odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

都筑道夫「名探偵もどき」(文春文庫)

 一応背景を説明しておかないといけない。都心からそう離れていない私鉄の駅のそばにあるスナック「伊留満(イルマン)」がある。その主人・茂都木宏は無類の探偵小説好きで、あまりの熱心さで、ときに探偵そのものになってしまう。コスプレ程度で済むのならよいが、人のもめごとにちょっかいを出しては事件を大きくしてしまう。若奥さんの「私」蘭子は気が気でならない。そんな宏さんの日常生活の冒険。

ヴェルヴェットもどき ・・・ ニック・ヴェルヴェットは価値のないものしか盗まない怪盗。これに入れ込んだ宏は、人の前で女性のパンティを盗んでくれ、という依頼を受ける。で、その仕掛けはスナックにいる客への賭けの誘い。

ポアロもどき ・・・ ポアロは説明不要。スナックの常連山口さんにいたずらな手紙が届く。山口家の父だか息子だかが不倫というか女遊びをしているというか、それをポルノチックに書いた(しかも下手に)もの。で、手紙に書かれた女性を探しに行く。ポアロ茂都木探偵はその女性・兼子が殺されると推理したから。田舎のマンションの一室に、どんどん人が集まってきて、当時としては奇妙極まりない解決にいたる。そうそうポアロ茂都木は推理ではない、別の性癖で事件を未然に防いだ。

ホームズもどき ・・・ ホームズも説明不要(便利なので使おう)。「伊留満」に常連の俳優の台本が盗まれる。いや実はそこに貼ってあったスコッチテープがもんだいなのだ、しかもそれはこの店で使われたものだ、と宏の推理は冴える。そこに、カラオケ・バーグマンに、秘密諜報部員めいた男に、レーンコートの中年男スパイ風が現れて。ホームズにもこういう国際陰謀弾の暗躍話があった(と思うけど自信がない)。

マーロウもどき ・・・ マーロウも説明不要。でもここでは「三つ数えろ」のハンフリー・ボガードの真似(「ボギー、ボギー、あんたの時代はよかった」が流行っていたなあ)。資産家・神崎の娘だったか姪だったかが行方不明になる。彼女の知り合いを尾行している宏は何者かに殴打され失神。で、話は覚醒剤だか麻薬だかの取引に関係している人物の追跡になり、クライマックスは大乱闘。長編ハードボイルド小説の終わり20%を読んでいる感じ。宏の妻の「私」蘭子の意外な過去が明かされる。

コロンボもどき ・・・ コロンボも説明不要(かな、BSやCSではまれに放送しているが)。「伊留満」に常連の翻訳家(の卵)が仕事の構成刷を盗まれる。容疑者は彼の友人たち。で、宏が盗まれたと思われるマンションに行くと、全員が集まっているが、そのうちの一人の女性がバスルームで全裸で絞殺されている。さて、犯人はだれでしょう。コロンボの奥さんの名前はミルドレッド(予想)なのだそうだ。

金田一もどき ・・・ 金田一も説明不要。舞台はハワイ。娘さんだったかがハワイで暮らすようになり、毎年作者はでかけるようになった。だもので、この国未公開の映画をみたりして楽しみ、ハワイを舞台にする小説も書いた。西蓮寺ものにもある。ディスコから若い女性が失踪。駐車場の車のなかで下着姿でみつかる。どうやって衆人環視のディスコからボディを外に出したかが問題。今回は探偵役は謎の日本の老人。このころ金田一最後の事件が発表されたのだった(「病院坂・・」は1977年)。

ルパンもどき ・・・ ルパンも説明不要。常連の女子大生がヌード写真を撮られて、脅迫されている。金の代わりに父の手帳を撮影しろという。その交渉に来た男は店の前で銃弾を浴び、別の男が脅迫を受け継ぐ。作者の好きなマジックネタも登場。

メグレもどき ・・・ メグレも説明不要(かな、現役本は少ないぞ)。毎晩スナックに通って酒を飲みながら電話帳を読む男。続けて7晩もきたので、気になって仕方がない。尾行を開始するメグレ茂都木。一度はチンピラにのされても、彼は懲りない。そして、ある夜、用心棒を吊れた奇妙な男がスナック「伊留満」に現れる。

 自分の記憶が確かなら、紅子シリーズの今谷少年探偵団が集まるのが、スナック「伊留満(イルマン)」だった。レギュラーには翻訳家の卵に、作家センセーに、写真間の若旦那などがいた。そのプロトタイプの人物が名無しでここに集まっていて、もしかしたら紅子もいたのかもね。「名探偵もどき」シリーズはこの7編だけ。スナックの雰囲気が気に入ったので(著者は若いころからのスナック通いをしている通人)、使いまわしたのだろう。大丈夫かな、「名探偵もどき」は1980年単行本初出で、雑誌連載はその前年だろうけど、紅子シリーズは始まっていないよな。調べたら「全戸冷暖房バス死体つき」が1978年。「髑髏島殺人事件」1987年からスナック「伊留満(イルマン)」が登場
 作者によると、名探偵のパスティーシュの方法には、パロディ的な人物を登場さす直接型と、一般人が名探偵になりきるというドン・キホーテ型の2種類があるそうな。後者のほかの例を読んだことがないのは自分の勉強不足(ウィリアム・ブルテン「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」がそうかなあ)。