odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「ロスト・エンジェル・シティ」(徳間文庫)

 冒険スパイ映画は観光映画でもあって、主人公のスパイは世界(とはいえヨーロッパの高級リゾート地ばかりだが)の観光地を経巡りしていたのだった。このパロディ小説でも世界のリゾート(の複製)を訪れる。あと、体内に爆薬を仕掛けられ、あんまり活躍が過ぎると爆破の危険があるというのは円谷プロミラーマン」の設定だな、こりゃ。
 「未来警察殺人課」の続き。現実の地名「ロス・アンジェルス」は天使の街だが、こちらは天使のいなくなった街。ここにシニカルな視線を見ようか。あるいは、同じ町を舞台に活躍した往年のハードボイルドの探偵を思い出そうか。

マンハッタン・マンハント ・・・ 湯浅リエがマンハッタンに入国するとテレパシストは異常を発見した。どうやら当地の麻薬王に自分の作った麻薬をうりつけるつもりなのか。星野の捜査はニューヨーク警察麻薬課の妨害にあって進展が進まない。しかし、リエの接触した精神分析医が麻薬を飲み錯乱状態。動物園の猛獣に麻薬を与えて、パークは大混乱。推理よりもアクションとエロティシズムの面白さ。
空白に賭ける ・・・ カジノの街ニースで日本人の数学者が失踪した。すぐに病院に入院していることがわかったが、彼の言うには「賭博必勝機械を作った、この病院はカジノの系列で退院させてくれない」。そこで彼の持った機械を使ってカジノに出かけたが、これがなんと遠隔操作の小型爆弾。罠にはまった星野の運命は如何に? 二転三転するプロットの妙に感嘆すべし。
殺人ガイドKYOTO ・・・ 京都でマジックショーが開催され、往年の名マジシャンが復活する。そのマジシャンに殺意があるとテレパシストが報告した。星野はマジシャンに接触するも、五層閣なる庭園で彼は消失した。風が自然の笛を吹き抜ける音に気を取られているとき、姿を消したのだ。さてどうやって。マジシャンはこういうときのために双子やそっくりさんを雇うそうだが、それはこの場合うまくいかない。
ロスト・エンジェル・シティ ・・・ ロサンジェルス空港に降り立つと、星野は日本の警察に見放されたと警告が入り、ハイウェイでは交通課に危うく逮捕されるところ。彼は友人の退職した刑事の協力をえて、ハリウッドを模した映画セットに行く。そこにいけば、ロスの殺人課の刑事が集まり、疑いを晴らすことができるだろう。簡易映画を撮影することになり、星野は悪役を演じる。星野に罠を仕掛けたのはだれか、意外な人物。さて、昔みたTV番組や映画の主人公になりかわり、ショートフィルムを作るというサービスは「クレヨンしんちゃん モーレツ大人帝国の逆襲」にあったなあ(遠い目)。
私設殺人課 ・・・ 東京の殺人課の刑事が次々と死んでいる。星野も結婚詐欺の疑いで取り調べを受けた。どうやら殺人課を解体しようという闇の組織があるらしい。誘いにのって千葉のレストランにいくはずが、コンクリート打ちっぱなしの地下室でマッドサイエンティストと戦うことになる。幻覚剤をうたれて朦朧とした意識の戦いは妄想幻魔大戦だ。殺人課のもっとも恐ろしい敵は殺人課自身に他ならないというのが注目点。
ワイキキ・ワンダーランド ・・・ ワイキキに飛んだのは博物学者が行方不明になったため。幸いすぐに保護されて星野の仕事はなくなったのだが、翌朝、悪夢のような幻覚に襲われる。PKDめいた悪夢の描写はみごと。事件は新型幻覚剤をマフィアに渡すことにあるらしい。
有毒夢 ・・・ 海底都市建設の責任者である祐天寺博士に異常が発見される。今回は、新治療法を使うことにした。博士の無意識に潜入し、イマジネイションの中で殺意を調査するのだ。妄想の中だから、殺人の可能。というわけで星野は実験に参加する。まあ、今なら<魂>にネット経由でダイブする、で説明可能なのだろうが、サイバーパンクの始まる前のこと。博士のイマジネイションは西洋中世のソード&ソーサリーの世界。ブック形式のRPGが出始めたころで、同じような設定の話がたくさんあったな。センセーも 「翔び去りしものの伝説」(徳間文庫)という長編を書いている。
赤い闘牛士 ・・・ 今度はマドリッド。日本企業の社長が美人闘牛士との契約に来たとき、彼に強烈な殺意が感じられた。しかし、その直後には殺意は消えている。というわけで、仕事が空振りになりそうな星野は社長を追いかける。美人闘牛士が突然、社長を襲うのに遭遇する。なぜ別の人が殺意のあったはずの社長を襲うのか。事件の謎は数十年前の社長にあるのだが、なかなかハードボイルド的なお話が展開される。

 第2段の初出は1986年。この年にはギブソンニューロマンサー」の邦訳が出ていたので、センセーは参照していたかな(追記:店頭に並んだのが7月ころなので、この作を書いているときには邦訳は読めなかった)。ハードボイルドとサイバーパンクは親和性が高いのかなあ。そういう議論を1980年代に読んだかもしれないなあ。そんなことも思い出せた。