。大顎をあけたもどきさんは、あいうえおだけで会話をするという離れ業。
半七もどき ・・・ 半七の作者は岡本綺堂。16-7の娘が吉原の中で売っている辻占いの道具が唐琴屋の路地で見つかった。半年前に行方不明になっている娘のものではないかと目星をつけて、辻占売の元締めに探りを入れる。
同じ時代の夜鷹を描いたのが「女泣川ものがたり」、同じ吉原界隈の昭和を描いたのが「ホテル・ディック」シリーズ、同業の花魁を探偵にしたのが「泡姫」シリーズ。という具合に、この作からほかの創作にリンクを張ることができる。そこから、作者の好きなことが見えてくるという仕掛け(というのもおかしな話で、すでにバレバレではあるし、自分で語ってもいるのだがね)。
〈もどきシリーズ〉
2012/10/18 都筑道夫「名探偵もどき」(文春文庫)
2012/10/17 都筑道夫「捕物帳もどき」(文春文庫)
2012/10/16 都筑道夫「チャンバラもどき」(文春文庫)